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婚約者なんてもういりません
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夜会の招待客の中にはシャルロットの美しい笑みに見惚れている者も多かったが、エレナとアニエスはお泊り会で彼女の素顔を見慣れている為、今更驚くことはなかった。
ちなみに、エレナもアニエスも流行りのメイクやドレスに興味を持っていないだけで、美しい顔立ちをしている。
内面を磨くことの重要性を理解している二人は、飾り立てなくてもにじみ出る知的さと品の良さがあるのだ——フィリップにはわからないだろうが。
本当に審美眼が聞いて呆れる。
シャルロットは笑みを引っ込めると、反撃の開始とばかりにユリウスに凛とした声で返事をした。
「ユリウス様。婚約破棄の件、喜んで承りますわ。お二人ともどうぞガードの緩い方とお幸せに。頭の緩いあなた方にはお似合いですもの」
「は? 今何て言った?」
「シャルロット? え、君は本当にあのシャルロットなのか?」
馬鹿にされたと真っ赤になって腹を立てるフィリップと、シャルロットの素顔を初めて目にし、まだ信じられないとばかりに頬を染めているユリウス。
まるで違う反応ながら、顔を赤らめている点だけは共通している二人に、シャルロットは冷静に続けた。
「あ、そうそう、これだけは言っておきますね。ユリウス様、我が家からの融資は打ち切らせていただきますので伯爵様にそうお伝えくださいな。フィリップ様も、今後マーブル家との取引はなしということで」
「援助?」
「取引?」
二人はお酒が抜けてきたのか、ようやく自分たちの発言のまずさと事態の深刻さに気付き始めたらしい。
両家とも商売で成功を収めているマーブル家とは懇意にしており、様々な恩恵を受けているのだ。
特に財政が傾いているユリウスの家にとって、マーブル家からの融資の打ち切りはもはや死活問題であると思われる。
「ええ。お父様の恩情で、婚約者だったユリウス様の家には色々と便宜を図ってきました。多額の融資もさせていただいておりましたけれど、もう理由もありませんもの。当然でしょう?」
「ま、待って! それは困るよ。でも冗談だよね? 大人しくて僕のことが大好きな君がそんなことできるはずがないし。あ、そうやって困らせて、僕の気を引こうとしているんだね?」
「おい、商いは当主同士の問題だろ? 権限もないくせにシャルロットが勝手に取引に口出しをするな!」
ああおかしい、二人とも本当に頭が緩いのね。
どうしたら私がユリウス様を好きだなんて勘違いができるのかしら?
あなたの気を引くメリットが私にあるのなら教えて欲しいくらいだわ。
フィリップ様に至っては、自分が当主不在の場で婚約破棄を勝手に言い出したくせに……これぞ前世でいうダブスタってやつよね。
頓珍漢な二人の反応が、シャルロットには楽しくて仕方が無かった。
「困ると言われても、そんなこと私の知ったことではありませんもの。私にユリウス様への恋情なんてものは元々ありませんし、婚約だって当主同士の大事な問題だというのに、この場で婚約破棄を持ち出したのはどこのどなたでしたっけ?」
ユリウスがショックを受け、フィリップが悔しそうに唇を噛んでいるが、これで許す気など毛頭なかった。
彼らはシャルロットだけでなく、大事な友人を傷付けたのだから。
「私が今夜あなた方にどのような扱いを受けたかを知ったら、うちの家族は怒るでしょうねぇ。私、こうみえて愛されておりますので」
シャルロットの自信に満ちた神々しい笑みにユリウスとフィリップは青褪め、周囲からはうっとりとした溜め息が零れる。
八年の間我慢してきたものが発散されたシャルロットは——
ああ、これで煩わしい婚約者ともおさらばね。
社交界での立場がなくなろうと、そんなの私にとっては些細なことでしかないもの。
もっと早くこうすればよかったわ。
最高の気分だった。
いや、最高の気分だったはずなのに。
「待ってくれ、シャルロット! 僕が悪かったよ。酔っていてつい思ってもいないことを口走ってしまっただけなんだ。こんなに可愛い君と婚約破棄なんてするはずがないだろう? さあ、いつまでも臍を曲げていないで一日も早く僕と結婚しよう!」
「俺も悪ふざけが過ぎたようだ。シャルロットも人が悪いじゃないか、素顔を隠していたなんて。君こそ俺の婚約者にふさわしい友人だと認めよう。それにエレナに対する婚約破棄だって、ほんの余興のつもりだったんだ。本気で破棄しようなんて思っていないさ」
なんと、ユリウスとフィリップがあっさりと前言撤回をしてきた。
手のひら返しも甚だしい上、今になってシャルロットの容姿を持ち上げ始めたのも気持ちが悪い。
うわぁ……この期に及んで撤回と言い訳なんて、通用するはずがないじゃない。
なぜかいまだに上から目線だし、エレナ様はどう思っているのかしら。
まさか絆されて許してしまったり……。
エレナを見れば、スンッとした表情で目が死んでいる。
フィリップとよりを戻す気なんてさらさらないようだ。
シャルロットは『ですよねー』と心の中で安心すると、またユリウスたちの方を向いた。
「そういうの、もう結構なので」
ユリウスたちをバッサリと切り捨てたシャルロットは、明るくエレナに話しかけた。
「ねえエレナ様、私に提案があるのですけれど」
ちなみに、エレナもアニエスも流行りのメイクやドレスに興味を持っていないだけで、美しい顔立ちをしている。
内面を磨くことの重要性を理解している二人は、飾り立てなくてもにじみ出る知的さと品の良さがあるのだ——フィリップにはわからないだろうが。
本当に審美眼が聞いて呆れる。
シャルロットは笑みを引っ込めると、反撃の開始とばかりにユリウスに凛とした声で返事をした。
「ユリウス様。婚約破棄の件、喜んで承りますわ。お二人ともどうぞガードの緩い方とお幸せに。頭の緩いあなた方にはお似合いですもの」
「は? 今何て言った?」
「シャルロット? え、君は本当にあのシャルロットなのか?」
馬鹿にされたと真っ赤になって腹を立てるフィリップと、シャルロットの素顔を初めて目にし、まだ信じられないとばかりに頬を染めているユリウス。
まるで違う反応ながら、顔を赤らめている点だけは共通している二人に、シャルロットは冷静に続けた。
「あ、そうそう、これだけは言っておきますね。ユリウス様、我が家からの融資は打ち切らせていただきますので伯爵様にそうお伝えくださいな。フィリップ様も、今後マーブル家との取引はなしということで」
「援助?」
「取引?」
二人はお酒が抜けてきたのか、ようやく自分たちの発言のまずさと事態の深刻さに気付き始めたらしい。
両家とも商売で成功を収めているマーブル家とは懇意にしており、様々な恩恵を受けているのだ。
特に財政が傾いているユリウスの家にとって、マーブル家からの融資の打ち切りはもはや死活問題であると思われる。
「ええ。お父様の恩情で、婚約者だったユリウス様の家には色々と便宜を図ってきました。多額の融資もさせていただいておりましたけれど、もう理由もありませんもの。当然でしょう?」
「ま、待って! それは困るよ。でも冗談だよね? 大人しくて僕のことが大好きな君がそんなことできるはずがないし。あ、そうやって困らせて、僕の気を引こうとしているんだね?」
「おい、商いは当主同士の問題だろ? 権限もないくせにシャルロットが勝手に取引に口出しをするな!」
ああおかしい、二人とも本当に頭が緩いのね。
どうしたら私がユリウス様を好きだなんて勘違いができるのかしら?
あなたの気を引くメリットが私にあるのなら教えて欲しいくらいだわ。
フィリップ様に至っては、自分が当主不在の場で婚約破棄を勝手に言い出したくせに……これぞ前世でいうダブスタってやつよね。
頓珍漢な二人の反応が、シャルロットには楽しくて仕方が無かった。
「困ると言われても、そんなこと私の知ったことではありませんもの。私にユリウス様への恋情なんてものは元々ありませんし、婚約だって当主同士の大事な問題だというのに、この場で婚約破棄を持ち出したのはどこのどなたでしたっけ?」
ユリウスがショックを受け、フィリップが悔しそうに唇を噛んでいるが、これで許す気など毛頭なかった。
彼らはシャルロットだけでなく、大事な友人を傷付けたのだから。
「私が今夜あなた方にどのような扱いを受けたかを知ったら、うちの家族は怒るでしょうねぇ。私、こうみえて愛されておりますので」
シャルロットの自信に満ちた神々しい笑みにユリウスとフィリップは青褪め、周囲からはうっとりとした溜め息が零れる。
八年の間我慢してきたものが発散されたシャルロットは——
ああ、これで煩わしい婚約者ともおさらばね。
社交界での立場がなくなろうと、そんなの私にとっては些細なことでしかないもの。
もっと早くこうすればよかったわ。
最高の気分だった。
いや、最高の気分だったはずなのに。
「待ってくれ、シャルロット! 僕が悪かったよ。酔っていてつい思ってもいないことを口走ってしまっただけなんだ。こんなに可愛い君と婚約破棄なんてするはずがないだろう? さあ、いつまでも臍を曲げていないで一日も早く僕と結婚しよう!」
「俺も悪ふざけが過ぎたようだ。シャルロットも人が悪いじゃないか、素顔を隠していたなんて。君こそ俺の婚約者にふさわしい友人だと認めよう。それにエレナに対する婚約破棄だって、ほんの余興のつもりだったんだ。本気で破棄しようなんて思っていないさ」
なんと、ユリウスとフィリップがあっさりと前言撤回をしてきた。
手のひら返しも甚だしい上、今になってシャルロットの容姿を持ち上げ始めたのも気持ちが悪い。
うわぁ……この期に及んで撤回と言い訳なんて、通用するはずがないじゃない。
なぜかいまだに上から目線だし、エレナ様はどう思っているのかしら。
まさか絆されて許してしまったり……。
エレナを見れば、スンッとした表情で目が死んでいる。
フィリップとよりを戻す気なんてさらさらないようだ。
シャルロットは『ですよねー』と心の中で安心すると、またユリウスたちの方を向いた。
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ユリウスたちをバッサリと切り捨てたシャルロットは、明るくエレナに話しかけた。
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