幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari

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眠れぬ夜

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なぜ……なぜ……なぜ…マルタ。

小さい頃からよく遊んだよね?

泊まりっこもしたよね?

一緒に紙人形で遊んだよね?


マルタの描いた絵が上手かった事、忘れないよ。



変わりキャラも覚えているんだから。


「おはようケキョ」

「そうだケキョ」

「ホーホケキョ」

ケキョケキョ娘と名付けていたキャラがいたっけ。


そして、


馬鹿といい子に分けて悪役と仲間と遊んだよね?


木登りもしたよね?


木登りをして、木の枝を落とした事があったよね?


そして言われたよね?

お転婆娘って。






マルタ。あなたが裏切るなんて思わなかった。


まさかの親友に婚約者を取られるとは思わなかった。


マルタ。どうして?

私と王太子殿下が婚約したら、「おめでとう」と言ってくれたのに。


どうして?

どうして?


 





アントニーナ、あなたとは縁を切る







友情とはそんなに脆いものなの?


そんな簡単に縁を切ってしまうの?




今晩は眠れない。


とめどなく涙が溢れ、眠れない。






翌朝目が覚めて、雪はやんでいた。


明らかに寝不足だった。





「アントニーナさま」

メイドのティトがやってきた。


「アントニーナさま、お食事の準備ができましたよ」


「ありがとうティト」


そう言って着替える準備をした。


無気力。


どうしてこんなにやる気が出ないのか?


まだ寝ていたかった。


しかし、我慢をして着替えた。

食事位取らなければ家族に心配かけさせてしまう。

アントニーナは着替えて部屋の外に出た。




「姉ちゃんおはよう」

金髪にスカイブルーの瞳。
弟のアーノルドだった。


「アーノルド、おはよう」


「姉ちゃん、元気ないよ」

アーノルドが察していたようだ。


「大丈夫よ、アーノルド。私は元気あるから」

と言ってみせたが、アーノルドは訝しげにこちらを見ていた。


「話は聞いたよ」

「え!? どういう事かしら?」

一体誰から話を聞いたと言うのか。


「父上から聞いたよ。姉ちゃん、王太子殿下と婚約破棄になって家に帰ってきたって」


「え!?」

アントニーナはとぼけてみせた。



「わかるんだからね。姉ちゃん、悲しい顔しているもん」

やはりわかってしまったか。


アーノルドと妹のフロリアーナには黙っていようかと思ったけれど、隠すにも隠せないとわかった。


「お姉様、おはようございます」

肩まで伸びる金髪にスカイブルーの瞳。

フロリアーナだ。


「フロリアーナ、おはよう」

「お姉様が突如戻られたから、何かあったのかと思いましたよ」

その通り。何かがあったのだ。王太子殿下と婚約破棄という出来事が。

しかも、幼馴染の親友マルタの裏切りにあった事も。


「王太子殿下と婚約破棄になっただけではない。親友のマルタにも裏切られたんだ」

透き通るテノールの声。

「酷い! マルタ様は私にもよくしてくれた方。そのマルタ様がなぜ?」

響くソプラノの声。


「実はそうなの。王太子殿下はマルタに取られたの」


二人は一斉に

「えー!?」


と言って顔を見合わせた。


「そうなの。だから……」


下を向いて、右足の上に左足を重ねた。



「王太子殿下も王太子殿下だわ。だって、王太子殿下はマルタとお姉様が仲良かったこと、知っているもの」


そうなのだ。


王太子とマルタ、アントニーナは同級生。


王太子はアントニーナとマルタが親友だった事を知っていた。


そして、いつもいじめから護ってくれたのがマルタと王太子だったのだ。


「そうだよ姉ちゃん。あの二人は裏切り者だ。絶対にいつか罰当たるからな!」


本当に罰が当たればいいのに、と思った。

学生時代のいじめっ子達のように。


「にわかには信じられないわ」

とフロリアーナ。


「私も悪夢を見ているみたいだわ」


夢だったらいいのに。











この後食事だ。

久々の一家揃っての食事になる。


せめて食事の時位は悲しい話を忘れよう、と努めた。










食事が終わり、部屋に戻ってきた。


部屋にはフロリアーナがいる。


ベッドに腰かけ、二人は話をしている。


「フロリアーナ。マルタの事をどう思う?」

「やはり、裏切り者としか思えないわ」

「そうだよね」

「マルタもまたマルタよ。王太子殿下とお姉様が婚約していたのを知りながら、王太子殿下に迫ったのだから」

フロリアーナは組んでいる足を変えて続けた。

「普通だったら遠慮するよね? 婚約者がいるんだから、と。ましてや親友から奪うなんて信じられないわ」

友情がいとも簡単に壊れることをフロリアーナも察したようだ。


「お姉様はよくマルタを家に連れてきていたわね? だから、まさか二人の友情が簡単に壊れるなんてありえないと思っていた」

その通り。婚約者を巡って友情はガラスのような脆くも崩れ去った。

そして、そのガラスの破片は心に突き刺さり、深い傷を負う。
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