6 / 9
港街ヴォルタポート
しおりを挟む奇しくも同じ街で宿を取ることになったベルナティとブリジッタたちだ。最初はエンカウントせずに過ごせたのは僥倖と言えた。ところが五日後の夕餉の時間にそれは起こった。
「ベルナティお姉様!?どうしてここに!」
「え……ブリジッタ、お久しぶりね」
ヴォルタポート一の高級ホテルを選んだことが災いして二人は顔を合わせる事になってしまう。姉の方はともかくブリジッタは気に入らないという顔をする。
その横にはトンマゾがいて「誰ぇ?」とマヌケな事を言っている。
相手がひとりと侮ったブリジッタは彼にしな垂れかかり不遜な態度をとる。
「貧乏人のお姉様が見栄を張って宿泊していますの?分不相応だわ!出て行ってくださらない?」
「まぁ、そんな事はできないわ、だって」
チラリと背後を見たベルナティは愛する夫を探している、すぐに気が付いたライモンドが駆け寄り妻の手を取る。
「何かトラブルかい?私のハニー」
「ええ、そうなの。元妹が騒ぎ立てて困っているの」
頬に手を添えてそう言う彼女は美しい眉をハチの字にして彼に寄り添った。それを目の当たりにした妹のブリジッタはライモンドの顔を思い出して青褪める。
トンマゾはまたもポカンとして、「ねぇご飯に行こうよ」と呑気に言っている。
「しっ!黙ってて!相手が悪いわ」
「ええ~?」
「ガ、ガルボリーノ伯爵令息!?どうしてお姉様と……婚約白紙になったはずだわ」
「やあ、ブリジッタ相変わらず意地汚い性分のままだね、その悪辣な顔を鏡で見たことが無いのかい?悍ましい!まるで悪鬼そのものだ」
「んな!」
目上の伯爵に言われて反論できずに震える彼女はまさに悪鬼だった。唇を噛みしめブルブルと震え睨みを利かせている。とてもではないが褒められた態度ではない。
トンマゾは空気になって事の成り行きを見ていた。貴族ではない彼はどこ吹く風である。
かつては色目を使い『どうか私を婚約者に』とにじり寄ったが相手にされず『君は自分の顔を知っているのか』と唾棄された。それ以来、苦手としてる男性だ。
「どうでもいいが挨拶もまともに出来ないようだな、さあ行こうか夕飯が冷めてしまう」
「ええ、そうね」
「あ……ぐっ、失礼いたしました……」
数歩下がりお辞儀をするほかなかった、相手は目上の伯爵夫人となった姉だ。どうする事も出来ない。たった一つの爵位の違いとはいえ相手は上位貴族で雲泥の差がある。そのことが悔しくて堪らない。
「きぃ~!頭に来ちゃう!きぃ~きぃ~!」
部屋に戻ったブリジッタは言いようのない怒りをベッドの枕に当たり散らす。そのうち中身がはみ出てきて羽毛が飛び散る。
「ちょっとやめてくれよ、あーあ、羽だらけじゃないか」
「うっさいわね!人の金で泊まっている癖に生意気よ!アンタが平民じゃなければ!きぃ~!」
「そんな……ごめんよぉ、怒らないで、ね?ブリジッタ」
「う~悔しい!……この部屋のランクはデラックスだったわね?もっと上のは取れないの?」
悔しい思いをした彼女はせめて最高ランクの部屋に移りたいと思った。それくらいでしか姉に勝てないと思うのだ。
「え~?そうだなぁやぱっりスィートか、レジデンスかなぁキッチン付き。一月泊まるならレジデンスにする?」
「それがいいわ!そうして頂戴!」
「でも待って予算が……」
一泊数百万する部屋である、お金のことを気にするトンマゾは乗り気ではない。いくら3億あるからと使い過ぎである。
「いいの!これくらいしなきゃ勝てないもの!」
「……あぁわかったよ、後で文句言わないでよねぇ」
839
あなたにおすすめの小説
妹の方が良かった?ええどうぞ、熨斗付けて差し上げます。お幸せに!!
古森真朝
恋愛
結婚式が終わって早々、新郎ゲオルクから『お前なんぞいるだけで迷惑だ』と言い放たれたアイリ。
相手に言い放たれるまでもなく、こんなところに一秒たりとも居たくない。男に二言はありませんね? さあ、責任取ってもらいましょうか。
【完結】婚約者の誕生日パーティーで婚約破棄されました~2ヶ月早く産まれただけでババアと言う人なんて私だって御断りです~
山葵
恋愛
プライム伯爵令嬢のカレンには婚約者がいた。
ラングラン侯爵家の嫡男ガイラルト様だ。
ガイラルト様は、私との婚約に不服だった。
私の方が1学年上なのと、顔が好みではないらしい。
私だって、そんな不満を顔に出してくる婚約者なんて嫌だ。
相手が侯爵家でなければ、お父様に頼んで縁談を断って貰っていた。
そんな彼が誕生日パーティーで婚約破棄すると言ってきた。
勿論、大歓迎だ!!
婚約者の私には何も買ってはくれないのに妹に好きな物を買い与えるのは酷すぎます。婚約破棄になって清々しているので付き纏わないで
珠宮さくら
恋愛
ゼフィリーヌは、婚約者とその妹に辟易していた。どこに出掛けるにも妹が着いて来ては兄に物を強請るのだ。なのにわがままを言って、婚約者に好きな物を買わせていると思われてしまっていて……。
※全5話。
〖完結〗妹は病弱を理由に私のものを全て欲しがります。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢のアイシャは、第一王子のリアムと婚約をしていた。
妹のローレンは幼い頃から病弱で、両親はそんな妹ばかりを可愛がり、ローレンの欲しがるものはなんでも与えていた。それは、アイシャのものでも例外はなかった。
「アイシャは健康でなんでも出来るのだから、ローレンが欲しがるものはあげなさい。」
そう言われ、ローレンが欲しがるものはなんでも奪われて来た。そして、ローレンはアイシャの婚約者であるリアム王子をも欲しがった。
「お願い、お姉様。リアム王子が好きなの。だから、私にちょうだい。」
ローレンが欲しがる事は分かっていた、そして両親も、
「ローレンは身体が弱いのだから、婚約者を譲りなさい。」
と、いつもどおりの反応。
ローレンは病弱でも何でもありません。演技が上手いだけです。
設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
姉の代わりになど嫁ぎません!私は殿方との縁がなく地味で可哀相な女ではないのだから─。
coco
恋愛
殿方との縁がなく地味で可哀相な女。
お姉様は私の事をそう言うけど…あの、何か勘違いしてません?
私は、あなたの代わりになど嫁ぎませんので─。
俺って当事者だよな? 知らぬ間に全てを失いました
碧井 汐桜香
恋愛
格上であるサーベンディリアンヌ公爵家とその令嬢ファメリアについて、蔑んで語るファメリアの婚約者ナッツル・キリグランド伯爵令息。
いつものように友人たちに嘆いていると、第二王子であるメルフラッツォがその会話に混ざってきた。
姉の歪んだ愛情に縛らていた妹は生傷絶えない日々を送っていましたが、それを断ち切ってくれる人に巡り会えて見える景色が様変わりしました
珠宮さくら
恋愛
シータ・ヴァルマは、ドジな令嬢として有名だった。そして、そんな妹を心配しているかのようにずっと傍らに寄り添う姉がいた。
でも、それが見た目通りではないことを知っているのといないとでは、見方がだいぶ変わってしまう光景だったことを知る者が、あまりにも少なかった。
特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する
下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。
ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる