幸せな花嫁たち

音爽(ネソウ)

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結 アドラ家の最期

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ジェナが嫁いで間もなくの事、アドラ男爵家に異国からの客が尋ねて来た。
大勢の侍従らを引き連れたその人物は立派な身なりの偉丈夫である、レイラを見下していた母親はその一団が彼女に求婚をした人物が率いてきた事を知って腰を抜かす。


「レナルド・オーガスタ様、お久しぶりでございます。ご健勝のようで何よりでございます」
「やぁレイラ、キミも立派なレディになっていて驚いたよ。先妻のアラベラ様によく似た美女に育ったのだね」
その会話を嬉しそうに聞いている父親と、身の置き場に困り縮こまっている母親の姿は実に滑稽だ。

「大恩あるアドラ家の先代のお陰で私はこうして命を落とすことなく返り咲けた、ほんとうに感謝しかない」
「そんな勿体無いお言葉を」
アドラ男爵は深々とその青年に頭を下げている、対面に座るその人物の正体を知らない継母はキョロキョロと視線を動かしていた。
男爵は妻の挙動を見て見ぬふりをして談笑する、居たたまれない彼女は項垂れて耐えるしかなかった。気品溢れる相貌と豪華な装いをしている青年を見て只者では無いと察して畏怖するばかりだ。平民出の妻は畏れ多い相手であると本能で感じた様子だ。

「隠遁生活を終えられた今は早速王都へ向かわれるのでしょうか?道中はお気をつけくださいね」
「ありがとうレイラ、だけどそれはキミも一緒にだといいな」
「え……はぁ」
レナルドと呼ばれた青年はレイラに求婚していた相手で彼女の返事を待てずにこうしてやってきたのだった。
「レイラ・アドラ嬢、どうか私の妻となって共に王都へ来てくれないか?この通りだ」
彼は彼女の前に跪いて手の甲へ唇を落とした。レイラはその触れた箇所から耳まで朱に染めて恥ずかしそうに目を閉じた。

「レイラ返事は?」
「あ、あのオーガスタ様。大変身に余る光栄なのですが……その、お爺様の代での恩返しの為でしたら辞退もうしあげます。そんな昔の縛りの為にしがない男爵の娘など選んではいけないわ……」
祖父の時代に起きた内乱のおり、巻き込まれた王族のオーガスタ公爵家に助力したのが当時のアドラ侯爵なのだ。
彼らの家の者を逃すために私財を賭して助けたという。その後は2段降格となり男爵となった。
政敵から逃れた公爵家だったが、他国へ流れたまま行方知らずになっていた。だがそれは外部に味方を付けるべく奔走していたにすぎない。
オーガスタ家が遁走準備に忙しくしていた数年の間に、度々交流していたレイラ6歳、レナルド7歳の小さな恋は芽吹いていた。

そして、王家転覆が失敗に終わった今の時代、こうして公爵家は生国に帰ってこられたのである。
「レイラ、初恋の君にそんなことを言われたら心に氷棘が刺さったように辛い」
「まぁ?私ごときを……なんてことかしら」
遠慮がちな彼女だが真っ赤に熟れた顔をみれば両想いであったのは隠しようがない。
「縁談をぜんぶ断り続けていたと聞いたが……私は自惚れて良いのかな?」
「……はい。オーガスタ様……ずっとお慕い申し上げておりました」


成り行きを見守っていた母親だったが、相手が若き公爵と知るやゴマするように近寄った。
「まあなんて良縁なんでしょう、このような素敵な方と縁戚になれるだなんて幸運だわレイラなどには勿体ない!でも良かったわ、これでなにもかも安泰ね!」
手の平を返すように擦り寄る母親に対して、レイラは薄気味悪そうに数歩下がり目を眇めた。

「ねえ彼方、この機会に私達夫婦も王都へ行きましょうよ!公爵様の御力添えがあれば屋敷を用意することなど他愛ないでしょう?畑仕事などやめて文官にでも召し上げていただくのよ」
つらつらと好き勝手なことを宣う妻を見て男爵は「ダメだコイツ」という顔をした。
「ほうほう……奥方が言うことも一理ある、どうだろうアドラ殿。私の仕事を補佐してはくれないだろうか?」
「そ、それは有難きお言葉!しかしながら……」
遠慮するアドラだったが「恩返しをさせてくれ」とレナルドに強く請われて受けざるを得なくなった。


近頃は腰を痛めがちだった男爵は力仕事に耐えかねていた所だった。
「良かったわ、お父様。これからもずっと一緒に暮らせるのね」
「あぁ、公爵様には頭が上がらないよ。仕事と住まいまでお世話されてしまった。まさか公爵家の屋敷に部屋を戴けるとは思わなかったよ」
これまで苦労していた父親に、やっと安寧が訪れたことをレイラは何より嬉しいと思うのだった。

ちなみに母親はというと……
王都へ出立する間際に離縁を叩きつけられ、ド田舎に独りぼっちになってしまった。
理由は彼女の歪んだ性格と不貞を働いていたことだ。
継母が産んだジェナは男爵にまったく似ておらず、幼少から疑いをかけていたのだが、大人になった娘の姿が男爵家に出入りしていた御用聞きの男にそっくりに成長したことで確信したのだ。


更に数年後、辺境伯に嫁いだジェナは扱かれながらボロボロになって生きていたが、男爵家の離縁理由が耳に入り、貴族の血が流れていないことが露見して城を追い出された。

その後の足取りは母子ともに不明である。


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