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一騒動 機に乗じる嫁
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少々手荒な計画の実行であったが、義弟ガルデロイが全面協力すると申し出てくれたことは幸いだった。彼もまた侯爵家の金銭の流れに疑問を抱いていたからだ。
「良く思いつきましたね、何故かワクワクしますよ!」
「ふふふ、意外とヤンチャですのね心強いことですわ。思いついたのは家業のお陰かしらね」
城務めをしていないメルゾニア卿とジャルドは余程の事がないと家を空けない。仮に遊びに出たところで書類などは厳重に隠すのは当然だ。そして、家を預かる家令はほぼ年中屋敷に常駐しているのだ。
難攻不落の堅めに見えて、日々、平穏に暮らしている彼らは油断も大きいはずとエレンディアは考えた。
「見込み通りならば大慌てで屋敷から出て行くはずよ!命あっての物種というじゃない」
「流石ですね義姉殿、早く実行しましょう」
俄然乗り気らしい義弟は頬を紅潮させて今か今かと身構える。
「侍女の皆!準備は良くて?なるべく大騒ぎして頂戴ね、成功するには貴女方の名演技に掛かっているのだから」
「畏まりましたエレンディア様、すべては領民の為!」
「私も頑張ります!実家は綿花農家なのです、家族を苦しませる輩は許せません!」
「私もです!」
「お任せを声の大きさには自信がありますよ!」
侍女メイド達はよほど鬱憤が溜まっていたらしく、侯爵らを一泡吹かせたい様子だ。なんとも頼もしいことかとエレンディアは満足だ。
「では、行くわよ!」
彼女は手にした筒状の物のキャップを外して「ジャッ」と擦り合わせた、するとすぐに火が吹いて煙がモウモウと噴き出したではないか。
それを確認した侍女達は一斉に走り出して大騒ぎを始めるのだった。
「火事よー!火事ですよー!」
「きゃーーーー!助けてくださいませ!」
「書斎近くから発火しましたわ!危険ですわ!」
「お逃げ下さいませ!火事でございます!」
そうエレンディアが発案したのは発煙筒を使用した偽の火事である、身の危険が迫ると人はパニックに陥って正しい判断が出来なくなるというもの。偽物の火煙とは気が付くはずがない。大事な書類があろうと先ずは己の身を案じるものである。
事情を知らされていない家令と執事たちは大慌てで侯爵を避難させようと書斎へ駆けつけた。
「だ、旦那様!お早く!煙が酷いです、吸い込まぬようにお逃げ下さい!」
「あ、ああ……助けろ腰が抜けてしもうた……ひぃぃぃ!」
坊ちゃん育ちのメルゾニア卿は予期せぬハプニングに弱いらしく、床に震えて動けなくなっていた。両脇と脚を抱えられてやっと脱出という有様だ。
夫人は偶然にも他家の茶会に招かれて留守だった、余計な邪魔者が不在だったことは功を奏した。
充満する煙の中で侍女、メイドは名演技を発揮して逃げ惑い悲鳴を上げて走り回る。
この喧騒が余計に卿と侍従らを混乱させたようで、我先と玄関へ飛び出して行く。その中に半裸のまま飛び出してきたらしいジャルドと愛人の姿があった。昼間から寝室でよろしくやっていたようだ。
無様な彼らは屋敷を出てモクモクと舞い上がる煙を見上げて青褪め慄いた。加えてガルデロイが仕掛けた炎に見立てた赤い閃光が火事を演出する。彼は光魔法が得意なのだ。
「アーハハハハッ愉快痛快!いつもすまし顔の家令の慌てぶりは面白い!」
「ちょっと遊びではなくってよ!早く書斎を探して頂戴な」
「あ、そうだった!ごめん義姉殿」
卿たちが晒した醜態を見物している侍女達は「ざまぁ!いつも偉そうに」と胸がすいたと喜んでいる。彼女らはあくまで騒動を演技する役なのでエレンディアは好きにさせてやる。
「義姉殿!ありましたよ、丁度記帳していた所だったようで、二重帳簿が丸投げになってます」
「良かった!すぐに持ち出しましょう、焼け焦げた偽帳簿とすり替えるのよ!」
廊下から出火したという体での火事劇はこうして幕を閉じたのだ。
ご丁寧にも壁や床を煤けたように偽装をしたメイド達は「汚す仕事がこれほど楽しいとは思いませんでした」と大笑いするのだった。
余談だが火元から離れた位置にある婦人の部屋へワザワザ発煙筒を投げやり、燻したような異臭を付けたのはオマケである。
後に帰宅した夫人は惨状を見て金切声を上げたのは言うまでもない。
しかし、火元の原因がガルデロイの葉巻であると報告されて怒るに怒れない状態になった。
「ごめんね母上、最近に嗜むようになったシガーに夢中でつい……」
「ま、まあ……ロイちゃんがおイタしちゃったのねぇ。もう、困ったちゃんだわぁ」
誰より大切な愛息に上目を使われて悲し気に「許して」と哀願されては流石の夫人も癇癪が起こせない。
してやったりなガルデロイは「月一で火事を起こそうかな」と物騒なことを呟いた。
「発煙筒を利用するとはね、良くある手とはいえ良い効果でした」
「うふふ、危険で広大な鉱山現場では良く使われるものよ。ご先祖の物持ちの良さに感謝だわ」
ちなみに現物は古すぎて湿気て使い物にはならならず、新しいものを取り寄せての決行だった。
「良く思いつきましたね、何故かワクワクしますよ!」
「ふふふ、意外とヤンチャですのね心強いことですわ。思いついたのは家業のお陰かしらね」
城務めをしていないメルゾニア卿とジャルドは余程の事がないと家を空けない。仮に遊びに出たところで書類などは厳重に隠すのは当然だ。そして、家を預かる家令はほぼ年中屋敷に常駐しているのだ。
難攻不落の堅めに見えて、日々、平穏に暮らしている彼らは油断も大きいはずとエレンディアは考えた。
「見込み通りならば大慌てで屋敷から出て行くはずよ!命あっての物種というじゃない」
「流石ですね義姉殿、早く実行しましょう」
俄然乗り気らしい義弟は頬を紅潮させて今か今かと身構える。
「侍女の皆!準備は良くて?なるべく大騒ぎして頂戴ね、成功するには貴女方の名演技に掛かっているのだから」
「畏まりましたエレンディア様、すべては領民の為!」
「私も頑張ります!実家は綿花農家なのです、家族を苦しませる輩は許せません!」
「私もです!」
「お任せを声の大きさには自信がありますよ!」
侍女メイド達はよほど鬱憤が溜まっていたらしく、侯爵らを一泡吹かせたい様子だ。なんとも頼もしいことかとエレンディアは満足だ。
「では、行くわよ!」
彼女は手にした筒状の物のキャップを外して「ジャッ」と擦り合わせた、するとすぐに火が吹いて煙がモウモウと噴き出したではないか。
それを確認した侍女達は一斉に走り出して大騒ぎを始めるのだった。
「火事よー!火事ですよー!」
「きゃーーーー!助けてくださいませ!」
「書斎近くから発火しましたわ!危険ですわ!」
「お逃げ下さいませ!火事でございます!」
そうエレンディアが発案したのは発煙筒を使用した偽の火事である、身の危険が迫ると人はパニックに陥って正しい判断が出来なくなるというもの。偽物の火煙とは気が付くはずがない。大事な書類があろうと先ずは己の身を案じるものである。
事情を知らされていない家令と執事たちは大慌てで侯爵を避難させようと書斎へ駆けつけた。
「だ、旦那様!お早く!煙が酷いです、吸い込まぬようにお逃げ下さい!」
「あ、ああ……助けろ腰が抜けてしもうた……ひぃぃぃ!」
坊ちゃん育ちのメルゾニア卿は予期せぬハプニングに弱いらしく、床に震えて動けなくなっていた。両脇と脚を抱えられてやっと脱出という有様だ。
夫人は偶然にも他家の茶会に招かれて留守だった、余計な邪魔者が不在だったことは功を奏した。
充満する煙の中で侍女、メイドは名演技を発揮して逃げ惑い悲鳴を上げて走り回る。
この喧騒が余計に卿と侍従らを混乱させたようで、我先と玄関へ飛び出して行く。その中に半裸のまま飛び出してきたらしいジャルドと愛人の姿があった。昼間から寝室でよろしくやっていたようだ。
無様な彼らは屋敷を出てモクモクと舞い上がる煙を見上げて青褪め慄いた。加えてガルデロイが仕掛けた炎に見立てた赤い閃光が火事を演出する。彼は光魔法が得意なのだ。
「アーハハハハッ愉快痛快!いつもすまし顔の家令の慌てぶりは面白い!」
「ちょっと遊びではなくってよ!早く書斎を探して頂戴な」
「あ、そうだった!ごめん義姉殿」
卿たちが晒した醜態を見物している侍女達は「ざまぁ!いつも偉そうに」と胸がすいたと喜んでいる。彼女らはあくまで騒動を演技する役なのでエレンディアは好きにさせてやる。
「義姉殿!ありましたよ、丁度記帳していた所だったようで、二重帳簿が丸投げになってます」
「良かった!すぐに持ち出しましょう、焼け焦げた偽帳簿とすり替えるのよ!」
廊下から出火したという体での火事劇はこうして幕を閉じたのだ。
ご丁寧にも壁や床を煤けたように偽装をしたメイド達は「汚す仕事がこれほど楽しいとは思いませんでした」と大笑いするのだった。
余談だが火元から離れた位置にある婦人の部屋へワザワザ発煙筒を投げやり、燻したような異臭を付けたのはオマケである。
後に帰宅した夫人は惨状を見て金切声を上げたのは言うまでもない。
しかし、火元の原因がガルデロイの葉巻であると報告されて怒るに怒れない状態になった。
「ごめんね母上、最近に嗜むようになったシガーに夢中でつい……」
「ま、まあ……ロイちゃんがおイタしちゃったのねぇ。もう、困ったちゃんだわぁ」
誰より大切な愛息に上目を使われて悲し気に「許して」と哀願されては流石の夫人も癇癪が起こせない。
してやったりなガルデロイは「月一で火事を起こそうかな」と物騒なことを呟いた。
「発煙筒を利用するとはね、良くある手とはいえ良い効果でした」
「うふふ、危険で広大な鉱山現場では良く使われるものよ。ご先祖の物持ちの良さに感謝だわ」
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