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泣きじゃくるロミーを自分の馬車へ招きいれて宥めるセシルはドレスの状態が悪い事に気が付いた。
「事情を話してくれないかい、一体なにがあったの?こんなに目を腫らして可哀そうだ」
彼は心から心配だという顔をして、泣きはらした彼女の頬を絹のハンカチで拭ってやる。
「うぅ、セシルさま。あのね、あのね、お茶会に行けなかったの!みんな意地悪なのよ!メイドのフリをしないと連れて行かないと言ったり、せっかくのドレスも破られてしまったわ!そしてしまいには屋敷から追い出されたのよ!私はもうどやって生きて行けば良いのか!ふえぇぇえん」
泣きながら自分の悲劇を訴えるロミーに、驚きながら聞き入るセシルは不審に思いながらも彼女が嘘を吐く理由がないとも思うのだ。
「それが本当ならば許されることではない!なんて非情な一家なんだ!」
「そうでしょ、そうなの!あの人たちは私が嫌いなんだわ、虐めて楽しんでるんだわ」
メソメソしくしく泣くロミーは大粒の涙を光らせて庇護欲を誘い続ける。
「ところでなぜセシルさまはお茶会に誘ってくれなかったの?」
「え?王妃、王女の茶会は男子禁制なんだよ、当然の常識なんだが……あれ?ひょっとしてロミーは平民なのか!?」
婚約者の友人だと聞いていた彼はロミーも貴族嬢だとばかり思いこんでいた。急に余所余所しくなったセシルの様子に慌てるロミーはこう言った。
「わ、わたし私生児なの。その……伯爵の隠し子でずっと屋敷に隠れ住んでいて。でもお姉様、リアだけは小さい頃から優しくて友人として接していたわ、でもね婚約が決まってから変わってしまったの。みんなと同じに私を苛めるようになったわ。だけど、どうしても御祝の言葉を届けたくてパーティに……そしたら変な騒ぎになってしまって招待してないのになぜ来たとリアに怒られちゃったグスン」
つらつらと嘘八百を並べるロミーだが、迂闊なセシルはすべて鵜呑みにしてワナワナ震えた。
「なんてことだ!見損なったぞコリンソン伯爵!こんな可愛らしい娘を無いものとして扱うとは!ということは愛人を……なにが社交界一のおしどり夫婦だ!とんだ虚像じゃないか!」
許し難しと怒り狂うセシルだが、”なんだコイツ、単純なバカじゃない”と舌をだすロミーであった。
「薄幸なロミー、任せておいて!ボクに言い考えがある!キミの人生を華やかなものに変えてあげよう」
「まぁ、ほんとうですか?嬉しいわセシルさま!」
「セシルと呼んでくれ!ボクのロミー!」
がっしりと抱き合う二人だったが、それを台無しにする音が鳴った。
「ぐぎゅーぐるるっるごぼ」
「……」
「ご、ごめんなさい、ずっとご飯を食べてなくて」
「なんだって!それはいけない。すぐにボクの家で食事を用意させよう!食事までまともに与えていないなんてどこまでも酷い一家だな!」
「え、ええそうで」グギュー……
***
時が進んでコリンソン邸談話室にて。
「そうか、パーティでの騒ぎは耳にしていたがセシル殿は篭絡されてしまったのだな」
「はい、頬を染めてそれは愛おしそうに抱きしめてらっしゃいましたわ」
あろうことか婚約者を差し置いて「ドレスを贈る」とまで言ったというセシルに不信感と憤りをおぼえる夫妻である。婚約発表をした即日に浮気をするような青年に対して信頼という文字は霧散した。
「忙しくなるな、醜聞がついてまわるだろう。リアは暫く別邸で暮らしてはどうだろうか?」
「私だけ逃げるのですか?家名を穢したのは私ですのに……」
「そもそも、裏切り行為をしたのはあちらなのだ、子細が出回れば落ち着くだろう。辛抱しておくれ」
父親に済まないと頭を下げられては従うほかないとオフェリアは身を隠すことに同意した。
娘が別宅へ出立したのを見届けると、コリンソン伯爵は婚約に関して話し合いをしたいとメッセージカードにペンを走らせた。
しかし、それが書き終わる前にセシル側から猛抗議と婚約破棄の申し出が届いて夫妻を驚かせるのだった。
数日後、バーノル伯爵当主自らがコリンソン邸に現れて「申し訳ない」と頭を下げて来た。
「この度はうちのバカ息子が御迷惑をおかけして誠に……申し訳ないことです」
「い、いや。抗議文は届きましたがどうにも信じがたい内容でしてな」
応接室に通すなりセシルの父が謝罪をしてきたので泡を食う。まずは落ち付いて貰おうとブランデーを落とした紅茶を提供した。バーノル伯爵は香りを楽しんでから一口飲むと長いため息を吐いた。
「どうも……アレは根も葉もない嘘を吹聴されたようでして、貴殿に隠し子いたと名誉を傷つけるようなことを言っておりました」
「ああ、その通りの事が手紙にも書いて寄越してます。確認されますか?」
封筒を出されたバーノルは「拝見します」と礼をして手紙を開いた。そしてみるみると顔を青くしてなんということだと項垂れた。
――
前略
早速ですがコリンソン伯爵フェリア嬢との婚約を白紙に戻したいと申し上げます。
理由は大まかに二つ、一つは性格の悪さです。彼女はロミー嬢に対して酷い仕打ちを長年にわたり行ってきた。愛らしいロミーに醜い嫉妬をもって虐げて来たのです。なんと嘆かわしいことか。ボクは失望した。
そして二つ目、貴殿の不貞の末にもうけた娘を認知することを拒否したあげく隠して育てて来たことです。受けるべき教養も身につけられず、社交界にも出られない。こんな不当な扱いが許されるわけがない!彼女の尊厳と権利を奪ってきたことに対する慰謝料を要求したい。もちろん、婚約破棄に対する慰謝料も請求させていただく。だが、ロミーを実子として認め伯爵家の籍におき、新たなボクの婚約者と認めるのなら相殺します。
良い返事を待っています。
セシル・バーノル
――
「なんだこの頭の悪い文は!教養の欠片も感じない!……あぁ私の末っ子だった。育て方を間違えたお恥ずかしい」
バーノルは顔を赤くして怒り情けなさに白くなった。忙しい顔色だとコリンソンは思った。
「事情を話してくれないかい、一体なにがあったの?こんなに目を腫らして可哀そうだ」
彼は心から心配だという顔をして、泣きはらした彼女の頬を絹のハンカチで拭ってやる。
「うぅ、セシルさま。あのね、あのね、お茶会に行けなかったの!みんな意地悪なのよ!メイドのフリをしないと連れて行かないと言ったり、せっかくのドレスも破られてしまったわ!そしてしまいには屋敷から追い出されたのよ!私はもうどやって生きて行けば良いのか!ふえぇぇえん」
泣きながら自分の悲劇を訴えるロミーに、驚きながら聞き入るセシルは不審に思いながらも彼女が嘘を吐く理由がないとも思うのだ。
「それが本当ならば許されることではない!なんて非情な一家なんだ!」
「そうでしょ、そうなの!あの人たちは私が嫌いなんだわ、虐めて楽しんでるんだわ」
メソメソしくしく泣くロミーは大粒の涙を光らせて庇護欲を誘い続ける。
「ところでなぜセシルさまはお茶会に誘ってくれなかったの?」
「え?王妃、王女の茶会は男子禁制なんだよ、当然の常識なんだが……あれ?ひょっとしてロミーは平民なのか!?」
婚約者の友人だと聞いていた彼はロミーも貴族嬢だとばかり思いこんでいた。急に余所余所しくなったセシルの様子に慌てるロミーはこう言った。
「わ、わたし私生児なの。その……伯爵の隠し子でずっと屋敷に隠れ住んでいて。でもお姉様、リアだけは小さい頃から優しくて友人として接していたわ、でもね婚約が決まってから変わってしまったの。みんなと同じに私を苛めるようになったわ。だけど、どうしても御祝の言葉を届けたくてパーティに……そしたら変な騒ぎになってしまって招待してないのになぜ来たとリアに怒られちゃったグスン」
つらつらと嘘八百を並べるロミーだが、迂闊なセシルはすべて鵜呑みにしてワナワナ震えた。
「なんてことだ!見損なったぞコリンソン伯爵!こんな可愛らしい娘を無いものとして扱うとは!ということは愛人を……なにが社交界一のおしどり夫婦だ!とんだ虚像じゃないか!」
許し難しと怒り狂うセシルだが、”なんだコイツ、単純なバカじゃない”と舌をだすロミーであった。
「薄幸なロミー、任せておいて!ボクに言い考えがある!キミの人生を華やかなものに変えてあげよう」
「まぁ、ほんとうですか?嬉しいわセシルさま!」
「セシルと呼んでくれ!ボクのロミー!」
がっしりと抱き合う二人だったが、それを台無しにする音が鳴った。
「ぐぎゅーぐるるっるごぼ」
「……」
「ご、ごめんなさい、ずっとご飯を食べてなくて」
「なんだって!それはいけない。すぐにボクの家で食事を用意させよう!食事までまともに与えていないなんてどこまでも酷い一家だな!」
「え、ええそうで」グギュー……
***
時が進んでコリンソン邸談話室にて。
「そうか、パーティでの騒ぎは耳にしていたがセシル殿は篭絡されてしまったのだな」
「はい、頬を染めてそれは愛おしそうに抱きしめてらっしゃいましたわ」
あろうことか婚約者を差し置いて「ドレスを贈る」とまで言ったというセシルに不信感と憤りをおぼえる夫妻である。婚約発表をした即日に浮気をするような青年に対して信頼という文字は霧散した。
「忙しくなるな、醜聞がついてまわるだろう。リアは暫く別邸で暮らしてはどうだろうか?」
「私だけ逃げるのですか?家名を穢したのは私ですのに……」
「そもそも、裏切り行為をしたのはあちらなのだ、子細が出回れば落ち着くだろう。辛抱しておくれ」
父親に済まないと頭を下げられては従うほかないとオフェリアは身を隠すことに同意した。
娘が別宅へ出立したのを見届けると、コリンソン伯爵は婚約に関して話し合いをしたいとメッセージカードにペンを走らせた。
しかし、それが書き終わる前にセシル側から猛抗議と婚約破棄の申し出が届いて夫妻を驚かせるのだった。
数日後、バーノル伯爵当主自らがコリンソン邸に現れて「申し訳ない」と頭を下げて来た。
「この度はうちのバカ息子が御迷惑をおかけして誠に……申し訳ないことです」
「い、いや。抗議文は届きましたがどうにも信じがたい内容でしてな」
応接室に通すなりセシルの父が謝罪をしてきたので泡を食う。まずは落ち付いて貰おうとブランデーを落とした紅茶を提供した。バーノル伯爵は香りを楽しんでから一口飲むと長いため息を吐いた。
「どうも……アレは根も葉もない嘘を吹聴されたようでして、貴殿に隠し子いたと名誉を傷つけるようなことを言っておりました」
「ああ、その通りの事が手紙にも書いて寄越してます。確認されますか?」
封筒を出されたバーノルは「拝見します」と礼をして手紙を開いた。そしてみるみると顔を青くしてなんということだと項垂れた。
――
前略
早速ですがコリンソン伯爵フェリア嬢との婚約を白紙に戻したいと申し上げます。
理由は大まかに二つ、一つは性格の悪さです。彼女はロミー嬢に対して酷い仕打ちを長年にわたり行ってきた。愛らしいロミーに醜い嫉妬をもって虐げて来たのです。なんと嘆かわしいことか。ボクは失望した。
そして二つ目、貴殿の不貞の末にもうけた娘を認知することを拒否したあげく隠して育てて来たことです。受けるべき教養も身につけられず、社交界にも出られない。こんな不当な扱いが許されるわけがない!彼女の尊厳と権利を奪ってきたことに対する慰謝料を要求したい。もちろん、婚約破棄に対する慰謝料も請求させていただく。だが、ロミーを実子として認め伯爵家の籍におき、新たなボクの婚約者と認めるのなら相殺します。
良い返事を待っています。
セシル・バーノル
――
「なんだこの頭の悪い文は!教養の欠片も感じない!……あぁ私の末っ子だった。育て方を間違えたお恥ずかしい」
バーノルは顔を赤くして怒り情けなさに白くなった。忙しい顔色だとコリンソンは思った。
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