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遊学篇
ロマンよりマロン
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帰宅したアイリスは王子の言葉に魂を抜かれていた。
「しっかりしてください、お嬢様!」
「……どういう意味だと思う?」
問われてもなんの話だとルルは困った顔をする。
「あ、ごめんね。……いつく虫ってなんだと思う?」
「はぁ虫の話ですか?」
「違うわ、いつ蒸し!じゃなくて。凍てつく虫……じゃなくて!!」
1人でボケて突っ込むアイリスの様子にルルはお手上げになった。
呆れる侍女に「お願い聞いて」と縋るが意味不明すぎて、さすがのルルも落ち着いてから聞きます。と匙を投げた。
久しぶりに晩餐に参加すると言っては「やっぱり止める!」とゴネる主にルルは強引に食堂へ連れて行った。
「あら、アイリス。ひさしぶりに同席なのね」叔母が嬉しそうに出迎える。
「我儘ばかりしてごめんなさい、叔父様、叔母様」
叔父のポール・マウゼオ公爵は穏やかに微笑んでいた、口髭を生やしたお洒落な御仁である。
「はは、やっとまともに顔が見られたね。学園はどうだい?」
「はい、ご紹介いただいたお陰で順調です。友人も出来そうです」
それは良かったとややタレ目をさらに下げて叔父は微笑む。
食事を仲睦まじく摂る叔母夫婦をうらやましく見るアイリス。じぶんにもこんな伴侶はできるだろうかと想像する。
「当分無理ね」
ぽそりと呟いた声を正面に座るセイン王子が「なにが無理なの?」と聞いてきた。
「なんでもありません、お気にせず」アイリスはニコリと返す。
仲直りした様子の二人に叔母はニヤニヤ観察していた。なにか親展ありかと詮索したかったが、アイリスの性格上拗れかねないと我慢する叔母。
「ところでねアイリス、来月に王妃様の茶会があるの。あなたも一緒にどう?」
「……そうですね、お友達が欲しいから参加しようかしら」
良い返事をしたアイリスにベルグリーンの流行りのドレスを仕立てましょうと張り切る。
「お、叔母様手持ちのドレスがありますわ」
「なに言ってるの!郷に入っては郷に従えよ、向こうのドレスは浮いてしまいます」
そんなものかとアイリスは首を捻る、さほどデザインの差はない気がしたのだ。
「うちには娘がいないからね、甘えてやっておくれ」
叔父もすすめるので断れなかった。
叔母夫婦の長男は家庭を持ち領地運営をしており、次男は王城へ勤めて独身寮生活をしているそうだ。
「子供が成人してしまうとハリがないのよね、次男は結婚はまだしたがらないしツマラナイわ」
叔母はほうっと小さな溜息を漏らした。
「だからねぇアイリス、甘えてくれると嬉しいわ」
「はい、わかりましたわ叔母様」
早速仕立て屋を呼びましょうと叔母は目を輝かせて喜ぶ、セインも参加したそうにしていたが女子限定と聞いてガッカリしていた。
***
「まぁ!スカーレットも茶会へ行くのね、楽しみが増えたわ」
講義を終えた午後、学園内のカフェで会話を楽しむアイリスたち。
「ええ、上級貴族はほぼ招待されるのよ。嫁選びも兼ねてね」
「よめ?」
「今年17になられる双子の王子がいるの、なかなか相手が決まらないようなの」
「へぇ、私には関係ない話だわ」
マロンケーキに夢中のアイリスは恋心はない。
「呑気ねぇ、あなただって適齢期でしょ。王子に見初められるかもよ?」
「ええ、国外の人間を選ぶとか政略丸出しで嫌よ!」
そういうと思ったわとスカーレットが笑う。
そこへ聞き覚えのある声がすぐそばで聞こえた。
「嫁候補がなんだって?」
セイン王子だ、なんだか険しい顔をしている。
「立ち聞きなんてマナー違反よ?」
「立ってないからセーフだね、ほら座ってるでしょ?」
そういうことじゃないだろとアイリスは据わった目でセインを見つめる。
「そうね、アイリスにはセイン殿下がいらっしゃるもの!」
「ほげっ!?」
淑女ならぬ声を発したアイリスにセインが大笑いした。
「もう!スカーレットが変なこというから……」
「あらぁ、学園では二人は婚約間近だって噂よ?違うの?」
「「違う、わない」」
かみ合わない二人の反応にスカーレットは目を白黒させる。息ぴったりなのにと不思議そうにしている。
「いつ婚約の話なんてしましたか!」
「じゃあしようよ?私はいつでも大丈夫だし待機してるよ」
軽いセインの発言にアイリスは「また揶揄って!嫌いよ!」と膨れてしまう。
揶揄ってないし本気だとセインは言い募るが、臍を曲げたアイリスは口をへの字にしたままだ。
「アイリス素直にならないと取られちゃうわよ?」
スカーレットはカフェの奥を目線で指す。そこには6人の女子がこちらを凝視していた。
明らかにセイン王子が目的だ。
「モテモテですね、セイン殿下」
「セインって呼んでと言ったよね?」
「敬称をつけないなんて恐れ多いですわ、ホホホ」躱すアイリス。
「……散々不敬を働いておいて?今更でしょ」
それから急に真顔になったセイン王子は「茶会までに根回ししとこう」と言った。
「しっかりしてください、お嬢様!」
「……どういう意味だと思う?」
問われてもなんの話だとルルは困った顔をする。
「あ、ごめんね。……いつく虫ってなんだと思う?」
「はぁ虫の話ですか?」
「違うわ、いつ蒸し!じゃなくて。凍てつく虫……じゃなくて!!」
1人でボケて突っ込むアイリスの様子にルルはお手上げになった。
呆れる侍女に「お願い聞いて」と縋るが意味不明すぎて、さすがのルルも落ち着いてから聞きます。と匙を投げた。
久しぶりに晩餐に参加すると言っては「やっぱり止める!」とゴネる主にルルは強引に食堂へ連れて行った。
「あら、アイリス。ひさしぶりに同席なのね」叔母が嬉しそうに出迎える。
「我儘ばかりしてごめんなさい、叔父様、叔母様」
叔父のポール・マウゼオ公爵は穏やかに微笑んでいた、口髭を生やしたお洒落な御仁である。
「はは、やっとまともに顔が見られたね。学園はどうだい?」
「はい、ご紹介いただいたお陰で順調です。友人も出来そうです」
それは良かったとややタレ目をさらに下げて叔父は微笑む。
食事を仲睦まじく摂る叔母夫婦をうらやましく見るアイリス。じぶんにもこんな伴侶はできるだろうかと想像する。
「当分無理ね」
ぽそりと呟いた声を正面に座るセイン王子が「なにが無理なの?」と聞いてきた。
「なんでもありません、お気にせず」アイリスはニコリと返す。
仲直りした様子の二人に叔母はニヤニヤ観察していた。なにか親展ありかと詮索したかったが、アイリスの性格上拗れかねないと我慢する叔母。
「ところでねアイリス、来月に王妃様の茶会があるの。あなたも一緒にどう?」
「……そうですね、お友達が欲しいから参加しようかしら」
良い返事をしたアイリスにベルグリーンの流行りのドレスを仕立てましょうと張り切る。
「お、叔母様手持ちのドレスがありますわ」
「なに言ってるの!郷に入っては郷に従えよ、向こうのドレスは浮いてしまいます」
そんなものかとアイリスは首を捻る、さほどデザインの差はない気がしたのだ。
「うちには娘がいないからね、甘えてやっておくれ」
叔父もすすめるので断れなかった。
叔母夫婦の長男は家庭を持ち領地運営をしており、次男は王城へ勤めて独身寮生活をしているそうだ。
「子供が成人してしまうとハリがないのよね、次男は結婚はまだしたがらないしツマラナイわ」
叔母はほうっと小さな溜息を漏らした。
「だからねぇアイリス、甘えてくれると嬉しいわ」
「はい、わかりましたわ叔母様」
早速仕立て屋を呼びましょうと叔母は目を輝かせて喜ぶ、セインも参加したそうにしていたが女子限定と聞いてガッカリしていた。
***
「まぁ!スカーレットも茶会へ行くのね、楽しみが増えたわ」
講義を終えた午後、学園内のカフェで会話を楽しむアイリスたち。
「ええ、上級貴族はほぼ招待されるのよ。嫁選びも兼ねてね」
「よめ?」
「今年17になられる双子の王子がいるの、なかなか相手が決まらないようなの」
「へぇ、私には関係ない話だわ」
マロンケーキに夢中のアイリスは恋心はない。
「呑気ねぇ、あなただって適齢期でしょ。王子に見初められるかもよ?」
「ええ、国外の人間を選ぶとか政略丸出しで嫌よ!」
そういうと思ったわとスカーレットが笑う。
そこへ聞き覚えのある声がすぐそばで聞こえた。
「嫁候補がなんだって?」
セイン王子だ、なんだか険しい顔をしている。
「立ち聞きなんてマナー違反よ?」
「立ってないからセーフだね、ほら座ってるでしょ?」
そういうことじゃないだろとアイリスは据わった目でセインを見つめる。
「そうね、アイリスにはセイン殿下がいらっしゃるもの!」
「ほげっ!?」
淑女ならぬ声を発したアイリスにセインが大笑いした。
「もう!スカーレットが変なこというから……」
「あらぁ、学園では二人は婚約間近だって噂よ?違うの?」
「「違う、わない」」
かみ合わない二人の反応にスカーレットは目を白黒させる。息ぴったりなのにと不思議そうにしている。
「いつ婚約の話なんてしましたか!」
「じゃあしようよ?私はいつでも大丈夫だし待機してるよ」
軽いセインの発言にアイリスは「また揶揄って!嫌いよ!」と膨れてしまう。
揶揄ってないし本気だとセインは言い募るが、臍を曲げたアイリスは口をへの字にしたままだ。
「アイリス素直にならないと取られちゃうわよ?」
スカーレットはカフェの奥を目線で指す。そこには6人の女子がこちらを凝視していた。
明らかにセイン王子が目的だ。
「モテモテですね、セイン殿下」
「セインって呼んでと言ったよね?」
「敬称をつけないなんて恐れ多いですわ、ホホホ」躱すアイリス。
「……散々不敬を働いておいて?今更でしょ」
それから急に真顔になったセイン王子は「茶会までに根回ししとこう」と言った。
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