【完結・コミカライズ進行中】もらい事故で婚約破棄されました

櫻野くるみ

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三組が破談になりました

シャルロットはワクワクしながらエレナの手を取った。

「エレナ様、もし良かったら私とシェアハウスを始めませんか?」

もう馬鹿な男どもに用などない。
これを機に、シャルロットは前世で夢だったシェアハウスをし、気の置けない友人と好きに生きることに決めたのである。
たとえ社交界から爪弾きにされようと、息苦しい中で生きるよりずっと幸せに違いない。

「シェアハウス?」
「ええ。私、お父様にいただいた屋敷を持っておりまして。小さいのですけれど、そこでエレナ様と一緒に暮らせたら楽しいだろうなと思って」

シャルロットの父はなかなかのやり手で、伯爵の仕事は長男にまかせ、商売に精を出している。
資産も潤沢で、シャルロットにもポンっと一軒家をプレゼントしてくれたのだ。
地味な隠居生活になるかもしれないが、この婚約破棄騒動を知れば二人分の生活費くらい喜んでだしてくれるだろう。

「それは素敵ですわ! どうせ今夜の醜聞で傷物扱いされるわたくしには、新しい婚約者など見つからないでしょうし。いえ、むしろ結婚するよりずっと楽しそう!」
「ずるいですわ、私も仲間に入れてくださいませ!」

すぐにアニエスも話に加わってきた。
もちろんシャルロットに断る理由など無く、「じゃあ三人で」と楽しく話していたところで、ヘンリーから「待った」の声がかかった。
存在感があまりにも薄く、誰もが彼の存在を忘れていたが、ヘンリーはアニエスの婚約者なのである。

「アニエス、僕たちの婚約は続いているはずだけど?」
「ヘンリー様、私はあなたとの婚約を解消するつもりですわ」
「なんだって?」
「だってヘンリー様、ご自分の友人があのように派手にやらかしているのに止めもせず、馬鹿にされた私たちを守ろうともしてくれなかったではないですか。そんな方との未来なんて想像できませんもの」

もう話すことなどないと言わんばかりに、アニエスはシャルロットたちに向き直るとキャッキャと再び盛り上がり始める。
ヘンリーはユリウスとフィリップ同様に顔色を失くし、彼らの周囲を華やかに彩っていたはずの令嬢たちもとっくにいなくなっていた。

元々、顔と羽振りが良く見える彼らに近付き、あわよくば愛人の座を狙っていただけの爵位の低い令嬢たちである。
雲行きが怪しくなったことで、早々に彼らを見限ったに違いない。

ようやく落ち着きを取り戻し始めた夜会会場で、婚約者を同時に失ったはずのシャルロット、エレナ、アニエスの表情は明るかった。
かつて婚約を破棄された令嬢らは居心地の悪さに耐え切れず、逃げるように夜会から立ち去るというのがセオリーだった。
しかし、今回そそくさと帰らざるをえなくなったのは令息三人のほうで、シャルロットたちは予想外に周囲に受け入れられていたのである。

おかしいわね、どうして皆こんなにフレンドリーなのかしら。
それにシェアハウスがこんなに支持されるなんて、思ってもみなかったわ。
もっと『婚約破棄された令嬢の墓場』みたいな扱いを受けると思っていたのに。

シャルロットとしては、貴族社会との決別を覚悟した上での大立ち回りのはずだった。
しかし蓋を開けてみれば、三人の堂々とした態度や、たとえ婚約を破棄されたとしても修道院へ入る以外の選択肢があることを提示してくれたシャルロットに、女性たちは大変な感銘を受けたのである。

夜会の翌日に社交界に広まったのは、迂闊に婚約破棄を宣言した令息側へ対する非難と、シェアハウスという新たな生活様式への羨望だった。


◆◆◆


三名の令嬢で始まったシェアハウス生活は快適そのものだった。
各自が適度な距離感を保ち、趣味や勉強に没頭しながらも、食事やお茶の時間には自然と集まって成果を報告し合っている。

そんなライフスタイルが斬新に見えるのか、今のところまだ他の入居者はいないものの、新しい物に目がない夫人や令嬢が、お茶菓子持参でたびたび遊びにくるようになった。
不思議なもので、結果的にシャルロットは夜会以前よりもずっと社交的な毎日を送ることになってしまった。
さらに——

「シャルロット様、私の結婚線はどうなっていますか?」
「私も見ていただきたくて!」

ある日、手相の話をしたことがきっかけで、来客数の増加に拍車がかかってしまった。

前世の日本で若い時分に一度は耳にする結婚線。
手相に興味や知識がなくとも何歳くらいで結婚するか、チャンスは何度あるのかなど、友人と盛り上がったりしたものだ。

シャルロットもかつての人生で話題になった結婚線の存在をふと思い出し、軽い気持ちで口にしてみただけだったのだが、すごい勢いで話に食いつかれてしまった。
それは『え、そんなに?』と驚くほどの食いつきぶりで、シャルロットは今では手相占い師のように扱われている。

いやいや、無理だって。
申し訳ないけれど、手相といっても結婚線と生命線、感情線、それに昔テレビで見たますかけ線くらいしか知らないのに……。

知っているのもほぼ名前だけで、線があるかないか、あっても長さや太さで判断するだけというド素人レベルである。
しかも、シャルロットが自分の右手を見てみたところ、見事に結婚線がなかった。

今現在、シャルロットに結婚願望はないのだし、独身を謳歌するつもりでシェアハウスを始めたのだから、なくても何も問題はない。
それなのに、実際結婚線がないとわかると地味にショックを受けるのだから、シャルロットは自分の身勝手さに苦笑するしかなかった。

のんびり隠居生活のはずが、『なんちゃって手相占い師』として人気者になってしまったシャルロット。
そんな彼女に実は恋の足音が聞こえ始めているのだが——シャルロットはまだ気付いていなかった。
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