さよならをいう前に

九時木

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 私がここで「書きたい」と言えば、あなたは嫌な顔をするでしょう。

 あなたは何事も安易に言葉にするのを嫌うからです。言葉にすることで、私たちの関係が陳腐なものに成り下がるのが嫌だからです。

 しかし、私が書けるものは、浅はかな美しさだけです。

 あなたはあまりにも美しく、潔癖です。私の手には負えないくらい、気高く一直線なのです。

 私がここに何かを書けば、あなたは私を軽蔑するのでしょう。「また軽はずみなことをしているのか」と言って睨むのでしょう。

 私は公然とさらします。しかし、中身のない内容をではありません。そこで示されるのは、あなたとの関係です。

 あなたと私が一切の世迷言を断ち、ただ互いの持つものを妥協なく直視したという、その事実を記すだけです。


 結局、人間には足るを知らずに生きていくことしかありません。最後の最後まで、余剰なものを生み出して世に出すことしかできないのです。

 欲求を満たし、それを描くことで、確かに見えたものを残そうとする。

 しかし結局のところ、物語は余剰生産物でしかありません。現在において交わされた呼吸を完全に再現することはできず、ただ全てを後付けでしか残せないものなのです。

 世にばらまかれたものたちは、さしずめそんなところです。この世には、あなたが忌み嫌うものたちが残されているだけで、あなたを満たしてくれる物語は何処にもありません。

 あなたが求めるのは、物語ではなく、存在そのものです。閉ざされた空間で、その時にしか見つからないような要素を探り当て、自分たちが確かに在るのを知ることだけです。

 それ以外は、あなたにとってはどんなものも紛い物です。


 世の人々は、あなたのことを知りません。

 あなたがどのような人かについて、また私とどのような関係であるかについては、私が詳しく話さない限りは誰にも知る由がないのです。

 もちろん、あなたは私たちの間にある関係を世にさらしたくないでしょう。しかし、その意思については私の方も変わりません。

 私たちのやり取りを汚したくないからではありません。ただ詳細を語るのは不可能だと思うだけです。

 私が書けるのは、風味だけです。具体的な出来事は信用に値しません。風味だけが私に確信を持たせてくれます。


 今の私は満たされています。あなたが確かな形で満たしてくれたからです。

 あなたが私を受け止め、皮肉を言い、私の前で泣き、独善的な姿勢を示してくれたからです。

 あなたとのやり取りよりも、喉の渇きを潤すためにふと水を手に取った私を、あなたは止めませんでした。

 また二項対立について話した時も、あなたは真面目に答えてくれました。

 あなたは私の無関心を引き止め、私から息継ぎをする時間を奪い、私の前で打ちのめされたように脱力しました。

 ふと窓を見ると、外の世界は淀んでいました。真っ青な空が、時が止まったかのようにそこに居座っていました。


 あなたは、明日も、明後日も、これからも何も変わらないと言いました。

 何も変わらず、ただ互いの存在だけが串刺しになってつなぎ止められているだけだと言いました。

 私は不意に、あなたが私を破綻させたと言いました。あなたはそれに対して、君はもっと相手を悪者にしなければならないと返しました。

 徹底的に責任を転嫁し、自分が何も背負わないようにしなければならないと説きました。

 私が憂鬱な顔をすると、あなたは私に微笑みかけました。それから微かに悲しげな顔をし、私をまっすぐに受け止めました。


 これ以上書くことは何もありません。書いてしまえば、余計な虫が集るだけです。

 早く物語を閉ざさなければなりませんね。窓を閉め、確かな存在が落ち着いていられる空間を守ってやらねばなりません。

 いつだって、必要なのはそれだけなのです。あなたもこのことには頷いてくれるでしょうか。

 世の中を満たすのは、結局のところ存在と関係だけです。あなたが教えてくれたその答えを、私はこの場を借りて静かに書き残すだけです。
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