完結 穀潰しと言われたので家を出ます

音爽(ネソウ)

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港街ヴォルタポート

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奇しくも同じ街で宿を取ることになったベルナティとブリジッタたちだ。最初はエンカウントせずに過ごせたのは僥倖と言えた。ところが五日後の夕餉の時間にそれは起こった。

「ベルナティお姉様!?どうしてここに!」
「え……ブリジッタ、お久しぶりね」
ヴォルタポート一の高級ホテルを選んだことが災いして二人は顔を合わせる事になってしまう。姉の方はともかくブリジッタは気に入らないという顔をする。

その横にはトンマゾがいて「誰ぇ?」とマヌケな事を言っている。
相手がひとりと侮ったブリジッタは彼にしな垂れかかり不遜な態度をとる。

「貧乏人のお姉様が見栄を張って宿泊していますの?分不相応だわ!出て行ってくださらない?」
「まぁ、そんな事はできないわ、だって」
チラリと背後を見たベルナティは愛する夫を探している、すぐに気が付いたライモンドが駆け寄り妻の手を取る。

「何かトラブルかい?私のハニー」
「ええ、そうなの。が騒ぎ立てて困っているの」
頬に手を添えてそう言う彼女は美しい眉をハチの字にして彼に寄り添った。それを目の当たりにした妹のブリジッタはライモンドの顔を思い出して青褪める。

トンマゾはまたもポカンとして、「ねぇご飯に行こうよ」と呑気に言っている。
「しっ!黙ってて!相手が悪いわ」
「ええ~?」



「ガ、ガルボリーノ伯爵令息!?どうしてお姉様と……婚約白紙になったはずだわ」
「やあ、ブリジッタ相変わらず意地汚い性分のままだね、その悪辣な顔を鏡で見たことが無いのかい?悍ましい!まるで悪鬼そのものだ」
「んな!」

目上の伯爵に言われて反論できずに震える彼女はまさに悪鬼だった。唇を噛みしめブルブルと震え睨みを利かせている。とてもではないが褒められた態度ではない。

トンマゾは空気になって事の成り行きを見ていた。貴族ではない彼はどこ吹く風である。

かつては色目を使い『どうか私を婚約者に』とにじり寄ったが相手にされず『君は自分の顔を知っているのか』と唾棄された。それ以来、苦手としてる男性だ。

「どうでもいいが挨拶もまともに出来ないようだな、さあ行こうか夕飯が冷めてしまう」
「ええ、そうね」
「あ……ぐっ、失礼いたしました……」
数歩下がりお辞儀をするほかなかった、相手は目上の伯爵夫人となった姉だ。どうする事も出来ない。たった一つの爵位の違いとはいえ相手は上位貴族で雲泥の差がある。そのことが悔しくて堪らない。




「きぃ~!頭に来ちゃう!きぃ~きぃ~!」
部屋に戻ったブリジッタは言いようのない怒りをベッドの枕に当たり散らす。そのうち中身がはみ出てきて羽毛が飛び散る。

「ちょっとやめてくれよ、あーあ、羽だらけじゃないか」
「うっさいわね!人の金で泊まっている癖に生意気よ!アンタが平民じゃなければ!きぃ~!」
「そんな……ごめんよぉ、怒らないで、ね?ブリジッタ」
「う~悔しい!……この部屋のランクはデラックスだったわね?もっと上のは取れないの?」

悔しい思いをした彼女はせめて最高ランクの部屋に移りたいと思った。それくらいでしか姉に勝てないと思うのだ。
「え~?そうだなぁやぱっりスィートか、レジデンスかなぁキッチン付き。一月泊まるならレジデンスにする?」
「それがいいわ!そうして頂戴!」
「でも待って予算が……」

一泊数百万する部屋である、お金のことを気にするトンマゾは乗り気ではない。いくら3億あるからと使い過ぎである。
「いいの!これくらいしなきゃ勝てないもの!」
「……あぁわかったよ、後で文句言わないでよねぇ」




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