とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜

文字の大きさ
9 / 25

禁制品

しおりを挟む
 金具が外れ、蓋がわずかに軋む音を立てて開いた。
 中からのぞいたのは、布に丁寧に包まれた鉄の剣。

 グレイが一つ取り上げ、布をほどく。
 鈍い光が霧の中で反射した。

「……やはり武器だったか」
 
 低くつぶやく声に、場の空気が凍りつく。

 アナスタシアが息を呑んだ。 
 
「軍用……ですか?」

 グレイは頷く。
 
「形状も刻印も、王都の軍規格に準じてはいる。しかし、王国がそのような物を発注した記録はない。……違法品だ」

 セリーヌはその言葉を聞きながら、静かに視線を落とす。
 箱の中に光る鋼は、彼女にとって見覚えのないものだった。
 
 アナスタシアが顔をしかめる。
 
「こんな量……まるで反乱でも起こすつもりみたいじゃないですか」

 セリーヌは黙って箱の中を見つめた。
 十にも及ぶ木箱、整然と並ぶ刃の列。 
 
 喉の奥が微かに詰まる。
 もし本当に偽造でなければ、これは内部の誰かが手を貸していることになる。
 だが、そんなことはあり得ない。
 彼女が選んだ職人も、帳簿を預かる文官も、十年以上の信頼がある者ばかりだ。 
 
 
 ――誰が、何のために、リュミエールの名を使ってまで。

「……治安局本部へ運んで。詳細な確認はそちらでお願いします」
  
 グレイが頷く。

「了解しました。記録班を呼びましょう。少々暫くお待ち下さい」

 衛兵たちが掛け声を上げ、次々と箱を運び出していく。
 木箱が石畳を引きずる音、鎖の軋み、馬の嘶き。
 それらの音が混ざり合い、南門全体がざわめきに包まれた。

 アナスタシアが小声で呟く。
 
「……セリーヌさん、落ち着いてますね」
「慌てても仕方ないわ。今は事実を確かめる方が先よ」
「そうですけど……こんなの、誰かがわざとやってるとしか思えませんよ」

 セリーヌは答えず、荷車の跡が残る土を見つめた。
 
 ――そう、商会の仲間を信頼するという前提で考えるのなら、誰かが“意図して”動いたとしかいいようがない。
 
 問題はそれが誰なのか。そして、なぜ「リュミエール」を選んだのか。 

 思い返してみれば、ある程度の察しはついていた。
 だが、それを“確信”と呼ぶには、あまりにも根拠が足りなかった。

 

 しばらくして、荷の運搬が一段落したころだった。
 霧の向こうから、重い足音が近づいてくる。

「――セリーヌ様」

 振り返ると、グレイ分隊長が報告書を片手に立っていた。

「準備が整いました。物品はこのまま治安局本部へ移送いたします。もしよろしければ、ご同行を」

「ええ、そうさせてもらうわ」

 セリーヌは短く答え、外套の襟を整える。

「それと――」と、彼は続けて話す。

「この物品を運んでいた御者ですが、現在こちらで尋問を行っています。もしよろしければ、お会いになりますか?」

 セリーヌは短く考え込み、わずかに眉を寄せた。

「……尋問の最中に、私が立ち会っても問題ないのですか?」

 グレイは一瞬ためらうように視線を逸らし、それから静かに頷いた。

「本来であれば、外部の立ち入りは禁じられています。尋問は局内の権限下でのみ行うものですから」

「でしょうね」

「ですが――今回は事情が特殊です。それに貴女の商会名が使われていた以上、参考人として同席することは上層部も容認するでしょう」

「……つまり、例外扱いということね」

「はい。もっとも、発言はお控えいただく形になりますが」

 セリーヌは静かに頷いた。
 例外であれ何であれ、直接相手を見ずに判断するつもりはなかった。

「構いません。彼の顔だけでも見ておきたいです」

 その一言に、グレイはすぐさま部下へ視線を向ける。
 
「詰所を準備しろ。監視は続けておけ」

 衛兵たちが素早く動き出す。
 鎖の軋む音と共に、遠くで誰かが号令をかけた。

 セリーヌが

 
 その一言に、グレイはすぐさま部下へ視線を向ける。

「詰所を準備しろ。監視は続けておけ」

 衛兵たちが素早く動き出す。
 鎖の軋む音とともに、遠くで誰かが号令を上げた。

「詰所まで、馬車で向かいましょう」

「ご一緒しても良いんですか!?」

 驚きと少しの高揚が混じった声だった。
 彼女の目はきらきらと光っている。

 セリーヌはその様子に、わずかに口元を緩めた。
 
「あなたは関係者として同行してもらうわ。報告の際、あなたの証言も必要になるでしょう」

「は、はいっ……! 任せてください!」
 
 勢いよく答えるアナスタシアに、グレイが小さく咳払いをした。

「詰所までの道中は、護衛を厚くします。外には出ないようにお願いします」

「了解しました」
 
 セリーヌは短く答え、外套の裾を持ち上げて馬車へと向かう。

 左右には衛兵たちが並び、馬の手綱を握る者、周囲を見張る者――
  
 その様子は、まるで小さな大名行列のようだった。

 こうして一行は治安局の詰所へと向かっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

〖完結〗お飾り王妃は追放されて国を創る~最強聖女を追放したバカ王~

藍川みいな
恋愛
「セリシア、お前はこの国の王妃に相応しくない。この国から追放する!」 王妃として聖女として国を守って来たセリシアを、ジオン王はいきなり追放し、聖女でもない侯爵令嬢のモニカを王妃にした。 この大陸では聖女の力が全てで、聖女協会が国の順位を決めていた。何十年も一位だったスベマナ王国は、優秀な聖女を失い破滅する。 設定ゆるゆるの架空のお話です。 本編17話で完結になります。

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

「役立たず」と婚約破棄されたけれど、私の価値に気づいたのは国中であなた一人だけでしたね?

ゆっこ
恋愛
「――リリアーヌ、お前との婚約は今日限りで破棄する」  王城の謁見の間。高い天井に声が響いた。  そう告げたのは、私の婚約者である第二王子アレクシス殿下だった。  周囲の貴族たちがくすくすと笑うのが聞こえる。彼らは、殿下の隣に寄り添う美しい茶髪の令嬢――伯爵令嬢ミリアが勝ち誇ったように微笑んでいるのを見て、もうすべてを察していた。 「理由は……何でしょうか?」  私は静かに問う。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。

八雲
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。 普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。

処理中です...