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20 猿
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「でしたら私がその女に代わりアル様と結婚しますわ!そうすれば問題ないじゃない!」
「は?……キミは彼女を侮辱するのか?」
オフェリアを溺愛している王子に”その女”と言ったのは拙かった。
「だーって、2歳も年上の”オバサン”より若くて可愛い私のほうが万倍良いはずよ!」
ルルーラ元王女は勝ち誇った顔でオフェリアを侮辱した、しかしオフェリアは一つも怯まず余裕の笑みでもって対抗する。
「あらまぁ、若さしか取り柄がないなんて益々気の毒ですわ。アルニは懐事情が芳しくないと伺ってましたけど……そのドレスは私が困窮国へ支援に出したものね、間違いないわその古い型は15歳の時に仕立てたものよ」
彼女が応戦して言葉を返していると王子も援護射撃に入る。
「本当だ!ボクも見覚えがあるよ。花見会と茶会に着ていたものだね!懐かしいな。しかし宝石が紛失している、どうやらキミの親が売り払ったようだね」
二人に猛攻撃にあったルルーラはショックを受けてワナワナ震えた。王妃は咎める様子もなく茶を楽しんでいて、その目はもっとやれと語っていた。
「んな!?なんて事を言うの!これは御父様が私の誕生日に王都一の洋品店で買ってくださったものよ!」ルルーラは怒って反論したが今度は王妃が口撃に参戦する。
「あら、普通は針子を呼んで誂えるものではなくて?王族は仕立て済みを買う事はありませんよ」
「あ……」
大人三人に看破された元王女は目を泳がせて屈辱より”虚言”がバレたことに狼狽えた。
たしかに少女の体型にはドレスが合っておらず、胸元はブカブカで袖は長すぎて指しか見えず不格好である。
少女の様子を見てから王妃は侍従に「部屋へ連れて行きなさい、もちろん客間ではなく侍女部屋ですよ」と微笑んで指示したのだった。
「はぁ、まだ幼いからと情けをかけるんじゃなかったわ。ごめんなさいねリア、あんなに無作法者とは知らなかったのよ」王妃が未来の娘に向かって謝罪を口にする。
「いいえ、とんでもございません!所で彼女を呼び寄せた理由を伺っても?」
「そう!それだよ母上、ボクも聞いていないよ」
二人は前のめりになって王妃に詰め寄る、落ち着きなさいと王妃は苦笑して事情を話し出した。元アルニ国内に放逐しては酷い目に合うのは確実だったことを前提に話した。
「じつはあの娘に縁談があったのよ、もの好きなことに。私のもとで行儀見習いをさせた後に準男爵家に嫁がせる予定なの。私の暇つぶしに丁度良かったから……でも引き受けなければ良かったわ」
さらりと辛辣なことを言う王妃に二人は噴き出してしまった、王子達に会わせたのは身の程を知らしめてやる為だったのだが下手を打ったらしい。
「まるで猿のような娘だわ、アルニでは教養が身に付かなかったようね」王妃は今すぐ手を引きたいと嘆くのだった。
王子たちは王妃の居室を後にすると歓談しながらサロンへと向かう、少女のせいで茶が楽しめず口直しをしたいと思ったからだ。真冬のいまは庭園で散策するには少々きつい。
「しかし、リアが気丈に張り合うなんて、娘の慌てた顔は面白かったよ」
「私だって腹が立つことはありますわ、まだ12歳程度なのに私のアルに色目を使うなんて末恐ろしいわ!」
先ほどの席で起こったことを思い出して不機嫌になるオフェリアである。
一方で「私のアル」と言われ嫉妬されたことを喜んでいる王子は、たいへん上機嫌な足取りでエスコートするのだった。
「たまのハプニングも良いもんだな」
「なにがですの?」
サロンに着いた彼らは薔薇ジャムを落とした紅茶を楽しむ、華やかな香りが少し荒れた気分を落ち着かせてくれる。
良い香りだと彼女はうっとりして目を細めた。暖炉の火が場を和ませ薪が時々パチンと音を立てる。
小雪が降る冬はとても静かで、温かい部屋で外を眺める贅沢をオフェリアは好きだと言った。
中庭の樹木と城壁が雪を纏って白と黒の世界を描いている。
二人は窓際に立ち、束の間の白銀の景色を楽しむ。
紅茶のおかわりを侍女が淹れている時だった、格子窓にバチンと何かか叩きつけられる音がした。
「キャ!窓が罅割れているわ……」
「リア、大丈夫かい?」
王子が彼女を庇うように抱きしめた、窓から離れて様子を見ようと言った。するとバチンバチンと連打する音が鳴りだしたではないか。何事が起きたのかと王子は目を瞠り護衛騎士たちを呼び寄せた。
「外から無礼を働く不届き者がいるようだ、引っ捕らえてこい!」
「は!直ちに!」
数名の護衛をサロンに残して身構える王子は窓の外を注視した、すると窓際近くの木に猿のような影をみつけた。
ソイツが雪玉を作ってこちらへ攻撃していることがわかった。
「なんだアレは猿か?だがこんな平地へ下りてくるものなのか?」王城は山々からかなり離れた場所に在る。山裾にある村であれば良くあることらしいが王都へくることはまずない。
「あらあ、近頃の猿は雪玉を作る智慧があるのですね……アル、あれは人ですわ。あの薄ピンクのドレスは見覚えがあるでしょう?」
オフェリアの言葉にハッとした王子は「ルル―アか」と言って驚愕した。
仮にも元王女だったものがはしたなくも木に登り、雪玉を投げつけているとは誰が想像できようか。
そして、大きめの雪玉が窓に打ち当たり窓を破壊してしまった、どうやら石が含まれていたらしい。
空いた箇所から風雪が飛び込んできて寒さと恐怖で侍女たちが悲鳴を上げる。
「いいえ、あれはやっぱり猿ですわ!間違いありません!」オフェリアが力強く訂正した。
「は?……キミは彼女を侮辱するのか?」
オフェリアを溺愛している王子に”その女”と言ったのは拙かった。
「だーって、2歳も年上の”オバサン”より若くて可愛い私のほうが万倍良いはずよ!」
ルルーラ元王女は勝ち誇った顔でオフェリアを侮辱した、しかしオフェリアは一つも怯まず余裕の笑みでもって対抗する。
「あらまぁ、若さしか取り柄がないなんて益々気の毒ですわ。アルニは懐事情が芳しくないと伺ってましたけど……そのドレスは私が困窮国へ支援に出したものね、間違いないわその古い型は15歳の時に仕立てたものよ」
彼女が応戦して言葉を返していると王子も援護射撃に入る。
「本当だ!ボクも見覚えがあるよ。花見会と茶会に着ていたものだね!懐かしいな。しかし宝石が紛失している、どうやらキミの親が売り払ったようだね」
二人に猛攻撃にあったルルーラはショックを受けてワナワナ震えた。王妃は咎める様子もなく茶を楽しんでいて、その目はもっとやれと語っていた。
「んな!?なんて事を言うの!これは御父様が私の誕生日に王都一の洋品店で買ってくださったものよ!」ルルーラは怒って反論したが今度は王妃が口撃に参戦する。
「あら、普通は針子を呼んで誂えるものではなくて?王族は仕立て済みを買う事はありませんよ」
「あ……」
大人三人に看破された元王女は目を泳がせて屈辱より”虚言”がバレたことに狼狽えた。
たしかに少女の体型にはドレスが合っておらず、胸元はブカブカで袖は長すぎて指しか見えず不格好である。
少女の様子を見てから王妃は侍従に「部屋へ連れて行きなさい、もちろん客間ではなく侍女部屋ですよ」と微笑んで指示したのだった。
「はぁ、まだ幼いからと情けをかけるんじゃなかったわ。ごめんなさいねリア、あんなに無作法者とは知らなかったのよ」王妃が未来の娘に向かって謝罪を口にする。
「いいえ、とんでもございません!所で彼女を呼び寄せた理由を伺っても?」
「そう!それだよ母上、ボクも聞いていないよ」
二人は前のめりになって王妃に詰め寄る、落ち着きなさいと王妃は苦笑して事情を話し出した。元アルニ国内に放逐しては酷い目に合うのは確実だったことを前提に話した。
「じつはあの娘に縁談があったのよ、もの好きなことに。私のもとで行儀見習いをさせた後に準男爵家に嫁がせる予定なの。私の暇つぶしに丁度良かったから……でも引き受けなければ良かったわ」
さらりと辛辣なことを言う王妃に二人は噴き出してしまった、王子達に会わせたのは身の程を知らしめてやる為だったのだが下手を打ったらしい。
「まるで猿のような娘だわ、アルニでは教養が身に付かなかったようね」王妃は今すぐ手を引きたいと嘆くのだった。
王子たちは王妃の居室を後にすると歓談しながらサロンへと向かう、少女のせいで茶が楽しめず口直しをしたいと思ったからだ。真冬のいまは庭園で散策するには少々きつい。
「しかし、リアが気丈に張り合うなんて、娘の慌てた顔は面白かったよ」
「私だって腹が立つことはありますわ、まだ12歳程度なのに私のアルに色目を使うなんて末恐ろしいわ!」
先ほどの席で起こったことを思い出して不機嫌になるオフェリアである。
一方で「私のアル」と言われ嫉妬されたことを喜んでいる王子は、たいへん上機嫌な足取りでエスコートするのだった。
「たまのハプニングも良いもんだな」
「なにがですの?」
サロンに着いた彼らは薔薇ジャムを落とした紅茶を楽しむ、華やかな香りが少し荒れた気分を落ち着かせてくれる。
良い香りだと彼女はうっとりして目を細めた。暖炉の火が場を和ませ薪が時々パチンと音を立てる。
小雪が降る冬はとても静かで、温かい部屋で外を眺める贅沢をオフェリアは好きだと言った。
中庭の樹木と城壁が雪を纏って白と黒の世界を描いている。
二人は窓際に立ち、束の間の白銀の景色を楽しむ。
紅茶のおかわりを侍女が淹れている時だった、格子窓にバチンと何かか叩きつけられる音がした。
「キャ!窓が罅割れているわ……」
「リア、大丈夫かい?」
王子が彼女を庇うように抱きしめた、窓から離れて様子を見ようと言った。するとバチンバチンと連打する音が鳴りだしたではないか。何事が起きたのかと王子は目を瞠り護衛騎士たちを呼び寄せた。
「外から無礼を働く不届き者がいるようだ、引っ捕らえてこい!」
「は!直ちに!」
数名の護衛をサロンに残して身構える王子は窓の外を注視した、すると窓際近くの木に猿のような影をみつけた。
ソイツが雪玉を作ってこちらへ攻撃していることがわかった。
「なんだアレは猿か?だがこんな平地へ下りてくるものなのか?」王城は山々からかなり離れた場所に在る。山裾にある村であれば良くあることらしいが王都へくることはまずない。
「あらあ、近頃の猿は雪玉を作る智慧があるのですね……アル、あれは人ですわ。あの薄ピンクのドレスは見覚えがあるでしょう?」
オフェリアの言葉にハッとした王子は「ルル―アか」と言って驚愕した。
仮にも元王女だったものがはしたなくも木に登り、雪玉を投げつけているとは誰が想像できようか。
そして、大きめの雪玉が窓に打ち当たり窓を破壊してしまった、どうやら石が含まれていたらしい。
空いた箇所から風雪が飛び込んできて寒さと恐怖で侍女たちが悲鳴を上げる。
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