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伯爵令嬢は契約する
しおりを挟む二頭立ての立派な馬車がアレオン伯爵邸に横付けされた。伯爵家はお世辞にも立派とは言えない佇まいで、そのチグハグさが情けない。馬車の持ち主はバダンテール公爵家である。何故公爵がそのような貧乏貴族に会いに来たかと言えば不似合いな縁談であった。
そして、両親を外しての相談が始まる。
「どうだろうかシャルドリーヌ様、我が家に来ていただけないだろうか?」
「え……と、どうして私なのでしょう」
困惑するシャルドリーヌはまだ十四歳の幼さだ、端から見れば尻に殻が付いたままのひな鳥と立派になった成鳥だ。求婚してきたオーギュスタン・バダンテールは公爵家の嫡男で他に受け継ぐ者がいなかった。今年で二十歳になる。
「まぁ聞き給え、実は契約婚をしていただきたいのだ。もちろん、キミ達には十分な資金を援助することを約束しよう。どうだろう、悪くない話だと思うんだが」
「ま、まぁ……援助!?我が家にですか」
名ばかりの貴族であるアレオン伯爵家は代々継がれたその名を護るのに必死だった。
人の良い伯爵は友人に騙されて保証人になり莫大な借金を抱えているのだ。
彼女の反応を見て愉悦に微笑むオーギュスタンだ、すると応接間の扉が無遠慮に開かれてある女性が入って来た。見るからに高慢ちきそうな相貌をしている。
「あら、どんな女狐かと思えばまだ子供じゃないの!気合入れてきて拍子抜けだわ」
「やぁ、バネッサ。こっちにおいで」
華やかな姿をした女性は彼の秘密の恋人だと言う、身分は平民だがその装いは上等だ。彼女の出で立ちを見て愛人バネッサ・アリオンの方が余程貴族令嬢らしい恰好をしていると気が付く、シャルドリーヌは自分の貧しい装いが途端に恥ずかしくなって俯いてしまう。
「それで返事は?私と契約しないか?期間は3年、もし上手くいったら延長しても良い」
「あらそれはダメよぉ、私との約束を忘れたの?」
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貧しさから社交にも出ていないシャルドリーヌを丁度良いと見定めたのである。
目の前にはどっさりと置かれた札束がある、支度金だとオーギュスタンは目を眇めてそう言った。
「いま一度聞こう、私の仮初の伴侶になってくれないか?」
彼はトントンと札束を指で突いて言葉を促す。そう答えはわかりきっていた。
「……はい、宜しくお願いします、優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」
苦渋の決断をしたシャルドリーヌそう言うと、奥の部屋でソワソワしている両親を呼ぶ。
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