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転 ジェナの婚家
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「では、ごきげんよう!」
豪奢な馬車に乗ったジェナは満面の笑みで手を振り、男爵家の元をを去って行った。後妻として嫁ぐのは貴族なら良くあることだ。貧乏な貴族の娘にはこの上ない良縁と言えた。
「ふふ、スゴイわ~この馬車ひとつで家が一軒建つのじゃなくって?」下品な物言いをするジェナに伯爵家からやってきた侍女たちはピクリと眉を動かしたが平静を装う。
たしかに二頭立ての馬車は大きく豪華な造りで見事なものだ、護衛らはもちろん馭者でさえ品の有る紳士である。
自分を待つ伯爵家の豪邸とはどのような所か想像するだけで興奮するジェナである、そして、揺られる気持ち良さに居眠りをしていた彼女であったが懐中時計を見て訝しむ。
出立してから5時間近く経つのにも関わらず、邸宅に到着していないからだ。
「ちょっと王都までなら2時間あれば着いたはずよ?いつまでかかるのよおかしいわ!」
車窓を流れていく風景には人家も田園さえも目に映らなかった。不安を覚えたジェナは侍女に詰め寄ったが「ちゃんとお屋敷へ向かっております」とすました顔で返された。
「は、伯爵は王都に住んでないの?」
「はい、タウンハウスはございますが社交シーズン以外は立ち寄りません。常識ですわ」
少し小馬鹿にした返答にジェナは顔を赤らめて怒った、上位貴族のほとんどは巨大なカントリーハウスとタウンハウスと住み分けていた。もちろん、別荘なども幾棟も所持している。
金持ちと貧乏の格差を知らしめられたジェナは悔しがったが、夫人になる自分がその恩恵にあずかれるのだと思えば一瞬の恥などどうでもいいと流す。
そして、侮蔑の視線を向けた侍女を後に仕置きしてやろうと腹黒いことを考えて昏い笑みを浮かべた。
馬車に揺られて7時間後、漸く着いたそこは巨大な要塞のような城だった。
石を積み上げた厳めしい印象の居城を見上げてジェナは瞠目して固まった。
城を護る兵たちも皆屈強で、ガチャガチャと重そうな鉄鎧を着て規則正しい足取りで見廻りをしているではないか。
物々しい雰囲気に飲まれていた彼女は我に返って呟く。
「な、なによこれ?まるで戦でもするかのように……兵がなんでこんなに屯しているの?」
城壁周辺だけでも数十人の兵がいた、恐ろしくなった彼女は震えあがり口を開くとガチガチ歯が鳴るのが不快になった。
「戦場みたい?当たり前だ、ここは国境を護る要塞と居城を兼ねた場所なのだからな」
地を轟かせるような低い声が彼女の背後から聞こえて来た。
悲鳴をあげ振り向くと大柄な壮年の男性が彼女を見下ろしていた、強面のその顔には斜めに走る傷痕があった。彼こそがオルドリッチ伯爵その人である。
「待ち兼ねたぞ我が嫁、せいぜい長生きすることだ。あぁ気を抜けぬ職業ゆえ式は挙げない、今日だけは鍛錬会は許してやろう。侍女よ連れて行け、ただし寝る前の腕立てと腹筋は通常通り100回やらせろ」
「御意」
「ひぃ!?鍛錬てなによ!私は未来の侯爵夫人で……ちょっと乱暴にしないで!嫌ぁ!」
逞しい侍女に首根っこを掴まれ引き摺られていく花嫁を見て、兵達は笑って見送った。そんなことでは辺境伯の妻は務まらないと嫌味を飛ばす。
着いて早々に手荒な歓迎を受けたジェナは欲に目がくらんだことに酷く後悔する。
侯爵予定の伯爵ではなく、”侯爵と同等身分の辺境伯”の聞き違いであったと後に知るのだった。
豪奢な馬車に乗ったジェナは満面の笑みで手を振り、男爵家の元をを去って行った。後妻として嫁ぐのは貴族なら良くあることだ。貧乏な貴族の娘にはこの上ない良縁と言えた。
「ふふ、スゴイわ~この馬車ひとつで家が一軒建つのじゃなくって?」下品な物言いをするジェナに伯爵家からやってきた侍女たちはピクリと眉を動かしたが平静を装う。
たしかに二頭立ての馬車は大きく豪華な造りで見事なものだ、護衛らはもちろん馭者でさえ品の有る紳士である。
自分を待つ伯爵家の豪邸とはどのような所か想像するだけで興奮するジェナである、そして、揺られる気持ち良さに居眠りをしていた彼女であったが懐中時計を見て訝しむ。
出立してから5時間近く経つのにも関わらず、邸宅に到着していないからだ。
「ちょっと王都までなら2時間あれば着いたはずよ?いつまでかかるのよおかしいわ!」
車窓を流れていく風景には人家も田園さえも目に映らなかった。不安を覚えたジェナは侍女に詰め寄ったが「ちゃんとお屋敷へ向かっております」とすました顔で返された。
「は、伯爵は王都に住んでないの?」
「はい、タウンハウスはございますが社交シーズン以外は立ち寄りません。常識ですわ」
少し小馬鹿にした返答にジェナは顔を赤らめて怒った、上位貴族のほとんどは巨大なカントリーハウスとタウンハウスと住み分けていた。もちろん、別荘なども幾棟も所持している。
金持ちと貧乏の格差を知らしめられたジェナは悔しがったが、夫人になる自分がその恩恵にあずかれるのだと思えば一瞬の恥などどうでもいいと流す。
そして、侮蔑の視線を向けた侍女を後に仕置きしてやろうと腹黒いことを考えて昏い笑みを浮かべた。
馬車に揺られて7時間後、漸く着いたそこは巨大な要塞のような城だった。
石を積み上げた厳めしい印象の居城を見上げてジェナは瞠目して固まった。
城を護る兵たちも皆屈強で、ガチャガチャと重そうな鉄鎧を着て規則正しい足取りで見廻りをしているではないか。
物々しい雰囲気に飲まれていた彼女は我に返って呟く。
「な、なによこれ?まるで戦でもするかのように……兵がなんでこんなに屯しているの?」
城壁周辺だけでも数十人の兵がいた、恐ろしくなった彼女は震えあがり口を開くとガチガチ歯が鳴るのが不快になった。
「戦場みたい?当たり前だ、ここは国境を護る要塞と居城を兼ねた場所なのだからな」
地を轟かせるような低い声が彼女の背後から聞こえて来た。
悲鳴をあげ振り向くと大柄な壮年の男性が彼女を見下ろしていた、強面のその顔には斜めに走る傷痕があった。彼こそがオルドリッチ伯爵その人である。
「待ち兼ねたぞ我が嫁、せいぜい長生きすることだ。あぁ気を抜けぬ職業ゆえ式は挙げない、今日だけは鍛錬会は許してやろう。侍女よ連れて行け、ただし寝る前の腕立てと腹筋は通常通り100回やらせろ」
「御意」
「ひぃ!?鍛錬てなによ!私は未来の侯爵夫人で……ちょっと乱暴にしないで!嫌ぁ!」
逞しい侍女に首根っこを掴まれ引き摺られていく花嫁を見て、兵達は笑って見送った。そんなことでは辺境伯の妻は務まらないと嫌味を飛ばす。
着いて早々に手荒な歓迎を受けたジェナは欲に目がくらんだことに酷く後悔する。
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