完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)

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エレンディア貧困村へ行く

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「どうして私はジャルドと結婚したのだと思う?」
「……ボクが知る話は義姉殿が兄の見た目に惚れこんだということだけです」
「やっぱり侍女と同じことを言うのね信じがたいことだけど、だってちっとも魅力を感じないもの」
彼女はそう言って冷めた紅茶を口に含んだ。

ガルデロイは少し考えてから「結婚させられたが正解かもしれない」と呟いた。
「あら、そう思うのは何故?」
「母上はあの通りに我儘の塊のような人ですから、雨害のせいで不作の年から困窮していく領地民より己が優先という発言が目立ちました。父は母の言うなりの愚鈍で収入が減ろうが散財を許してしまう……、不正をしてまで貢ぐなんて呆れるばかりです」
先ほど見分したばかりの裏帳簿を指先で弾き彼は苦悶の表情を浮かべる。

「ふむ、なるほどね。私の財をあてに婚姻を結ばせたと……曖昧な記憶どころかスッポリ抜けているのよね」
結婚に至るまでの記憶が丸ごと消え去っていることが、どうにも不自然であると改めて彼女は不審に思う。
悪意による記憶操作を疑わずにおれないのだ。


「それにしても酷い数字が並んでいて吃驚したわ、収支が真逆に記載された表の帳簿はもちろんだけど……綿花栽培で得た利益のほとんどが返済へ充てられて、融資金の八割が卿の懐へ収まっているなんて。領民が飢えて当然だわ」
そう吐き捨てたエレンディアは考えるのも面倒になったと愚痴る。

「面目ないです義姉殿、ボクも領地を視察して不信感を持ちながら父を問い詰めることを遠回しにしていた。愚かなことにボクは家族を信じていたかったんだ」
領民への裏切りを続けていた親を軽蔑すると共に忸怩たる思いであると項垂れている。侯爵家の膿を全て排除する算段はとれたが、汚名返上することは容易ではないだろうとエレンディアも厳しい顔をする。

「とにかく反省するより先にすべきことは山積みだわ、私の融資は直接に領民へ届けるように手配するわ。物資不足は深刻なのでしょう?」
「はい、町村の商店街はまるでゴーストタウンのように活気がありませんでした。商売を諦めて閉じた店が目立ちます、ボクは再び民の笑顔を取り戻し流れてしまった者達を呼び戻し謝罪したい!」
「ええ、そうね。私も尽力するわ」

季節は春で作物の種撒きなどが始まっている、まずはその援助そして食糧の運搬から開始すべく彼女らは動き出した。

「侯爵の不正行為については弁護士に丸投げするわ、こう見えてコレティーノ家は法曹界に知り合いが多いのよ」
不敵に笑う義姉はとても頼もしいとガルデロイは眩しそうに見つめるのだ。彼の心の変化は領地のことばかりではないようだった。

***

失われたエレンディアの記憶のことも捨て置けないが、先ずは困窮している町村への援助が最優先事項だと彼女は働いた。
「私の記憶は疎らで合致しないことが多すぎる……今日明日で解決するわけがない」
彼女は自ら荷馬車に乗り込み物資を積み、ひと際貧しいと判断された村へ急いでいた。麦を始めとする穀類を多めにそれから日持ちする加工肉を大量に買い込んだ。

「すぐに炊き出しも始めなければね!忙しくなるわよ」
「はい、お手伝いはお任せを!あの、エレンディア様、当初は失礼なことをして参りました。申し訳ありません」
彼女付きの侍女カルメは深く頭を垂れて謝罪をした。その様子を正面から見据えて「そうね、でも反省してくれたならそれで良い」と微笑み返した。

そして、村の出身であるらしいメイド達が有難いことだと感涙して同行していた。
「エレンディア様のためならばどこへでも着いていきますから!」
「私もです!薬と医者の手配までしてくださって感謝に堪えません!」
村にも診療所はあったが、務めていたはずの医者一家は他所へ引っ越したままだと聞いたエレンディアはまずは民の健康を危惧したのだ。

「良いのよ当然のことだもの、納得はしてないけど一応は侯爵家に籍を置いている身、領民は私の家族のようなものだわ、要請したいことはドンドンいいなさい、遠慮してはダメよ?」
「ありがとうございます!」

半日がかりで到着した村は想像以上の寂れようだった。
メイドの生家であるそこも古色蒼然という有様で、村全体の立て直しは中々に骨になると覚悟をする。
「食糧と物資不足が解決したら大工の手配が必要ね、良く冬を越せたものだわ」
いまにも倒壊しそうな住人らの家屋を一通り見分して、彼女はさっそく依頼書を作成していた。

「そうね、仮住まいの長屋を多く建てて夏までは辛抱していただきましょう。いっきにできないのがもどかしいわ」

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