婚約を破棄して気づけば私は悪役令嬢でした。

hikari

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第1話

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それは前世の記憶でした。

前世、とある乙女ゲームを友達から借りてプレーしました。

確かこのように妹に婚約者を奪われ、狼狽していた姉。そして妹がヒロインでした。

その通り、妹は背が高くインテリメガネがよく似合っていました。

私に婚約破棄を言い渡してきた王太子の名前も確かコンスタン。

しかも、学園や使用人にナンパばかりしていたっけ……。

「この学園の女性陣は全て知っていますとも」が名セリフ。

そして、私は身長が低いのをコンプレックスにしていた姉のクリスティアーヌ。

姉妹は聖女。

そうよ。私は悪役令嬢のクリスティアーヌに転生したのよ!


確かこのまま家に帰ると父親に勘当されるんだっけ?

父親に勘当された時に画面が揺れていたから、相当な剣幕で怒声を浴びせられるんだろうなぁ……。

私は思わず萎縮してしまいました。

両親は妹の味方なんだっけ?

それで、唯一の味方が弟のルイ。

ルイは次期カロリング家の当主になる。

そのポジションを生かして私を護ってくれるんだっけか。

辛うじて学園に通わせてはもらえたものの、やはり親との仲違いは続く……。

確か隠しキャラもいたっけ?

と、イロイロと独り言を言いながらゲームの物語を整理していました。



私は物語通りカロリング邸に戻ることにしました。

そして、帰宅するなり、父親に今回の婚約破棄を告げました。


そうしたら……。

やはり、雷が落ちました。

案の定の出来事に私は滝に打たれる気持ちになりました。

「お前はわがカロリング家の恥だ! 私の顔に泥を塗った! さあ、家から出て行ってもらおうか。そして、学園も辞めてもらおうか」

身体に電気が走ったかのような衝撃を覚えました。

すると、タイミング良く、弟のルイがやって来ました。

ここもまたゲーム通り。

「父上、待って下さい。姉上を家から追放するのは早計です。それに、学園を退学するにも……」

「王妃教育はもう終わった。こいつはコンスタン王太子殿下と婚約破棄をしたのだぞ」

と言いながら、父は私を指差しました。

「父上、それには賛同しかねます」

「黙れルイ。貴様の一存でクリスティアーヌを家に残すわけにもいかないんだ」

そこに母も入ってきた。

「そうよ、ルイ。クリスティアーヌは王太子殿下の妃として王室に入る予定だったの。それを台無しにしたのよ」

母も私を指差し叫びました。

「実は妹のナタリーに王太子殿下を……」

私はしきりに自分を弁護しました。

「何!? ナタリーと確執を起こしていただと!? ますます許せん」

「ナタリーと王太子殿下。やはりこんなクリスティアーヌなんかよりはよっぽどお似合いだわ」

母が高笑いをしました。

「しかし、父上! 僕は姉上が正しいと思います」

「何で正しいんだ? クリスティアーヌのどこが正しいんだ。正しい根拠を言え!」

「はい。姉上はナタリーに王太子殿下を略奪されました。姉上には何も非はありません」

「ルイ! お前は意地でもクリスティアーヌを庇うのか」

父は唐突に立ち上がりました。

「勿論です。やはり、婚約者を略奪するなどあるまじき行為です。僕は奨励できません」

「でもね、ルイ。家族の和を乱したのはどう考えてもクリスティアーヌなのよ」

「母上もおかしいです。そう。次期カロリング家の当主としてこれだけは言わせて下さい。姉上の追放と学園の退学を撤回して下さい」

父は目頭を抑えながら唸った。

「う~~~。わかった。ルイがそこまで言うなら考えても良い。クリスティアーヌ」

「はい!」

私はハッと目が覚めました。

「お前を庇ってくれたルイに感謝するんだな」

と言って窓際まで歩いていき、戻ってきた。



そして私は部屋を出ました。


やはりここまではゲームのシナリオ通り。

両親は敵。唯一の味方が弟のルイ。

「ルイ。ありがとう」

ルイは鼻を掻きながら

「いえいえ。僕は何があっても姉上の味方ですから。やはり、ナタリーもナタリーだ。どうして姉上から婚約者を奪おうなんて考えたのだろう?」と言いました。

「わからないわ」

そんな時、ゲームの一説を思い出しました。


「お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい!」

と言われ育ってきた。

そして、末妹のナタリーは私から何でも欲しいものをことごとく奪っていった。

パーティードレスから食べ物から何から全て。

対して私は我慢する一方。


きょうだい間のヒエラルキーを感じていた……。



そうか!

きょうだい間のヒエラルキーか!

私はふと思い出しました。


さらに、ナタリーは私のものを悉く欲しがっていたんだっけ……。


だから、王太子殿下を奪っていったのね。

合点がつきました。


「姉上。姉上は何でも我慢してこられた。対してナタリーは我慢が足りません」

心を読んでいるかのようでした。


「ルイ。ありがとう。ありがとう。ありがとう」

私はルイを心の奥底から抱きしめた。


「姉上。僕は絶対に姉上を家から出さない。父上が敵にまわろうと構わない。なぜなら、カロリング家の後継は僕しかいないんだから」と言って続けた。

「ナタリーがもしここにいたら、僕はこっぴどく叱っていた」

ナタリーの行為からきょうだい間の和も乱れてしまいました。


外ではやはりなごり雪。

しんしんと積もる雪に今年の冬がいつもより長く感じた。
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