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見窄らしい嫁と食事
しおりを挟む訳あり令嬢を嫁にしたオーギュスタンは式も挙げずに済ませた。世間には「彼女を誰の目にも晒したくない」のだと独占欲をアピールした。それを聞いた貴族達は「よほど幼な妻を溺愛しているのだろう」と噂した。暫くは好奇の目を向けられたが、それも少なくなっていく。
「やれ、当初はどうなるかと思ったが今は何某侯爵家の醜聞に目が向いたようだ。タイミングが良かったよ」
「ふうん、一体何をやらかしたの?」
愛人は爪磨きに夢中で話半分に聞いていた、脱税をしていたとか横領を働いたとか、そんな話をしたがやはり興味がないらしく「へーそう」と生返事が返ってきた。
「私は美容の話しか興味を魅かれないわぁ、そう言えば見てこの潤った唇をトリートメントオイルを塗ったのよ」
「あぁ、とても魅力的だとも。私を虜にする魔女」
「ふふ、魔女はないでしょう?」
軽くリップ音を立てて二人は離れた、侍女やメイドたちには刺激的な事を見せはしない。あくまでしおらしい愛人として振る舞うことを心得ているのだ。それから二人は別行動をして彼は食堂へ、彼女はそのまま部屋で軽い食事を摂る。
「やぁ、シャルドリーヌ。よく眠れたかい?」
「……はい、旦那様。いつも通りです」
だだっ広い食堂でポツンと座ってオーギュスタンの到着を待っていた彼女は頭を下げる。最初は腰をかけていた椅子から立ち上がって挨拶していたが、それを制さられる事を彼女は知り頭を下げるのみにした。
「では、食事にしよう。まずは白湯を頼む」
そんな風に畏まって始まる食事は味気ない、シャルドリーヌは砂を噛むように蒼い顔をして食事をすすめる。何を食べても味がしないと彼女は思った。そんなだからいつも残しがちだ。
「ごめんなさい、いつも残してしまって……」
彼女は料理長にそう詫びた、頭を下げてくる女主人に「とんでもない」と大慌てだ。地下厨房に降りてくるだけでも大事なのに雇用人に詫びを入れるシャルドリーヌに「どうか頭を上げてください」と言う。
「何か至らないのはこちらです、その……食べたいものはないですか?用意しましょう」
「まぁ、気を使わせてごめんなさい。えと……林檎をすり下ろしたものを出来たらここで食べて良いかしら」
おずおずという彼女に料理長はホッとしてすぐに準備しますと答える。
「あぁ……美味しい、やっと味がしたわ」
***
「その体型はどうにかならないのか?ガリガリじゃないか」
シャルドリーヌの体型では何を着せても見窄らしく見えた、痩せ細った体躯ではどんなに上等の服を着せても”服に着られている”という状態なのだ。
「も、申し訳ありません。努力します」
「あぁ、もういい。貧相な其方に期待したのが悪かった、今後は一人で食べてくれ、こっちまで気分が駄々下がる」
「はい……」
それからというもの三度の食事は時間をずらして摂られるようになった。
するとどうだろう味気ないと思った食事が美味しく感じたのだ。
「なんてこと、とても美味しいわ!スープも焼いたお肉も!」
シャルドリーヌはあまりの美味しさにペロリと平らげた。
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