完結 振り向いてくれない彼を諦め距離を置いたら、それは困ると言う。

音爽(ネソウ)

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演じ続ける男

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様々な事が続いて疲弊気味のアメリアはしばらく屋敷に籠ることにした。十日ほどの休学届を出した彼女は騒がしい日々から離れて心を休めている。
ちなみに食事会のことだがやんわりと断わり帰宅していた。シュリーはせっかくの出会いの場をと不満そうだったが幼馴染同士で楽しんでと断わったのだ。
「はぁ……こんなにゆったりした時間は久しぶりね~」

徐々に秋色に染まった邸宅の庭を眺めて、黄金と赤く萌える木々を楽しむ。彼女は僅かに夏の名残が残る今の時期がとても好きだと呟く。言葉を拾うものはいないが一人きりの時間は充実している。
水差しからコップに注ぎ喉を潤していると廊下で控えていた侍女がノックして「緊急です」とドア越しに声を掛けて来た。

急な来客が来たと知らされた彼女は読みかけの本に落ち葉のしおりを挟んで居室を出た。
先触れなしに来たのはシュリーだろうかと思ったが、侍女は頭を振って否定する。どうやら招かれざる客が来たようだ。

「応接室にお通ししたの?」
「いいえ、そのような待遇をする人物ではございません、御用聞き以下の者でございますゆえ」
「まあ?」
訪ねて来た人物に心当たりがない彼女は少し緊張する、侍女は玄関ホールの真上にあるバルコニーへと主を誘った。どうやら直接会うのも憚れる相手のようだ。

アメリアは訝しみながらそっと訪問者がいるであろう箇所を凝視する。すると門兵と護衛兵に囲まれた人物を確認してギョッとした。
「……あなたナサニエル、どうしてここへ?」
ここは王族とも近しい公爵邸だ、平民風情が来て良い所ではない。兵達が緊張して当然である。

「何用ですかナサニエル、貴方が気安く来て良い所ではないわ」
「アメリア!やっと会えた」
彼女の顔を見るや彼は満面の笑みを浮かべて腕をブンブンと振って話がしたいと懇願してきた。
「お話……何を勘違いしているのやら、私と貴方は友人ではなくってよ?」
「え、アメリア?」

「確かに私が下町へ向かえば対等に会話はしますわ。でもそれは貴方の領域に入ったからに過ぎない。でもここは貴族街で公爵の家です、本来なら口すら利きませんし義理もない。平民の貴方は分を弁えなさい」
貴族令嬢としての態度を見せつけられた彼は一気に青褪めて震えだした。
「で、でも学園でだって普通に接してくれたじゃないか」
「あら、それも同じ理由だわ。学園内においては一生徒同士として接触はします。でも学舎は隔たれていた、そういう事よ」
「そ、それは身分が違うと?」
「当たり前です!王子殿下が同級生だからと対等だとでも?首を撥ねられますわ」

厳しい口調でピシャリと言われた彼は「そんなぁ」と呟いて項垂れた。しかし、余程切羽詰まっているのか彼は帰ろうとはしなかった。あれほど輝いて眩しい存在に見えていたナサニエルは、ちょっとばかり容姿が良いだけのただの青年だ。
恋と言うマヤカシが取れた今はアメリアの心はとても冷えて静かである。

「お願いだアメリア!どうか話を聞いて!」
「あら、どのような?あの魔力暴走の最中に私を盾にとって怪我を負わせた言い訳かしら、見舞いも来なかった癖に今更謝罪も要らない、でもその顔は違う用件なのでしょうね。なんて太々しい」
「う……」
想像以上に手厳しい言葉を浴びせられた彼は言葉に詰まった、端から謝罪する気持ちなど全く無かったのだろう。

「だってキミは俺の演技が好きだと褒めてくれたし、もし顔に傷が付きでもしたら舞台に立てなくなるだろう?そしたら互いの損失だ!俺は演劇を休むことになるし、キミは観劇できない!そうだろう?結果劇団にも影響が出るというものだよ、ファンで支援者ならば理解してくれ」
呆れることに謝罪の片鱗さえ見せない彼は自分の利益のことしか念頭にないらしい。

「……彼方が言いたい事は良くわかったわ、演劇のことしか頭にないのね」
「そうか!だったらここへ下りてきて!ちゃんと目を合わせて話をしよう!」
演技臭い仕草をしてアメリアがいるバルコニーへ手を掲げる、どこかの姫に愛を捧げる劇の一場面のような体勢だった。彼女はこう思う”この人はどこまでも都合の良い演技をし続ける人”なのだと。

「貴方って根っからの演者なのね、そうやって素を見せまいと役者の顔を被る。そして私はまんまと騙されてしまったわ、己の為なら女を盾にして逃げるような卑怯な男に」
「ア、アメリア?そんなことを言わないで、とても悲しいよ」
彼は同情を引くような表情を作り彼女を見上げている。

アメリアは視線を外して秋空を眺めるような振りをして言う。
「私ねを観て来たのです、御存じかしらジーガ劇場で演じるスプレーモ歌劇団ことを、とても素晴らしかったわ。どこかの劇団など霞んで消えるほどでしたわ」
「なっ!?スプレーモ……王族が後援しているという一流歌劇団……」

名を聞いた彼はとても敵わない相手と比較されて愕然とした。
「私もね、どうせ支援するならばそのような方々を支えたいと思いましたわ。わかるでしょう?演劇に人生をかけている貴方ならば」
「待ってアメリア!そんな……キミに手を引かれたら俺は、俺達劇団の存続が!」
ここまで言われてもナサニエルは公爵令嬢に縋ろうとして叫び続ける。だが無情にもアメリアはバルコニーから姿を消してしまった。

諦めの悪い彼は、兵達に門外へ追い出されるまで彼女の名を呼び続け、助けを請う言葉を叫んでいた。

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