14 / 53
第一章
14、確かに友達を作るよう言いましたけど
しおりを挟む
朝食後、オーティスは瞬間移動で俺をアカデミーまで送ってくれた。
『オーティス~、行ってきますのチュウは?』
と移動前にねだってみたけど、ぽよぽよズがガン見していたのを彼に気付かれて『そういう事は人前ですべきではありません』と却下されてしまった。
(使い魔は人じゃないじゃん)
ちぇっと口を尖らせて不満げな姿をアピールしているうちにアカデミー到着。更に分かりやすく俺は頬をぷうっと膨らませた。
「フィル様? 暫くの間、仕事を少しセーブしましたので私が送迎いたします。では夕刻に」
オーティスが直々に? 俺のために!?
はい、機嫌直りました。膨れた頬から空気が抜ける。
「ありがとう」
胸元で小さく手を振ると、オーティスは柔らかく微笑み消え去った。
「……今のってオーティス様?」
「どうして第七王子と?」
正門を通る令嬢令息がひそひそと囁き合っている。明日からは着地点を人気のない場所にしてもらった方が良さそうだ。はぁ……と溜息をついて俺は校舎に向かって歩きだした。
(オーティスは友達を作ったらって言うけど、こんなんでできるとは思えないんだよな)
もう一度溜息をついて気怠げに上げた視線は、無意識にある一点で止まっていた。他の学生より頭一つ分大きくて、どこにいても目立つ淡いストロベリーブロンドの癖っ毛。
(あれは同じ騎士科の……)
『ランデル・ウォルマン』――貴族の息子にしては随分と砕けた男だ。
いつも眠そうで休み時間にはよく机で突っ伏して寝ているし、一人でぼんやりしてるから群れるのが好きじゃないのかと思いきや、誰とでも気さくに話せてケラケラ笑っている。何より、入学当初から俺に挨拶をしてくれたとても希少な存在だ。
それに体格も剣の腕も良くて、卒業後は俺と同じ王国騎士団への入団も決まっているらしい。仲良くなれたら自主練にも誘いやすくなるだろうか。
(話しかけて……みるか)
生唾とともに不安な気持ちをごくりと飲み込んだ。
「お、おはよう……ランデル」
「――!?」
あくび途中の彼は、口を開けたまま熟れた苺のような赤い目を大きく開いた。
それだけじゃない、周りの生徒たちまで一斉にこちらを向いた。一挙手一投足を監視されているような学園生活で、俺が自分から話しかけるなんて余程の事がない限りありはしなかったから、みんな何事かと不審がってるんだ。
(大勢の前で話しかけたのはマズかったな……しかも名前呼び。やっぱりやめときゃ良かっ――)
「フィル王子、おはようございます! 王子から声をかけてくださるのは初めてですね。しかも俺の名前、覚えてくださってたんですね」
まるで目を瞑った猫のように目を細めて笑うランデルを見て肩から力が抜けた。ホッとして心がふわわわぁ~っと軽くなったせいか、事もあろうに俺はつい調子に乗ってしまったのだ。
「同じ騎士科だから……敬語とかいらないし、俺のことも呼び捨てで呼べよ。その方が話しやすい」
(うわっ、距離の縮め方間違えた!)
言ったそばから後悔する。親しくもないのに呼び捨て敬語無しを強要。どう考えても急ぎすぎだ。困惑する彼の様子を想像してちらりと盗み見たのだが、その不安は一瞬で吹き飛んだ。
へにゃ~と笑うランダルに、『そうだよな、ランデルってこういう奴だ』と嬉しくなる。
「じゃあ遠慮なく。ずっと話してみたかったんだ。クラスまで一緒に行こう、フィル」
――『フィル』!?
全身に鳥肌が立つ。
(なんだこれ……すっげぇ恥ずかしい)
家族以外からされた初めての「フィル」呼びに、胸の奥で湧き出た何かが一気に全身を駆け巡る。止められない感情が溢れ出してしまいそうで俺は慌てて唇を引き結んだ。
(今の俺、めちゃくちゃ早く走れそう!)
「どした?」
「えっと……早く朝練したいなって」
「ははっ、朝から元気。じゃあ準備できたら朝練行こっか」
教室まで誰かと一緒に行くなんて初めてだ。しかも練習まで誘ってくれて嬉しい。
『友達』を知らない俺は、意外にも人懐っこいこの男にころりと心を許してしまったのだった。
◇◇◇
「――でさ、そのランデルがすっっっごく良い奴だったんだ!!」
「それはよろしかったですね」
その夜。お約束のようにオーティスのベッドに入り込んだ俺は、ランデルについて熱く語った。
今日一日、彼は学生たちの奇妙な視線をまったく気にも留めず、ずっと笑顔でそばにいてくれた。初めこそ慣れなくてどぎまぎしてしまったけど、すぐに打ち解けることができたしアカデミーの中で声を出して笑ったのも初めてかもしれない。
本当に楽しい一日だった。胸一杯の充実感で興奮がいまだに静まらない。
「私がお迎えに参った時にその者は?」
「いなかったよ」
「そうですか。もう一度フルネームを伺ってもよろしいですか?」
オーティスの眼光が鋭さを帯びた。
「ランデル・ウォルマン」
「ウォルマン……伯爵家の次男ですか?」
「そうそう、歳の離れた兄貴が一人いるって言ってた。オーティス知ってるの?」
「はい。同級生ですし、彼も私と同じ王国魔法師団の一員です」
「そうなんだ。オーティスとも繋がりがあったなんて凄い偶然だな! ランデル自身は魔力が無いって言ってた気がするけど兄貴は魔法が使えるんだ。容姿も良い、性格も良い、剣の腕も良いときて、もしも魔力があったら――んっ!?」
もうこれ以上喋るなとでも言いたげにオーティスが俺の唇を塞いだ。いきなり舌が入ってきて俺の舌を求めるように絡めてくる。急な展開に驚いて固まってしまった体も、ほんの僅かな時間さえあれば甘い口付けに緊張を解かれ何も考えられなくなっていく。
「ぷはっ」と唇を離した俺はとろんと蕩けた顔でオーティスを見つめた。彼の低い声が色情を煽る。
「フィル様、気持ち良くなってから寝ましょう」
「うん……」
俺たちは再び唇を重ねた。
『オーティス~、行ってきますのチュウは?』
と移動前にねだってみたけど、ぽよぽよズがガン見していたのを彼に気付かれて『そういう事は人前ですべきではありません』と却下されてしまった。
(使い魔は人じゃないじゃん)
ちぇっと口を尖らせて不満げな姿をアピールしているうちにアカデミー到着。更に分かりやすく俺は頬をぷうっと膨らませた。
「フィル様? 暫くの間、仕事を少しセーブしましたので私が送迎いたします。では夕刻に」
オーティスが直々に? 俺のために!?
はい、機嫌直りました。膨れた頬から空気が抜ける。
「ありがとう」
胸元で小さく手を振ると、オーティスは柔らかく微笑み消え去った。
「……今のってオーティス様?」
「どうして第七王子と?」
正門を通る令嬢令息がひそひそと囁き合っている。明日からは着地点を人気のない場所にしてもらった方が良さそうだ。はぁ……と溜息をついて俺は校舎に向かって歩きだした。
(オーティスは友達を作ったらって言うけど、こんなんでできるとは思えないんだよな)
もう一度溜息をついて気怠げに上げた視線は、無意識にある一点で止まっていた。他の学生より頭一つ分大きくて、どこにいても目立つ淡いストロベリーブロンドの癖っ毛。
(あれは同じ騎士科の……)
『ランデル・ウォルマン』――貴族の息子にしては随分と砕けた男だ。
いつも眠そうで休み時間にはよく机で突っ伏して寝ているし、一人でぼんやりしてるから群れるのが好きじゃないのかと思いきや、誰とでも気さくに話せてケラケラ笑っている。何より、入学当初から俺に挨拶をしてくれたとても希少な存在だ。
それに体格も剣の腕も良くて、卒業後は俺と同じ王国騎士団への入団も決まっているらしい。仲良くなれたら自主練にも誘いやすくなるだろうか。
(話しかけて……みるか)
生唾とともに不安な気持ちをごくりと飲み込んだ。
「お、おはよう……ランデル」
「――!?」
あくび途中の彼は、口を開けたまま熟れた苺のような赤い目を大きく開いた。
それだけじゃない、周りの生徒たちまで一斉にこちらを向いた。一挙手一投足を監視されているような学園生活で、俺が自分から話しかけるなんて余程の事がない限りありはしなかったから、みんな何事かと不審がってるんだ。
(大勢の前で話しかけたのはマズかったな……しかも名前呼び。やっぱりやめときゃ良かっ――)
「フィル王子、おはようございます! 王子から声をかけてくださるのは初めてですね。しかも俺の名前、覚えてくださってたんですね」
まるで目を瞑った猫のように目を細めて笑うランデルを見て肩から力が抜けた。ホッとして心がふわわわぁ~っと軽くなったせいか、事もあろうに俺はつい調子に乗ってしまったのだ。
「同じ騎士科だから……敬語とかいらないし、俺のことも呼び捨てで呼べよ。その方が話しやすい」
(うわっ、距離の縮め方間違えた!)
言ったそばから後悔する。親しくもないのに呼び捨て敬語無しを強要。どう考えても急ぎすぎだ。困惑する彼の様子を想像してちらりと盗み見たのだが、その不安は一瞬で吹き飛んだ。
へにゃ~と笑うランダルに、『そうだよな、ランデルってこういう奴だ』と嬉しくなる。
「じゃあ遠慮なく。ずっと話してみたかったんだ。クラスまで一緒に行こう、フィル」
――『フィル』!?
全身に鳥肌が立つ。
(なんだこれ……すっげぇ恥ずかしい)
家族以外からされた初めての「フィル」呼びに、胸の奥で湧き出た何かが一気に全身を駆け巡る。止められない感情が溢れ出してしまいそうで俺は慌てて唇を引き結んだ。
(今の俺、めちゃくちゃ早く走れそう!)
「どした?」
「えっと……早く朝練したいなって」
「ははっ、朝から元気。じゃあ準備できたら朝練行こっか」
教室まで誰かと一緒に行くなんて初めてだ。しかも練習まで誘ってくれて嬉しい。
『友達』を知らない俺は、意外にも人懐っこいこの男にころりと心を許してしまったのだった。
◇◇◇
「――でさ、そのランデルがすっっっごく良い奴だったんだ!!」
「それはよろしかったですね」
その夜。お約束のようにオーティスのベッドに入り込んだ俺は、ランデルについて熱く語った。
今日一日、彼は学生たちの奇妙な視線をまったく気にも留めず、ずっと笑顔でそばにいてくれた。初めこそ慣れなくてどぎまぎしてしまったけど、すぐに打ち解けることができたしアカデミーの中で声を出して笑ったのも初めてかもしれない。
本当に楽しい一日だった。胸一杯の充実感で興奮がいまだに静まらない。
「私がお迎えに参った時にその者は?」
「いなかったよ」
「そうですか。もう一度フルネームを伺ってもよろしいですか?」
オーティスの眼光が鋭さを帯びた。
「ランデル・ウォルマン」
「ウォルマン……伯爵家の次男ですか?」
「そうそう、歳の離れた兄貴が一人いるって言ってた。オーティス知ってるの?」
「はい。同級生ですし、彼も私と同じ王国魔法師団の一員です」
「そうなんだ。オーティスとも繋がりがあったなんて凄い偶然だな! ランデル自身は魔力が無いって言ってた気がするけど兄貴は魔法が使えるんだ。容姿も良い、性格も良い、剣の腕も良いときて、もしも魔力があったら――んっ!?」
もうこれ以上喋るなとでも言いたげにオーティスが俺の唇を塞いだ。いきなり舌が入ってきて俺の舌を求めるように絡めてくる。急な展開に驚いて固まってしまった体も、ほんの僅かな時間さえあれば甘い口付けに緊張を解かれ何も考えられなくなっていく。
「ぷはっ」と唇を離した俺はとろんと蕩けた顔でオーティスを見つめた。彼の低い声が色情を煽る。
「フィル様、気持ち良くなってから寝ましょう」
「うん……」
俺たちは再び唇を重ねた。
280
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜
天宮叶
BL
十歳の誕生日の日に森に捨てられたソルは、ある日、森の中で見つけた遺跡で言葉を話す剣を手に入れた。新しい友達ができたことを喜んでいると、突然、目の前に魔王が現れる。
魔王は幼いソルを気にかけ、魔王城へと連れていくと部屋を与え、優しく接してくれる。
初めは戸惑っていたソルだったが、魔王や魔王城に暮らす人々の優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。
いつの間にか魔王のことを好きになっていたソル。2人は少しずつ想いを交わしていくが、魔王城で暮らすようになって十年目のある日、ソルは自身が勇者であり、魔王の敵だと知ってしまい_____。
溺愛しすぎな無口隠れ執着魔王
×
純粋で努力家な勇者
【受け】
ソル(勇者)
10歳→20歳
金髪・青眼
・10歳のとき両親に森へ捨てられ、魔王に拾われた。自身が勇者だとは気づいていない。努力家で純粋。闇魔法以外の全属性を使える。
ノクス(魔王)
黒髪・赤目
年齢不明
・ソルを拾い育てる。段々とソルに惹かれていく。闇魔法の使い手であり、歴代最強と言われる魔王。無口だが、ソルを溺愛している。
今作は、受けの幼少期からスタートします。それに伴い、攻めとのガッツリイチャイチャは、成人編が始まってからとなりますのでご了承ください。
BL大賞参加作品です‼️
本編完結済み
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
騎士団長の初恋を実らせるつもりが、うっかり恋に落ちました~心の声が聞こえる第五王子は街で人気の占い師~
まんまる
BL
現王の第五王子として生まれたノア(21)は見た目こそ王族の血を濃く引いているものの、王城では影が薄く、いてもいなくても誰も気付かないような存在だ。
そんなノアは生まれつき他人(ひと)の心の声が聞こえる能力を持っていて、こっそり王城を抜け出しては、それを活かして街で占いをやっていた。
18歳で始めた占いも気付けば3年が経ち、今ではよく当たると評判の人気の占い師になっていた。
そんなある日、ノアが占いをする《金色(こんじき)の占いの館》に第一騎士団の団長、クレイン侯爵家の嫡男アルバート(32)が訪ねてくる。
ノアは能力を使って、アルバートの『初恋の相手に会いたい』と言う願いを叶えるようとするが、アルバートの真面目で優しい人柄に触れいくうちに、ついうっかりアルバートを好きになってしまう。
真面目で一途な騎士団長×前向きに生きる国民思いの第五王子
いろいろツッコミ所があるお話ですが、温かい目で読んでいただけたら嬉しいです。
( )は心の声です。
Rシーンは※付けます。
生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける
てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」
庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。
そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――?
「カラヒ。おれの番いは嫌か」
助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。
どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。
どうして竜が言葉を話せるのか。
所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる