婚約を破棄して気づけば私は悪役令嬢でした。

プロローグ

私はコンスタン王太子殿下に呼ばれ、彼の待つ執務室に行くことにしました。

コンスタン王太子殿下とは現在婚約をしています。

唐突の出来事でしたので、何が起きるのか予測がつきません。


トントン

部屋のドアをノックすると、バリトンの野太い声がしました。

「どうぞ～」

この声の主こそがコンスタン王太子殿下なのです。


部屋に入ると、コンスタン王太子殿下は足を組み、ソファーにふんぞり返っていました。

そして、左手にはパイプが握られていました。コンスタン王太子殿下は左利きなのです。

私はいつもと違う空気を咄嗟に感じ取りました。

開口一番にこう言ってきました。

「すぅまないねぇ。きみよりも妹のナタリーの方が可愛いんだよねぇ。インテリメガネがまた可愛い。対して姉であるきみは背が低いし、声も低いし聖女としての質をのぞいたらまるでダメ子。従って！　残念だが婚約は破棄させて頂く！」

散々罵倒されて悔しかったわ。

しかも、妹のナタリーと比べられるなんて。

それに背が低いのは何よりものコンプレックス。

あまりのコンプレックスだったので、王太子殿下は絶対に身長の事は言わない約束でした。

それがいざ婚約解消となると、身長の事を解禁。

私はムッとしました。


それにしてもコンスタン王太子殿下は無類の女好きで、ナンパを繰り返してきました。

王室に仕えるメイドをナンパしたり、学園の同級生をナンパしたり……。

特に学園の友人ロザリーに
「夜会おう」
などと言ったのは忘れられません。

ロザリーはその気になって王太子殿下とお付き合いできるものだと信じ込んでいました。

しかし、そう言ったそばでまた違う女性に声をかけるのだから呆れたものです。

とはいえ、結婚適齢期という事もあり、お見合いで私とと結婚する事になっていました。

既に王室、カロリング公爵家共に公認でした。

このナンパ男は私と結婚をする、否、婚約する事で解消するかと周りも思っていました。

しかしら全く変わらず。

しまいには妹のナタリーに手を出す始末。

「要件はそれだけだ。そうとわかったら部屋から出て行って欲しいね」

そう言って王太子殿下は私が部屋から出ていくように促してきました。

そして呑気にパイプを吹かしているのでした。


外に出ると、なごり雪が降っていました。

寒い……。

今年の冬は寒冬になると聞いていましたが、冬がこれほどにも長くなるとは思ってもみませんでした。

私と王太子の婚約破棄を悲しむかのように空も泣いているかのようでした。


と、その時、私は何かを思い出しました。

それは何だか懐かしい何かでした。