さよならをいう前に

九時木

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 植物を眺めていると、複雑な気持ちになります。

 私にとって、植物は尊厳と後悔の象徴です。その生き物を見ると、喜びと悲しみが同時に湧き、頭の中がぐちゃぐちゃになります。

 与えられてばかりなのに、私の方は壊してばかりな気がする。植物に対しては、どうにも誤魔化しようのない罪悪感があります。


 その日は久しぶりに、観葉植物を手に入れました。まだ幹が細く丈夫でない、1株の小さなパキラです。

 葉は所々茶色がかっています。形も全体的に乱れがちです。

 あまり健康そうではない、むしろ病気がちなパキラでした。

 300円で店頭に並べられていました。私はそんなパキラを買いました。


 帰宅直後、私は植え替えをしました。鉢底石と土を鉢に入れ、パキラを新しい環境へ招きました。

 はじめは生気がないように見えたのですが、葉水をしてやると、途端に活き活きとし始めました。

 葉の表面が艶々としていました。パキラはきめ細かな水滴を受け、すっかり喜んでいるようでした。


 パキラを眺めているうちに、自分の荒んだ心が徐々に解れていきました。

 静かな緑が、私を落ち着かせてくれました。葉先には水滴が垂れ、表面張力でずっと張り付いていました。

 あまりにも長いこと見すぎたのでしょうか。私はその雫の中に、この世界の全てが閉じ込められているような気さえしました。

 葉と水滴は、太古の昔からずっとこうしていたのかもしれないと、こう在り続けてきたのかもしれないと、ふとそんな想像が膨らみました。

 目の前には、太古の昔から現代に至るまで、連綿と続く生命がささやかに映し出されていました。


 私は鉢を近付けたり遠ざけたり回転させたり、様々な角度からパキラを眺め続けました。

 どこにも移動せず、ただそこに在るだけの植物を、じっくりと時間をかけて観察しました。

 パキラは何も言いませんでした。「水をください」とも「寒いです」とも言わず、ただ目の前で葉を広げているだけでした。

 同じ場所で、何も言わず、ずっと世界を見続けているようでした。

 そんな植物の在り方を知った時、私の中で複数の感情が一斉に湧きました。

 あの抗い難い、私をたちまち無力感に陥らせるような感覚が、不意に私を襲いました。


 ところで、観葉植物の中には、何ヶ月放置されても生き延びるものがいます。

 長い間水を与えられず、弱りはしても、決して死なないものがいます。

 猛暑の部屋で、水なしの状態で何ヶ月も放置される。それでも弱り果てた姿で生き残るものがいるのです。


 野生植物には、まだ自由の余地があります。彼らは雨や風のおかげで、どこかへ旅をしたり自分の居場所を模索できるからです。

 しかし、観葉植物には移動が許されていません。ただ狭い鉢の中で、ぎゅうぎゅうに根を詰めながら、暑かろうが寒かろうがそこで耐えるしかないのです。

 また広がりすぎれば、人の手によって剪定され、最悪の場合は淘汰されてしまいます。

 水も空気も温度も、葉の広がり具合も、観葉植物が生きるための全てが人の手にかかっているのです。


 彼らがどのようにして生きるかを、彼ら自身ではなく人が握っている。

 彼らが生きるのは、もしかすれば決定的な自由を奪われた監獄のような場所なのかもしれません。

 観葉植物自体は何の罪もおかしてはいないはずなのですが、何故か彼らは毎日そこで過ごしています。

 それでも、観葉植物は自分では選べない場所に不満を漏らすこともなく、水が足りないと言って騒ぐこともない。

 何かが足りない時は、ただ無言で沈み死に絶える。

 「あなたが憎い」とも「何もかもお終いにしてやる」とも脅さず、ただ独りで打ちのめされたように萎れていく。それが彼らです。


 自分があまりにも局所的に解釈しすぎていることは自覚しています。

 それでも、何も言わない彼らを見ていると、頭の中が嫌に散らかってしまうのです。

 一番耐え難いのは、何も言わないことです。せめて文句を言ってくれれば良いのですが、実際にはそうしません。

 だから、ただ観察するしかないのです。観察し、彼らが何を言わんとしているのか、よく見て知ろうとするしかないのです。

 無罪の存在を懺悔するように、憐れむように、そんな看守のように世話をするしかありません。

 大事にしてやらねばと思います。目の前の病気がちなパキラはもちろん、今でこそ元気に育っている他の観葉植物を見ていると、尚更そう思います。
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