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格の違いを観た
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「比較しては申し訳ないけれど下町の劇場など犬小屋のようだと思わなくて?」
劇場ジーガへ入場してすぐに従姉のシュリーは辛辣なことを言う、確かに王城の広間のような洗練された内装は素晴らしいものだとアメリアは同意する他なかった。だが敢えて言葉にすることは彼女は控えた。
「んんん、ところで今日の演目はなんですの?」
「三日前から公演しているのは”湖上の貴婦人”というちょっと刺激的な話ですの、許されない恋に落ちた夫人と青年が秘密の愛を育み最後は――という悲恋ですわ」
あらすじを聞いたアメリアは大人の恋とはどんなものかと期待する。
「身を焦がし滅んでも良いと思うほどの深い愛なのね」
「でもねぇ世間体的には宜しくないでしょ?架空だから許されるお話ですわね」
「ええ、確かにね」
劇場は夢を見るところだとシュリーが言う。
アメリアはなんとも言えない気持ちになったが、俳優であるナサニエルは正にそういう存在だったのだろうと目を伏せた。下町の劇場とは違い緩やかにライトの灯りが落とされて美しい音楽が劇場に流れだした。
客が席に着いたところから演出は始まっていたのだとアメリアは気が付く。
湖の畔に佇む夫人の姿がスポットライトに浮かびあがり切ない歌声が響き始めた。
客席全体が湖であり舞台のようだ、夫人は切ない思いの丈を唄う。近くて遠い恋人へ、密かな恋心を懺悔する言葉を夫へと謳うのだ。
歌はもちろん素晴らしいが、その女優の存在感と彼女が放つ気迫は会場全体を飲み込むものだ。
***
「ああ……鳥肌が立ってしまったわ。なんて声量かしら!」
「ほんとねぇ、第一幕から素晴らしいこと後半が楽しみだわ」
長めの演目の為に前後半と分けて披露するようだ、休憩を挟んでの歌劇はとても演出が凝っていた。
「シュリーが言っていたことがわかったわ、下町で見た物が何というか物足りないような」
「でしょう?あちらの劇が陳腐に見えてしまうでしょう」
「嫌だ、シュリー!そんなハッキリ」
窘めるアメリアに対して彼女は悪びれる様子はない。
「だって本当のことですわ、私達はお金を払って芸術を見せて頂いているのよ。同じチケット代ならば選ぶのは決まっていてよ」
「そ、そうだけど……、はぁ、ええそうね格の違いを認めてしまうわ」
始めて体験した歌劇がナサニエルが在籍する劇団であったが、知らないその世界に足を踏み入れ感動をした彼女だった。
しかし、今観たばかりの劇はその感動を丸っと消し去るほどの衝撃を受ける素晴らしさだ。
思い返せば、下町の劇団の演目は学生演じるお遊戯のように感じたのである。
そして、後半。
シュリーの推す男優が演じる秘密の恋人役が熱く滾る思いを旋律に乗せて歌い上げる、唯一無二と言われるその美声はナサニエルの歌声などいとも簡単に上書きしてしまった。
すっかり魅了されたアメリアは知らずに感涙を流し、演目終了の時には割れんばかりの拍手を送っていた。
「あぁ本当の演劇とはこれなのね!なんてことかしら!」
あれほど足げく通っていたブルムゲット歌劇団は、いったい何だったのだろうと後悔しかなかった。
目から鱗という状態の彼女に、シュリーが「会わせたい人がいる」と言って夢見心地のままのアメリアを引っ張ってとある所へ誘った。
「こちらジーガ歌劇団の花形マイルズよ!恋人役の青年を演じていた。ほら、アメリアご挨拶!」
「え?あ?えっと……」
ここの花形マイルズ・レインドースは従姉の幼馴染だと紹介された、いきなりの事に狼狽えてアマリアはどもってしまう。
「初めましてマイルズです、お会いできて光栄だ」燻した銀髪をしたマイルズは青く澄んだ瞳を細めて微笑を浮かべる。
「こ、こちらこそ!アメリア・エンドルフですわ、と、とても素敵な御声に酔ってしまいました!」
とびきりの美形に微笑まれた彼女だが、どう反応して良いか混乱してしまう。
「ね~えアメリア、この人こそが至高だと思わなくて?貴女を怪我させたアンポンタンなんて目じゃないでしょ」
「ちょ、シュリー!言葉が乱れてますわ」
従姉が荒れた物言いをするものだから彼女は窘めて名を呼ぶ。するとその掛け合いが面白かったのかマイルズが大笑いする。
「いや、失礼。ふふ、愛らしいコマドリ達が囀りじゃれ合ってるのが微笑ましくて、つい」
「え、コマドリです、か」
少し年上らしい彼から見れば十代の小娘など眼中にもないのだろうか。アメリアは子供扱いされた気がして少々拗ねて頬を赤くした。
そんな彼女の様子をほっといてシュリーは話を進める。
「どうかしら彼女?なかなかの美人でしょ~」
「うん、そうだね。シュリーとはまた違うタイプだねぇ」と魅惑のバリトンボイスを発しながら彼はアメリアの事を見つめて言う。どうやらお眼鏡にかなったようだ。
「よし!そういうわけでお食事会をしましょう!ね?」
「なにがそういう事!?」
劇場ジーガへ入場してすぐに従姉のシュリーは辛辣なことを言う、確かに王城の広間のような洗練された内装は素晴らしいものだとアメリアは同意する他なかった。だが敢えて言葉にすることは彼女は控えた。
「んんん、ところで今日の演目はなんですの?」
「三日前から公演しているのは”湖上の貴婦人”というちょっと刺激的な話ですの、許されない恋に落ちた夫人と青年が秘密の愛を育み最後は――という悲恋ですわ」
あらすじを聞いたアメリアは大人の恋とはどんなものかと期待する。
「身を焦がし滅んでも良いと思うほどの深い愛なのね」
「でもねぇ世間体的には宜しくないでしょ?架空だから許されるお話ですわね」
「ええ、確かにね」
劇場は夢を見るところだとシュリーが言う。
アメリアはなんとも言えない気持ちになったが、俳優であるナサニエルは正にそういう存在だったのだろうと目を伏せた。下町の劇場とは違い緩やかにライトの灯りが落とされて美しい音楽が劇場に流れだした。
客が席に着いたところから演出は始まっていたのだとアメリアは気が付く。
湖の畔に佇む夫人の姿がスポットライトに浮かびあがり切ない歌声が響き始めた。
客席全体が湖であり舞台のようだ、夫人は切ない思いの丈を唄う。近くて遠い恋人へ、密かな恋心を懺悔する言葉を夫へと謳うのだ。
歌はもちろん素晴らしいが、その女優の存在感と彼女が放つ気迫は会場全体を飲み込むものだ。
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「ああ……鳥肌が立ってしまったわ。なんて声量かしら!」
「ほんとねぇ、第一幕から素晴らしいこと後半が楽しみだわ」
長めの演目の為に前後半と分けて披露するようだ、休憩を挟んでの歌劇はとても演出が凝っていた。
「シュリーが言っていたことがわかったわ、下町で見た物が何というか物足りないような」
「でしょう?あちらの劇が陳腐に見えてしまうでしょう」
「嫌だ、シュリー!そんなハッキリ」
窘めるアメリアに対して彼女は悪びれる様子はない。
「だって本当のことですわ、私達はお金を払って芸術を見せて頂いているのよ。同じチケット代ならば選ぶのは決まっていてよ」
「そ、そうだけど……、はぁ、ええそうね格の違いを認めてしまうわ」
始めて体験した歌劇がナサニエルが在籍する劇団であったが、知らないその世界に足を踏み入れ感動をした彼女だった。
しかし、今観たばかりの劇はその感動を丸っと消し去るほどの衝撃を受ける素晴らしさだ。
思い返せば、下町の劇団の演目は学生演じるお遊戯のように感じたのである。
そして、後半。
シュリーの推す男優が演じる秘密の恋人役が熱く滾る思いを旋律に乗せて歌い上げる、唯一無二と言われるその美声はナサニエルの歌声などいとも簡単に上書きしてしまった。
すっかり魅了されたアメリアは知らずに感涙を流し、演目終了の時には割れんばかりの拍手を送っていた。
「あぁ本当の演劇とはこれなのね!なんてことかしら!」
あれほど足げく通っていたブルムゲット歌劇団は、いったい何だったのだろうと後悔しかなかった。
目から鱗という状態の彼女に、シュリーが「会わせたい人がいる」と言って夢見心地のままのアメリアを引っ張ってとある所へ誘った。
「こちらジーガ歌劇団の花形マイルズよ!恋人役の青年を演じていた。ほら、アメリアご挨拶!」
「え?あ?えっと……」
ここの花形マイルズ・レインドースは従姉の幼馴染だと紹介された、いきなりの事に狼狽えてアマリアはどもってしまう。
「初めましてマイルズです、お会いできて光栄だ」燻した銀髪をしたマイルズは青く澄んだ瞳を細めて微笑を浮かべる。
「こ、こちらこそ!アメリア・エンドルフですわ、と、とても素敵な御声に酔ってしまいました!」
とびきりの美形に微笑まれた彼女だが、どう反応して良いか混乱してしまう。
「ね~えアメリア、この人こそが至高だと思わなくて?貴女を怪我させたアンポンタンなんて目じゃないでしょ」
「ちょ、シュリー!言葉が乱れてますわ」
従姉が荒れた物言いをするものだから彼女は窘めて名を呼ぶ。するとその掛け合いが面白かったのかマイルズが大笑いする。
「いや、失礼。ふふ、愛らしいコマドリ達が囀りじゃれ合ってるのが微笑ましくて、つい」
「え、コマドリです、か」
少し年上らしい彼から見れば十代の小娘など眼中にもないのだろうか。アメリアは子供扱いされた気がして少々拗ねて頬を赤くした。
そんな彼女の様子をほっといてシュリーは話を進める。
「どうかしら彼女?なかなかの美人でしょ~」
「うん、そうだね。シュリーとはまた違うタイプだねぇ」と魅惑のバリトンボイスを発しながら彼はアメリアの事を見つめて言う。どうやらお眼鏡にかなったようだ。
「よし!そういうわけでお食事会をしましょう!ね?」
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