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シャルドリーヌの評価
しおりを挟む「なるべく彼女と顔を合わせない様に」
「……はい、わかりました旦那様」
腕の傷を隠してそう述べるシャルドリーヌは益々俯き加減だ。先ほどバネッサ・アレオンと庭園でバッタリ会ってしまい、彼女の機嫌を損ねたのだ。
この屋敷において序列は愛人が上らしい、雇われの身の女主人は大分格下扱いなのである。
事の顛末は挨拶をした、しないで始まった。
『ふん、金で雇われているだけの癖に生意気なのよ!そのドレスは有名テーラーの物でしょう、あんたには勿体ないわよ!』
そう言うが早いか、愛人の尖った爪がシャルドリーヌの絹のドレスを引っ搔いた。柔らかにして上等な刺繍を施したそれはあっけなく裂かれた。しかも肌を掠めたのか流血沙汰になる。
『あぁ嫌だ!汚らわしい血が付いたじゃない!どうしてくれるのよ!』
『も、申し訳ございません……』
散々な物言いのバネッサは止まらない、咄嗟に彼女の頭髪を掴むと引き千切らんばかりに引っ張って横倒しにする。着いていたメイド達は悲鳴を上げて逃げ惑う。
そこに偶然に通りかかったオーギュスタンが『なにをしている!』と叫んだ。事の次第を聞いた彼だったが、さも当たり前のように愛人を庇った。
『どうせキミの不注意だろう、こんなにバネッサを怒らせるなんて!彼女はとても嫋やかで優しい人なんだぞ』
『は、はい、ごめんなさい』
腕を深く引っ掻かれた彼女は血を流しながら詫びるしかなかった。すべてはアレオン伯爵家の為だ、彼女は言い訳すら言えない立場なのだ。
***
止血するために屋敷に戻ったシャルドリーヌは治癒術を施す、痛みに耐えながらそれをするのはかなり消耗する。なにも出来ないメイド達は泣いて詫びるしか出来ない。
「申し訳ございませんでした奥様!私達は立場的に意見など言えず……」
メイド達はハラハラと泣いて謝る、しかし彼女は責める事をしなかった。
「良いのよ、何も問題ないわ。それよりも貴女たちは心的外傷を受けたのではと心配だわ」
「まぁ奥様!なんてお優しい!」
「そうです、あんな愛人の方が余程害悪ですわ!」
この件を境に一気に株を上げたシャルドリーヌは侍女やメイド達を味方に付けた。真に優しいのは女主人であると位置づけされたのだ。そして尽くせば尽くすほどメイドらを評価した、そうやって益々と彼女を敬うのだった。
「あぁ、奥様に褒められたわ!刺繍のハンカチを下さったの」
「あら、私なんて指が痛むでしょうと軟膏を下さったわ!」
「私なんてねぇ!ええと!ええと」
この変化はあからさまに愛人バネッサとの贔屓が酷くなる、表ざっての差はないのだが茶を淹れる度に菓子などに差を付けた。バネッサにクッキーが付けば、シャルドリーヌにはケーキが出される。
「奥様、今日はチーズケーキを焼いてみました!味わってください」
「ムースもありますよ!」
「まぁ有難う!とても嬉しいわ」
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