二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥

文字の大きさ
12 / 25

二年間は長すぎる

しおりを挟む
 二年間。それは決して短くない年月。

エリシアも学園を卒業後しばらくは耐えていた。卒業式の日にもう二度と会話することもないだろうと諦めていたユーレットに会って話をした。
思いもよらない 「待っていてほしい」 の言葉を貰い、その上、手に口づけられたのだ。まるで夢のような出来事にエリシアは思い出す度に心弾ませ歓喜した。

しかしその熱は数か月もすると、全く会えない現実にあっさりと心折れそうになってしまうのだ。
もしかしたら、あれは全て夢だったのではないだろうか・・・、そもそもあのユーレットがあんなことを言うだろうか・・・。これはもしや、恋しさのあまり脳が作り上げてしまった自分の妄想なのかもしれない。

・・・などと、自身の記憶すら疑うこともあった。 そうなのだ。二年はあまりに長かったのだ。


 学園を卒業して直ぐに、エリシアは父親に付いて領地経営に従事していた。机に向かい書類と格闘している間はまだ良かった。しかし、実際に父と領地に赴き、領民の置かれている環境や彼らの声を直に聞いてしまうと書類上で解釈していたものとの違いに頭を抱えることになった。

しかし生真面目な性格のエリシアは、できるだけ領民への期待に応えたいと努力を惜しむことはなかった。それが次期当主である自分の責務だと言い、毎日休むことなく働いた。

そんな忙しすぎる毎日が、彼女にとっては逆に良かったのかもしれない。少なくとも慣れない仕事に四苦八苦している間だけは、ユーレットのことで不安にかられて、ありもしない妄想で泣くこともなかったのだから。

なにせ最後に会ったあの日以来、ユーレットから手紙一つ届くことはなかったのだ。多忙なエリシアが最低限の社交場に足を運んだ際も、ユーレットの噂話をしたくてウズウズしている友人達に強く口止めした上で、エリシア本人も彼の情報には極力耳を塞いで逃げ回っていた。

そうやって、最後に確認した 「好きでいてもいい」 という彼の言葉を自分自身で信じる他なくしたのだった。



 そうして二年の時が過ぎた。
エリシアのユーレットへの気持ちは、今もあの日のままだ。相変わらずユーレットのことが一番大好きなエリシアのまま。

だが、この時にはもう以前のように、彼との未来を夢見るようなことはなくなっていた。今のエリシアはユーレットとの約束をただ毎日守っているだけだったのだ。
それは二年待ち続けることと、その間、彼を好きでいること。

会えないということは人の心を冷静にするものだ。浮ついた気持ちが落ち着く頃には、あれほど好きだったユーレットの顔がぼやけてしか思い出せなくなってしまった。
彼の声がわからなくなったのは、入学を前にした従弟にお祝いを持って行った時からだ。 ありがとうと、お礼を言った従弟は声変わりの最中であった。

そのうち、それまでは気に留めることもなかったデート中のカップルを目で追うことが増えていった。
恋人達は手を繋ぎ、顔を寄せ合い会話をする。恥ずかしそうに頬を染める女性を見つめる男性は満足そうな笑みを浮かべていたりする。
渋々参加した夜会では、婚約者と腕を組んで歩く友人や知人が、嬉しそうに笑い合っていた。

幸せそうな人たちを見たからと言って、エリシアが妬むことはない。
たとえそこに、ユーレットと彼に似合った小柄で可愛らしい令嬢の姿を重ねて見ていたとしても・・・。

エリシアが思うことは・・・、素直に友人らを祝福することと、もう一つ。
自分の最も大切なユーレットが、彼らと同じように幸せであってほしいということだけであった。

そして皆が幸せになった後で、エリシアが次に考えなくてはいけないこと。
それは間違いなく自分の結婚のことであった。
既にコットワール侯爵家の跡継ぎとして、これ以上結婚を先延ばしすることはできない状況にあった。次々と来る縁談に背を向けていられるのも、もはや限界が来ていたのだ。

ユーレットに想いを寄せるのは、彼が卒業するまでにしよう。自分でそう決めたエリシアは、彼の卒業後に両親の選んだ相手との婚約を受けるつもりでいた。

彼が自身の卒業式の日に、挨拶に伺いたいと畏まった手紙をよこすまでは・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

婚約破棄された公爵令嬢と、処方箋を無視する天才薬師 ――正しい医療は、二人で始めます

ふわふわ
恋愛
「その医療は、本当に正しいと言えますか?」 医療体制への疑問を口にしたことで、 公爵令嬢ミーシャ・ゲートは、 医会の頂点に立つ婚約者ウッド・マウント公爵から 一方的に婚約を破棄される。 ――素人の戯言。 ――体制批判は不敬。 そう断じられ、 “医療を否定した危険な令嬢”として社交界からも排斥されたミーシャは、 それでも引かなかった。 ならば私は、正しい医療を制度として作る。 一方その頃、国営薬局に現れた謎の新人薬師・ギ・メイ。 彼女は転生者であり、前世の知識を持つ薬師だった。 画一的な万能薬が当然とされる現場で、 彼女は処方箋に書かれたわずかな情報から、 最適な調剤を次々と生み出していく。 「決められた万能薬を使わず、  問題が起きたら、どうするつもりだ?」 そう問われても、彼女は即答する。 「私、失敗しませんから」 (……一度言ってみたかったのよね。このドラマの台詞) 結果は明らかだった。 患者は回復し、評判は広がる。 だが―― 制度は、個人の“正 制度を変えようとする令嬢。 現場で結果を出し続ける薬師。 医師、薬局、医会、王宮。 それぞれの立場と正義が衝突する中、 医療改革はやがて「裁き」の局面へと進んでいく。 これは、 転生者の知識で無双するだけでは終わらない医療改革ファンタジー。 正しさとは何か。 責任は誰が負うべきか。 最後に裁かれるのは―― 人か、制度か。

職業・聖女~稼ぐわよ!

satomi
恋愛
私は村人Aとして兄弟妹仲良く暮らしていく予定だったリリス。ある日、王都から神官がやってきて多分聖女探し。 私は聖女に認定されて、王都に連れて行かれそうになったんだけど、神官がコソコソと話しているのを耳にした。「兄弟妹なんぞ始末してしまえ!」と。 そんな人に力を使う予定はありません。 聞けば、無報酬での仕事。将来的に王妃になれるのだから。と。 ハァ?見たこともない相手との縁談なんてお断りよ!無報酬で働きまくるなんてもってのほか! このお話、お断りします!!

愛しい人を手に入れるまでの、とある伯爵令息の話

ひとみん
恋愛
ペルソン伯爵令息レナードは、評判の悪い公爵令嬢メーガン・ティラーと婚約せざるおえなくなる。 だがその一年後、彼女の方から声高に婚約破棄を言い渡された。 理由は彼が「ドケチだから」と。 ようやく本当に愛する人を迎えに行けると、喜びを隠し切れないレナードと彼らを取り巻く人たちのお話。 流行りの婚約破棄ものを書きたくて挑戦。広いお心で読んでいただけたらと思います。 16話完結です。 ゆるゆるご都合主義ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。 なろう様、カクヨム様にも投稿してます。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

会えば喧嘩ばかりの婚約者と腹黒王子の中身が入れ替わったら、なぜか二人からアプローチされるようになりました

黒木メイ
恋愛
伯爵令嬢ソフィアと第一王子の護衛隊長であるレオンの婚約は一年を迎えるが、会えば口喧嘩、会わなければ音信不通というすれ違いの日々。約束を破り続けるレオンと両親からの『式だけでも早く挙げろ』という圧に我慢の限界を迎えたソフィアは、ついに彼の職場である王城へと乗り込む。 激しい言い争いを始めた二人の前に現れたのは、レオンの直属の上司であり、優雅な仮面の下に腹黒な本性を隠す第一王子クリスティアーノ。 王子は二人が起こした騒動への『罰』として、王家秘伝の秘薬をレオンに服用させる。その結果――なんとレオンとクリスティアーノの中身が入れ替わってしまった!全ては王子の計画通り。 元に戻るのは八日後。その間、ソフィアはこの秘密がバレないよう、文字通り命がけで奔走することとなる。 期限付きの入れ替わり生活は、不器用な婚約者との関係をどう変えるのか? そして、この騒動を引き起こした腹黒王子の真の目的とは? ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※他サイトからの転載。

処理中です...