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ウィスの怒り
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上司はウィス様が誰かわかったようだ。テーブルの上のカードを慌てて隠し、他の下級使用人に席を外すように命じた。
そして、自分も困っていると訴えた。下級使用人の取りまとめなのに魔法を使う人間の面倒は見られないそうだ。
「それならこの子は騎士団で預かろう。団長がこの子のことを気に掛けている」
「騎士団長様が? 何かやらかしたのですか。ですが、そうはいっても下級使用人を騎士団で預かるというのは聞いたことがございませんし……」
ウィス様が引き抜くと言うと慌てたように立ち上がった。そしてラズを凄むように睨みつけた。
「ラズ、わかっているな」
上司はラズを見下しているのを隠しもせずに圧をかけた。
孤児院の子供は優秀でも城で働くには下級使用人しか道はない。ラズが上司の望むようにふるわなければ、この先他の孤児達が困るだろうと言外に匂わせた。
こんなところに勤めていて、いいことなんか一つもない。
物がなくなったら『これだから孤児は』と疑われ、『どうせ待ってる人もいないんでしょう』と仕事を押しつけられ、具合が悪くても『死んだって泣く人もいないんだから』って笑われて、それが本当にこの後につづく孤児達にとっていいことなのかわからない。
けれどラズのせいで孤児達の就職先の一つがなくなると思うと躊躇ってしまう。
「どういう意味ですか」
ウィス様は不愉快そうに目を細めた。
言うべきか言わざるべきかと悩むつもりが、口が勝手に動いていた。そうとう溜まっていた自覚はあるし、限界はきていた。
「俺が言うことを聞かなければ、これから先孤児院の子はここに就職できなくなるってことです」
理不尽を飲み込むことには慣れていた。でも、本当にここで働いて、みんなは幸せになれるのだろうか。ラズ一人に仕事を押しつけ、空いた時間にカードをしているこいつらの元で。
「ラズ! お前!」
上司は、ラズが素直に頷くと思っていたのだろう。顔に朱を走らせて、勢いのままラズを殴った。
殴られることだって慣れている。いつもは空気で層を作って衝撃を抑えていたけれど、今回は素で殴られた。身体が傾いだけれど、それだけだ。大した威力はない。仕事を人に押しつけてカードばっかりやってるし、酒も飲んでいるから殴った方がふらついているくらいだ。
「ふざけるな!」
一瞬、ラズは自分が怒鳴ってしまったのだと思った。
ウィス様が恫喝したのだと気付いたときには、上司が魔法で吹き飛ばされた後だった。ガクガクと震えながらウィス様を見上げる上司の目には恐怖が張り付いていた。
「な、何を」
「何をだと? 私は言ったはずだ。騎士団長の命令で引き抜くと。ラズの意志やお前の思惑など関係ない――。この国を護った英雄である団長の命令に、お前ごときが反論できると思っているのか」
ウィス様は冷たい空気を纏わせた。英雄となった騎士団長の部下が団長を侮辱されたと怒っているのだ。
それなら仕方ないよな、俺の意志は関係ないのだから。
「ウィス様、お許しください。上司も俺も反論するつもりなんて……ないんです」
ないんです。で、上司を見る。真っ青な顔で涎も垂れてるのに気付かないまま上司は上下に頭を振った。
「も、もちろんです。どうぞお連れください」
「お前の態度は使用人統括主任へ報告しておく」
チラリとカードを隠した書類と椅子の下に置いてある酒を目視したウィス様は、感情を切り落としたような口調で切り捨てた。
そして、自分も困っていると訴えた。下級使用人の取りまとめなのに魔法を使う人間の面倒は見られないそうだ。
「それならこの子は騎士団で預かろう。団長がこの子のことを気に掛けている」
「騎士団長様が? 何かやらかしたのですか。ですが、そうはいっても下級使用人を騎士団で預かるというのは聞いたことがございませんし……」
ウィス様が引き抜くと言うと慌てたように立ち上がった。そしてラズを凄むように睨みつけた。
「ラズ、わかっているな」
上司はラズを見下しているのを隠しもせずに圧をかけた。
孤児院の子供は優秀でも城で働くには下級使用人しか道はない。ラズが上司の望むようにふるわなければ、この先他の孤児達が困るだろうと言外に匂わせた。
こんなところに勤めていて、いいことなんか一つもない。
物がなくなったら『これだから孤児は』と疑われ、『どうせ待ってる人もいないんでしょう』と仕事を押しつけられ、具合が悪くても『死んだって泣く人もいないんだから』って笑われて、それが本当にこの後につづく孤児達にとっていいことなのかわからない。
けれどラズのせいで孤児達の就職先の一つがなくなると思うと躊躇ってしまう。
「どういう意味ですか」
ウィス様は不愉快そうに目を細めた。
言うべきか言わざるべきかと悩むつもりが、口が勝手に動いていた。そうとう溜まっていた自覚はあるし、限界はきていた。
「俺が言うことを聞かなければ、これから先孤児院の子はここに就職できなくなるってことです」
理不尽を飲み込むことには慣れていた。でも、本当にここで働いて、みんなは幸せになれるのだろうか。ラズ一人に仕事を押しつけ、空いた時間にカードをしているこいつらの元で。
「ラズ! お前!」
上司は、ラズが素直に頷くと思っていたのだろう。顔に朱を走らせて、勢いのままラズを殴った。
殴られることだって慣れている。いつもは空気で層を作って衝撃を抑えていたけれど、今回は素で殴られた。身体が傾いだけれど、それだけだ。大した威力はない。仕事を人に押しつけてカードばっかりやってるし、酒も飲んでいるから殴った方がふらついているくらいだ。
「ふざけるな!」
一瞬、ラズは自分が怒鳴ってしまったのだと思った。
ウィス様が恫喝したのだと気付いたときには、上司が魔法で吹き飛ばされた後だった。ガクガクと震えながらウィス様を見上げる上司の目には恐怖が張り付いていた。
「な、何を」
「何をだと? 私は言ったはずだ。騎士団長の命令で引き抜くと。ラズの意志やお前の思惑など関係ない――。この国を護った英雄である団長の命令に、お前ごときが反論できると思っているのか」
ウィス様は冷たい空気を纏わせた。英雄となった騎士団長の部下が団長を侮辱されたと怒っているのだ。
それなら仕方ないよな、俺の意志は関係ないのだから。
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「も、もちろんです。どうぞお連れください」
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