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第三章:王太子の想い
2.アーリーン
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「アーリーン様は、これから王子妃教育ですか」
「はい……いえあの、実はその前に、ヤミソン様から昼食を一緒にと誘われていたのですが、どうやら急遽お出掛けになられてしまったようでして。侯爵家への連絡も出されていたようですが、行き違いになったようで一旦家に戻ろうかと思っていたところなのです」
見るからにしょんぼりとしている未来の義妹の様子に、笑みが浮かんだ。
仲の良いふたりは、周囲へ幸せと笑みを運んでくれる。勿論ジュディスもふたりが一緒にいるところを見ているのも、どちらかが嬉しそうに相手の話をしているところを聞いているのも好きだ。平和で幸せそうなその姿をいつまでも見せて欲しいと願うひとりだ。
「あぁ。レットに連れていかれてしまったのでしょう。なにやら至急? 緊急?だと言って、慌てて出て行かれましたわ」
いつも少しの時間だけだったとしても、食事だけでなくお茶の時間などは同席してくれるのだが、「これから出掛けなければならなくなったのでお昼とお茶の時間を一緒に取れそうにない」と伝言があったのだ。
少し残念だけれど、お仕事ならば仕方がないのだろう。
学園を卒業して正式に王太子として任命を受けたレットが、ジュディスの為にほぼ毎日、たとえ顔を見るだけのほんの少しの時間となろうとも、スケジュールを割いてくれているだけでもありがたいことなのだ。日々を感謝すれども、残念に思うのも不敬だろう。
「……そうなのですね、ありがとうございます。出直してまいりますわ」
しょんぼりと肩を落とす姿すら愛らしく、思わず声を掛けていた。
「あの、よろしければ、私とお昼をご一緒して頂いてもよろしいでしょうか」
「! えぇ、勿論。喜んでお受けいたしますわ」
ジュディスが誘うと、アーリーンはすぐに嬉しそうに破顔して受け入れてくれたものの、そのまますっと近付いて耳へと顔を寄せた。
「ジュディス様。今のだと“よろしければ”と“よろしいでしょうか”で二重うになってしまっていますわ。なによりジュディス様の方が立場は上なのです。それほど遜る必要はありませんのよ。“差し支えなければ~ご一緒してください”と誘うのがスマートですわ」
まだまだコベット語は勉強中であるので、単語の選び方や並べ方が不慣れなジュディスを思いやって、駄目だしするだけではなく、こうしなさいと指示するだけでもない。
周囲からは婚約者がいない寂しさを埋めて貰えた嬉しさを伝えているだけに見えるように計らいつつ、こっそりと的確に訂正してくれるアーリーンの優しさが嬉しい。
そのまま一緒に図書室へと向かい、そこでアーリーンから詩集だけでなく流行りの娯楽小説についての教唆を受けたりして楽しく過ごしている間に、有能な侍女がすっかりお昼の手配を済ませてくれたようだ。
「昼食の準備が整いました。いつでもお申し付けください」
ふたりは頷き合って、侍女の後ろをついて食堂に向かった。
貝柱のキッシュ、蟹グラタン、白身魚のムースなど。
どれもひと口大のスプーンへ美しく盛り付けられた前菜から始まった昼食は、エディブルフラワーのマリネサラダ、チーズクリームニョッキと続いていく。
美しく美味しい皿の上の食事は、ふたりの美しい女性たちの会話を盛り上げた。
そうして次々と胃袋へ収められていく。
ニョッキ以外はどれもひと口で食べ終わる程度の量ではあったけれど一品ずつ運ばれてくる上に、品数が多いせいだろうか。
最後にプラリネアイスクリームと最近コベット国にも入ってきた珈琲が出た時には、アーリーンは幸せな悲鳴を上げた。
「あぁ、こんなに食べてはいけない筈なのに! 口へ運ぶ手が止まりませんわ」
「たしかに。この組み合わせは、永遠に味わっていたいわ」
香ばしいプラリネアイスと珈琲の組合せはまさに最高だった。
キャラメリゼされたナッツの香ばしさと冷たいアイスの相性は最高で、アイスで甘くなった口を苦い珈琲がすっきりと洗い流し、また次のひと口のアイスの甘さと香ばしさを引き立て美味しく感じさせてくれる。
急遽用意して貰ったとは思えない豪華な食事を堪能し終えたふたりは、場所を変えてもう少しお喋りに興じることにした。
「あぁ、幸せなお味でしたわね」
「本当です。フリーゼグリーンではあまり乳製品を料理に使うことはないので、珍しくて」
「あぁ、そういえば野菜で作ったスープをベースにされることが多いのですよね」
「はい。それとオリーブから抽出したオイルですね。塩味が基本です。素材の味を活かしたシンプルな味付けのものが多いですね。こちらでは複雑なお味が多いので楽しいです」
「オリーブオイルを控えめにしたら、ダイエットに良さそうですね」
アーリーンがあまりにも真剣なまなざしで呟くので、ジュディスは目を瞬かせた。
「アーリーン様はまったく太ってなどいないではないないじゃない……あー、成長期ですし、太ってはいないではないですか?」
アーリーンの顔を見ながら言い直せば、少し笑って頷いてくれた。
けれど、文章としては良くても、会話の内容については異議があるらしい。
「でも、もうすぐその……」
「そうですね。婚約のお披露目会が近いですものね」
すでにジュディスとレットは、フリーゼグリーン王国で正式な婚約を交わしている。しかし未来の王妃がまったくコベット国の言葉を話せないようでは拙いということで、国内での正式なお披露目はまだされていなかった。
同じく王子妃教育が始まったばかりのアーリーンとヤミソンの婚約のお披露目も、お互いに学生であるということも考慮して当分先としていたのだが、「どうせなら一緒にお披露目してしまおう」ということになったのだ。
「正式な婚約は、まだまだ先の事だと思っていたので。突然すぎて」
「アーリーン様は、これから王子妃教育ですか」
「はい……いえあの、実はその前に、ヤミソン様から昼食を一緒にと誘われていたのですが、どうやら急遽お出掛けになられてしまったようでして。侯爵家への連絡も出されていたようですが、行き違いになったようで一旦家に戻ろうかと思っていたところなのです」
見るからにしょんぼりとしている未来の義妹の様子に、笑みが浮かんだ。
仲の良いふたりは、周囲へ幸せと笑みを運んでくれる。勿論ジュディスもふたりが一緒にいるところを見ているのも、どちらかが嬉しそうに相手の話をしているところを聞いているのも好きだ。平和で幸せそうなその姿をいつまでも見せて欲しいと願うひとりだ。
「あぁ。レットに連れていかれてしまったのでしょう。なにやら至急? 緊急?だと言って、慌てて出て行かれましたわ」
いつも少しの時間だけだったとしても、食事だけでなくお茶の時間などは同席してくれるのだが、「これから出掛けなければならなくなったのでお昼とお茶の時間を一緒に取れそうにない」と伝言があったのだ。
少し残念だけれど、お仕事ならば仕方がないのだろう。
学園を卒業して正式に王太子として任命を受けたレットが、ジュディスの為にほぼ毎日、たとえ顔を見るだけのほんの少しの時間となろうとも、スケジュールを割いてくれているだけでもありがたいことなのだ。日々を感謝すれども、残念に思うのも不敬だろう。
「……そうなのですね、ありがとうございます。出直してまいりますわ」
しょんぼりと肩を落とす姿すら愛らしく、思わず声を掛けていた。
「あの、よろしければ、私とお昼をご一緒して頂いてもよろしいでしょうか」
「! えぇ、勿論。喜んでお受けいたしますわ」
ジュディスが誘うと、アーリーンはすぐに嬉しそうに破顔して受け入れてくれたものの、そのまますっと近付いて耳へと顔を寄せた。
「ジュディス様。今のだと“よろしければ”と“よろしいでしょうか”で二重うになってしまっていますわ。なによりジュディス様の方が立場は上なのです。それほど遜る必要はありませんのよ。“差し支えなければ~ご一緒してください”と誘うのがスマートですわ」
まだまだコベット語は勉強中であるので、単語の選び方や並べ方が不慣れなジュディスを思いやって、駄目だしするだけではなく、こうしなさいと指示するだけでもない。
周囲からは婚約者がいない寂しさを埋めて貰えた嬉しさを伝えているだけに見えるように計らいつつ、こっそりと的確に訂正してくれるアーリーンの優しさが嬉しい。
そのまま一緒に図書室へと向かい、そこでアーリーンから詩集だけでなく流行りの娯楽小説についての教唆を受けたりして楽しく過ごしている間に、有能な侍女がすっかりお昼の手配を済ませてくれたようだ。
「昼食の準備が整いました。いつでもお申し付けください」
ふたりは頷き合って、侍女の後ろをついて食堂に向かった。
貝柱のキッシュ、蟹グラタン、白身魚のムースなど。
どれもひと口大のスプーンへ美しく盛り付けられた前菜から始まった昼食は、エディブルフラワーのマリネサラダ、チーズクリームニョッキと続いていく。
美しく美味しい皿の上の食事は、ふたりの美しい女性たちの会話を盛り上げた。
そうして次々と胃袋へ収められていく。
ニョッキ以外はどれもひと口で食べ終わる程度の量ではあったけれど一品ずつ運ばれてくる上に、品数が多いせいだろうか。
最後にプラリネアイスクリームと最近コベット国にも入ってきた珈琲が出た時には、アーリーンは幸せな悲鳴を上げた。
「あぁ、こんなに食べてはいけない筈なのに! 口へ運ぶ手が止まりませんわ」
「たしかに。この組み合わせは、永遠に味わっていたいわ」
香ばしいプラリネアイスと珈琲の組合せはまさに最高だった。
キャラメリゼされたナッツの香ばしさと冷たいアイスの相性は最高で、アイスで甘くなった口を苦い珈琲がすっきりと洗い流し、また次のひと口のアイスの甘さと香ばしさを引き立て美味しく感じさせてくれる。
急遽用意して貰ったとは思えない豪華な食事を堪能し終えたふたりは、場所を変えてもう少しお喋りに興じることにした。
「あぁ、幸せなお味でしたわね」
「本当です。フリーゼグリーンではあまり乳製品を料理に使うことはないので、珍しくて」
「あぁ、そういえば野菜で作ったスープをベースにされることが多いのですよね」
「はい。それとオリーブから抽出したオイルですね。塩味が基本です。素材の味を活かしたシンプルな味付けのものが多いですね。こちらでは複雑なお味が多いので楽しいです」
「オリーブオイルを控えめにしたら、ダイエットに良さそうですね」
アーリーンがあまりにも真剣なまなざしで呟くので、ジュディスは目を瞬かせた。
「アーリーン様はまったく太ってなどいないではないないじゃない……あー、成長期ですし、太ってはいないではないですか?」
アーリーンの顔を見ながら言い直せば、少し笑って頷いてくれた。
けれど、文章としては良くても、会話の内容については異議があるらしい。
「でも、もうすぐその……」
「そうですね。婚約のお披露目会が近いですものね」
すでにジュディスとレットは、フリーゼグリーン王国で正式な婚約を交わしている。しかし未来の王妃がまったくコベット国の言葉を話せないようでは拙いということで、国内での正式なお披露目はまだされていなかった。
同じく王子妃教育が始まったばかりのアーリーンとヤミソンの婚約のお披露目も、お互いに学生であるということも考慮して当分先としていたのだが、「どうせなら一緒にお披露目してしまおう」ということになったのだ。
「正式な婚約は、まだまだ先の事だと思っていたので。突然すぎて」
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