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子爵令嬢の憂鬱
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シュナール王国に数多存在する貴族の中でも、レンダー子爵家は下から数えた方がかなり早い、下位に位置する貴族である。
男爵家でも事業が軌道に乗って羽振りの良い家がざらにある中、レンダー家はやたらと歴史が古いだけが取り柄の、いわゆる貧乏子爵家だった。
そんなレンダー子爵家には、ナタリアという名の年頃の娘がいる。
結婚適齢期と言われる年齢だが、今まで社交場に一度も現れたことがなく、『幻の令嬢』と密かに呼ばれていた。
『病弱説』や、『幼少期に病死した説』など、色々な噂が流れているが、本当は思いっきり健康な彼女が社交界デビューしていない理由など、ただ一つしかなかった。
「お金が無さ過ぎてドレスが買えないから」である。
ナタリア本人も全く社交界や貴族そのものに興味が無く、平民になって地味に生きたいという夢がある為、むしろその噂は好都合だった。
夜会なんて怖いところ、誰が行くもんですか。
きっと侯爵令嬢やら伯爵令嬢に、「この田舎娘!」とか罵られて、ワインを浴びせられるに決まってるわ。
それで逃げると、今度は遊び人の令息とかに暗い庭の片隅に連れこまれて、弄ばれてしまうのよ。
あぁ、なんて怖いの!!
古い変な小説に感化されたせいで、ナタリアの夜会の知識はかなりズレていた。
現在の夜会といえば、王太子の体質のせいでハチャメチャのグダグダになることが多く、そんな虐めや破廉恥な行為など起こりようがないことを、ナタリアはまだ知らなかった。
ナタリアには兄が1人いる。
レンダー子爵家の跡取り息子でもある。
とにかく持参金が少しでも多い令嬢との結婚を両親は望んでいるのだが、見た目も性格も地味な兄にはいまだ婚約者も居なかった。
「この際、お金さえあれば商人の娘でも構わない!」と、対象者を広げて現在婚活中である。
残念なことに、ナタリアはこの兄と見た目も性格もそっくりだった。
もちろん婚約者がいないところも同じだ。
ナタリアも、婚約者を見つける為にもいよいよ社交場に出る必要があると家族は考えていたが、そこにはいつもの『貧乏子爵家の悲しいお財布事情』が高い壁となって立ちはだかった。
どうしたって、無い袖は振れないのである。
しかし、今年もデビュタントの季節がやってきた。
「今年のデビュタントにはさすがに出ない訳にはいかないだろう」
「そうですね、父上。ナタリアも17ですし、今まではなんだかんだ理由をつけて先延ばしにしてきましたが・・・」
「今回は絶対に参加して、素敵な殿方に見染められないと。理想は、『持参金なしでOK!』な方ね」
父、兄、母が、ナタリア抜きで勝手なことを言っているのを、影からナタリアはこっそりと聞いていた。
みんな何を言ってるのかしら。
この地味顔でドレスも無いっていうのに、どうやって素敵なお相手を見つけろと?
そんな奇特な人、いる訳がないじゃない。
ナタリアは心の中で呟きながら、虚しさと腹立たしさを感じていたが、家族の会話は続いていく。
「問題はドレスだな」
「私のデビュタントの時の物を手直しします?」
「それはさすがに色が変わってませんか?」
・・・嫌すぎる。
何が悲しくて、デビュタントで1人黄ばんだドレスを着なくてはならないのか?
浮きまくりで、罰ゲームもいいところだ。
ナタリアは家族の前に姿を見せるとハッキリと言った。
「私はデビュタントには出ません。ドレスも無いですし、構わないですよね?」
よし、これで今年も回避できたわ!
いつもの免罪符のおかげでナタリアはすっかり安心していたが、今年はこれで終わらなかったのである。
「ナタリア様、良かったらこちらのドレスを使って下さい」
数日後、よく顔を出す修道院で、唐突にナタリアに差し出された白いドレス。
「ええと、このドレスは?」
動揺を隠しながら尋ねれば、シスター達がはにかみながら説明してくれた。
内容は、つまりはお礼らしい。
いつも修道院に隣接する孤児院の子供達と、遊んだり勉強を教えてくれているからだと。
いやいや、私がヒマなだけなんですー。
ここに来て、一緒にお昼をご馳走になれば、昼食代が浮くからなんですー。
子爵家の懐事情もなんとなく理解しているらしく、デビュタントに出られないナタリアに同情したのだろう。
「あの、この生地や仕立てはどうされたのですか?」
「とある貴族の方から寄付された布の中にあったのです。仕立ては私達と、子供達も手伝ってくれたのですよ?」
ええっ!?
貴族が修道院に寄付した布を、貴族の私が貰うのってどうなの?
そんなこと許される?
しかし、シスター達はニコニコと嬉しそうにナタリアが受け取るのを待っている。
い、言えないわ、一応貴族だから受け取れないなんて。
しかも子供達も手伝ってくれたのに、気持ちを踏みにじるようで気がひけるわ。
子爵家としてのプライドについても考えたが、ナタリアは有り難く受け取るしかなかった。
屋敷に帰り、家族にドレスを見せると・・・
「良くやった!これで参加出来るな!!」
「素敵なドレスねぇ。アクセサリーは私のでいいわよね?」
はい、うちの子爵家にプライドなんてありませんよねー。
わかってましたとも。
ドレスさえ無ければ断れたのに!!
ナタリアはデビュタントから逃げ出すことが出来なくなってしまった。
どうしてこんなことに・・・
ナタリアは憂鬱だった。
男爵家でも事業が軌道に乗って羽振りの良い家がざらにある中、レンダー家はやたらと歴史が古いだけが取り柄の、いわゆる貧乏子爵家だった。
そんなレンダー子爵家には、ナタリアという名の年頃の娘がいる。
結婚適齢期と言われる年齢だが、今まで社交場に一度も現れたことがなく、『幻の令嬢』と密かに呼ばれていた。
『病弱説』や、『幼少期に病死した説』など、色々な噂が流れているが、本当は思いっきり健康な彼女が社交界デビューしていない理由など、ただ一つしかなかった。
「お金が無さ過ぎてドレスが買えないから」である。
ナタリア本人も全く社交界や貴族そのものに興味が無く、平民になって地味に生きたいという夢がある為、むしろその噂は好都合だった。
夜会なんて怖いところ、誰が行くもんですか。
きっと侯爵令嬢やら伯爵令嬢に、「この田舎娘!」とか罵られて、ワインを浴びせられるに決まってるわ。
それで逃げると、今度は遊び人の令息とかに暗い庭の片隅に連れこまれて、弄ばれてしまうのよ。
あぁ、なんて怖いの!!
古い変な小説に感化されたせいで、ナタリアの夜会の知識はかなりズレていた。
現在の夜会といえば、王太子の体質のせいでハチャメチャのグダグダになることが多く、そんな虐めや破廉恥な行為など起こりようがないことを、ナタリアはまだ知らなかった。
ナタリアには兄が1人いる。
レンダー子爵家の跡取り息子でもある。
とにかく持参金が少しでも多い令嬢との結婚を両親は望んでいるのだが、見た目も性格も地味な兄にはいまだ婚約者も居なかった。
「この際、お金さえあれば商人の娘でも構わない!」と、対象者を広げて現在婚活中である。
残念なことに、ナタリアはこの兄と見た目も性格もそっくりだった。
もちろん婚約者がいないところも同じだ。
ナタリアも、婚約者を見つける為にもいよいよ社交場に出る必要があると家族は考えていたが、そこにはいつもの『貧乏子爵家の悲しいお財布事情』が高い壁となって立ちはだかった。
どうしたって、無い袖は振れないのである。
しかし、今年もデビュタントの季節がやってきた。
「今年のデビュタントにはさすがに出ない訳にはいかないだろう」
「そうですね、父上。ナタリアも17ですし、今まではなんだかんだ理由をつけて先延ばしにしてきましたが・・・」
「今回は絶対に参加して、素敵な殿方に見染められないと。理想は、『持参金なしでOK!』な方ね」
父、兄、母が、ナタリア抜きで勝手なことを言っているのを、影からナタリアはこっそりと聞いていた。
みんな何を言ってるのかしら。
この地味顔でドレスも無いっていうのに、どうやって素敵なお相手を見つけろと?
そんな奇特な人、いる訳がないじゃない。
ナタリアは心の中で呟きながら、虚しさと腹立たしさを感じていたが、家族の会話は続いていく。
「問題はドレスだな」
「私のデビュタントの時の物を手直しします?」
「それはさすがに色が変わってませんか?」
・・・嫌すぎる。
何が悲しくて、デビュタントで1人黄ばんだドレスを着なくてはならないのか?
浮きまくりで、罰ゲームもいいところだ。
ナタリアは家族の前に姿を見せるとハッキリと言った。
「私はデビュタントには出ません。ドレスも無いですし、構わないですよね?」
よし、これで今年も回避できたわ!
いつもの免罪符のおかげでナタリアはすっかり安心していたが、今年はこれで終わらなかったのである。
「ナタリア様、良かったらこちらのドレスを使って下さい」
数日後、よく顔を出す修道院で、唐突にナタリアに差し出された白いドレス。
「ええと、このドレスは?」
動揺を隠しながら尋ねれば、シスター達がはにかみながら説明してくれた。
内容は、つまりはお礼らしい。
いつも修道院に隣接する孤児院の子供達と、遊んだり勉強を教えてくれているからだと。
いやいや、私がヒマなだけなんですー。
ここに来て、一緒にお昼をご馳走になれば、昼食代が浮くからなんですー。
子爵家の懐事情もなんとなく理解しているらしく、デビュタントに出られないナタリアに同情したのだろう。
「あの、この生地や仕立てはどうされたのですか?」
「とある貴族の方から寄付された布の中にあったのです。仕立ては私達と、子供達も手伝ってくれたのですよ?」
ええっ!?
貴族が修道院に寄付した布を、貴族の私が貰うのってどうなの?
そんなこと許される?
しかし、シスター達はニコニコと嬉しそうにナタリアが受け取るのを待っている。
い、言えないわ、一応貴族だから受け取れないなんて。
しかも子供達も手伝ってくれたのに、気持ちを踏みにじるようで気がひけるわ。
子爵家としてのプライドについても考えたが、ナタリアは有り難く受け取るしかなかった。
屋敷に帰り、家族にドレスを見せると・・・
「良くやった!これで参加出来るな!!」
「素敵なドレスねぇ。アクセサリーは私のでいいわよね?」
はい、うちの子爵家にプライドなんてありませんよねー。
わかってましたとも。
ドレスさえ無ければ断れたのに!!
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どうしてこんなことに・・・
ナタリアは憂鬱だった。
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