幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari

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家路へ

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アントニーナは王都から汽車に乗り、ミネルヴィーノ領まで向かった。

汽車の中はすいていて、どこでも好きなところに座れた。フォーと汽笛が豪快に鳴り、汽車は駅を発車した。

アントニーナは専ら馬車での移動が主だが、ときには汽車も利用していた。

景色が流れる。と同時に王太子とマルタとの思い出も記憶の中に流れる。



――あなたの事、守りたいから。



マルタ。


嘘つき。



どうしてなの?



ひたすら車窓を眺めていた。



眼前に広がるのは雪景色だった。



王都と1駅しか無いが、1駅の区間が非常に長いのだ。



そこへ、杖をついた一人の老人が現れた。


白髪頭に白い髭。

さながら仙人のようだ。

「すみません」


アントニーナは顔を景色から老人へと向けた。


「空いている席に座って良いですか?」



「大丈夫ですよ!」


そう言うと、老人は斜め向かいの席に腰をおろした。


「どっこらせっと」

「どこまで乗るのかね?」


老人が話かけてきた。


「ミネルヴィーノ領までです」


「そうか。ワシはもっと先のヴィンカ王国まで乗る」

そして続けた。

「今、王都では大変な事になっているんだよ、知っていたかい?」


大変な事?


ここの王太子が侯爵令嬢に婚約破棄をした事?


そして、その親友の、いや、親友だった公爵令嬢と婚約をした事?


心当たりある節と言えばそれしか思いつかない。



「革命が起きようとしているんだよ」


「革命……ですか?」


革命など初耳だ。


「この国の税金は高すぎると思わないかね?」


貴族令嬢。税金の事など考えた事も無かった。


「高い……と思います」


王族への反発心という意味ではこの老人と意見は変わらない。


「そうだろ? 国民もいつまでも節穴では無いのだ」


老人は杖の先で床を突いた。


「しかも、この国の税金があまりにも高いから、みな税金の安いヴィンカに逃げているんだ。このままではマハッティ王国は過疎化してしまう。我々は慣れた土地から離れたくないのだ」

確かにこの老人からすれば、長年慣れ親しんだ土地から離れるのは酷な話だろう。


オンドス王国は現在大変な状態にあったのは知らなかった。


国王とも何度も謁見したが、ぼったくりレベルにまで税金を徴収するようには思えない。


しかし、王太子自身が婚約破棄を平然とする人物だ。


多額の税金をむしり取るのもありえない話でもない。



「だから、革命が起きるのだ!」


と、老人は言った。



汽車は再び豪快な汽笛を鳴らし、トンネルに入った。


この長いトンネルを抜けるとミネルヴィーノ領に入る。


王太子殿下に婚約破棄をされたと言ったら、家族はどんな反応するだろう?


また、革命はどうなるのだろうか?


「お嬢ちゃん」

「はい?」


「革命の話はくれぐれも秘密だぞ。まだ計画の段階なのだ。何かしらの事情で計画が撤回される可能性もあるからな」

老人はそう言って手元にある弁当を開けた。


長いトンネルを抜けると、相変わらずの雪景色。

「ご乗車ありがとうございました。間もなくミネルヴィーノ、ミネルヴィーノです」

さて。降りる支度をしないと。


アントニーナは老人に挨拶をすると、出口の方へと足を運んだ。


やっと実家だ。


汽車は駅のホームにすべりこんだ。


列車のドアが開き、アントニーナは汽車から降りた。










◇◆◇◆









アントニーナは自宅へと道を進める。


雪を踏む音がどことなく切ない。


まさか王太子からの婚約破棄。

まさかの親友の裏切り。



門の前に立つ。


「アントニーナさま、お久しぶりです」


門番のだった。

「お疲れ様です。諸事情ありまして実家に戻ってきました」

そう言うと、門番は門を開けた。


久しぶりの我が家だ。



そのまま歩みを進める。



「ただいま!」



「お帰りなさいませ、アントニーナさま」

執事のパーシーだった。


「はい、諸事情戻りました」


「諸事情? 王室で何か?」

「聞かないで下さい」


「せめてジョヴァンニさまには事情を説明して下さい」

執事はそう言って踵を返した。



アントニーナは真っ先にジョヴァンニの書斎へと向かった。


部屋をノックする。


「はい!」

端切れの良いバリトンの声。

これぞ父、ジョヴァンニの声だとわかった。


「失礼します」

すると、父、ジョヴァンニが部屋のソファで寛いでいた。


耳までの高さの茶色い髪。髭。

「アントニーナではないか。なぜ帰ってきた? 王室で何かあったのか?」


アントニーナは素直に説明する事にした。


「はい。王太子殿下と婚約破棄になりました」

「何!? 王太子殿下と婚約破棄になっただと?」

ジョヴァンニは驚き、立ち上がった。


「それが、マルタに奪われてしまったのです」

「マルタってあのマルタか?」

「そうです」即答。


「幼い頃、よく一緒に遊んでいたよな? 屋敷によく連れて来ていたよな? あのマルタで間違いないんだな?」



「はい。そのマルタです」


ジョヴァンニはまさかとばかりに顎に手を当てた。


「マルタ。あいつがなぜ?」

ジョヴァンニは椅子に腰を降ろした。


「マルタの裏切りです」

「マルタがまさか……な」

と言ってパイプに火をつけた。


「そしてマルタは言いました。私とは縁を切る、と」


「王太子殿下といい、マルタといい、共に裏切られた感じだな」

パイプに口をつけ勢いよく煙を吐いた。


「そうなんです。私は裏切られました」

「今後どうするんだ、アントニーナ」


「私は聖女になろうと思います」

「そうか。好きにするがよい」

アントニーナは一礼をしてジョヴァンニの部屋をあとにした。
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