【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ

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王太子の憂鬱

ここシュナール王国は、大陸に数ある国の中でも有数の歴史ある大国である。
周辺国と比べても治安は良好、城下町も活気に溢れ、暮らし易さは折り紙付き、一見何の問題もない豊かな国に見えた。
ある一点を除いては・・・


シュナール王国の王太子フェルゼンは、俯きながら城の廊下を歩いていた。
気分はこの上なく憂鬱で、特に行くあてもなかったが、鬱屈した気分に堪えきれず、仕方なくのそのそと部屋を出てきたのである。
吹き抜けの階段から階下を覗けば、忙しなく行き交う使用人が目に入り、否応なく今夜の夜会を思い起こさせた。

今日はこの城で夜会が行われる。
初めて夜会に訪れる若者にとって、社交界での最初のお披露目となるデビュタントが開かれるのだ。
一年に一度の華やかな場にも関わらず、今夜も繰り広げられるであろう惨状を思うと、フェルゼンは無意識に溜め息を吐いていた。


フェルゼンは、生まれつき困った体質をしていた。
特異体質の一種なのだろうか、相手の性別関係なく、ところ構わずフェロモンを撒き散らしてしまうのである。
そう聞くと女性にモテる素晴らしい能力だと思われがちだが、彼の場合は度を越していた。
もはや、モテるとかモテないなどというレベルの話ではおさまらないのだ。

それはフェルゼン誕生の時まで遡る。
産声をあげてこの世に生まれ出たフェルゼンに、まず医師と産婆がやられた。
輝くような美しい赤子の姿と、祝福の鐘の音かと錯覚を起こす泣き声に、呆気なく失神したのである。
次いで、驚き慌てて駆け寄った侍女ら、喜び勇んで入室した父である国王、何が起きたのか心配して目をやった母までもがフェルゼンを見て気を失い、産声を耳にしただけの城の使用人が腰を抜かした。
嘘みたいな話だが、おかげで生まれたてのフェルゼンは、皆が意識を取り戻すまでしばらく裸のまま放置されていたそうだ。
王太子の誕生とも思えない悲惨な状況である。
この奇妙な出来事の原因はすぐに宰相を中心に調査され、あっさりと謎は解明された。
フェルゼンの美しさ、そして何よりも放たれるフェロモンに充てられた結果だと結論づけられたのである。

幸いなことに、日々顔を合わせ免疫が出来ることによって、徐々に両親や使用人はそのフェロモンに慣れていった。
おかげで、周囲の者だけは無闇に失神しなくなった。
あくまで周囲の人間だけではあるが。

困ったことに、成長するにつれてフェルゼンの美男子っぷりは加速した。
ふわりとした金色の髪は神々しいほどに輝き、神話に出てくるような鼻筋の通った美しい顔、曇りのないエメラルドの瞳、耳障りのいい声、しなやかな体躯・・・
フェロモンは成長と共にますます濃く放たれ、辺りに漂っていく。
その結果、他国の王族との交流、国内行事、私的なお茶会、貴族子息との勉強会、そのどれもが苦い思い出ばかりになってしまった。
なぜなら、フェルゼンのフェロモンに免疫のない周りの人間が、次々にバタバタと気を失っていくのである。
看護に駆け付けた者までもが失神し、まるで阿鼻叫喚の地獄絵図と成り果てた。

ただ辛うじて良かったのは、皆に失神する際の気分を聞くと、皆一様に気持ちが良く、花畑の中を天使に連れられていく感じだったと答えたことだろう。
しかし気を失うのは危険な行為であり、フェルゼンが行動する時はいつも医師が同行する始末である。

ああ、今年もこの日が来てしまった・・・
またあの光景が繰り広げられるのか。

フェルゼンは暗澹たる思いで、去年までのデビュタントを思い出していた。

次々と運ばれていく白いドレスの少女たち・・・
フェルゼンと初めて対面する令嬢らに、フェロモンは面白いほどに効果覿面だった。
国王への自己紹介の為に並び立つ令嬢は、国王の隣に立つフェルゼンを目にした途端に倒れてしまう。
もちろん貴族にはフェルゼンの体質は周知の事実なので、皆対策は怠らない。
フェルゼンと目は合わせない、会話もしない、距離をとるという基本の3ヶ条が存在するのだが、興味本意でつい見てしまい倒れる令嬢もいれば、香りだけで失神してしまう令嬢もいた。
もはや、一度失神を経験したい!いうチャレンジャーまで現れ、デビュタントはいつも大惨事となってしまうのである。

私は出席しない方がいいと訴えているのに、婚約者探しだからと押し切られてしまうし。
いやいや、こんな状態で婚約者など無理に決まっているではないか!!
今日もまた同じことの繰り返しに決まっている・・・

今夜もあらかじめ、失神する令嬢用の休憩室が大量に準備されているのを横目に見ながら、うっかり面識の少ない使用人と顔を合わせたら迷惑をかけてしまうと考え、フェルゼンはとぼとぼと自室へ戻っていった。


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