公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優

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98話

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   さっきより、勢いが収まっている。お姉様、もう止まって___。これ以上は私も、耐えられない。あと、ちょっとなのに。

    「ティアナっ!」

  この声は___。

ティアナは、エリーに覆いかぶさりながらも微かに目を開け、声のした方を見た。安心する、この声。

     「お、お父様…。」

  お父様、来てくれたんだ。もう少しで、お姉様は助かるから、あと少しで。

     「…お姉様、」

___もう、やめて。

すると、ティアナの願いが届いたのか。吹き荒れていた暴風が、優しい風へと変わった。嵐のように渦巻いていた神聖力は、完全に吸収されたとはいかないが、通常の安定した状態になった。ティアナの手は、膨大な神聖力を集中させていたため、火傷のように手が赤くただれていた。

    「……終わったのね…。」

ティアナは、ゆっくりと身体を起こし自分の手を見た。悲惨な状態がわかる、自分の手を。

    「私が、やったんだ。私がお姉様を救った……。」

   お姉様、もう苦しくなさそう。眠っているわ。良かった。

   ティアナは、空を見上げた。エリーを救えたことに安心したのだ。胸には、確かな誇りに満ちていた。暴走していた神聖力が、いきなり安定したのは"聖なる奇跡"だと思えた。

    「ティアナっ!エリー!」

公爵は地面に座っているティアナを抱きしめた。2人の命があることを確認すると、体から引き離し、公爵はただれたティアナの手を見た。幼い子供が負うには痛々しい傷の跡。

    「大丈夫です…。お姉様を救えたので…。」

ティアナは、苦しそうに笑顔を向けた。

   お父様は、きっと私の手を見て、心配してる。でも、本当に大丈夫。なんでだろう、痛みを感じない。

    「今すぐ、神殿の者を呼んでこい!」

    「はっ!」

ヴァイスは、呆然としていたが公爵の命令で我に返った。
  
   「大丈夫だ、直ぐに手は治るからな。絶対に治すからな。」

   「ありがとう、ご、ざいます。」

    「ティアナ、ティアナ。俺が、もっと強かったらこんなんにならなかったのに痛い思いさせてごめんな…。」

    「ふふっ、大丈夫だって…。」

   リアムが泣いてる。顔がぐちゃぐちゃだよ、リアム。ちょっと面白いけど。こんなに泣いてるのは、初めて見るなぁ。ステラも、凄く心配そうな顔をしてる。なんともないから大丈夫だよ。

     「父上、これは一体。」

ギルバートは、驚いた様子で重い足取りでティアナとエリーの元へ寄った。

     「ティアナ、その手は……。」

ギルバートは、何が起きたかわかっていない様子だった。
  
     「とりあえず、エリーとティアナを部屋に戻す。直ぐに神官が来る。」

     「わ、分かりました。」

     「この一件は、リアムとステラに聞くとしよう。」

ステラと、リアムは真剣な表情をしていた。重く、このことを受け止めていたのだ。すると、「…ティアナ…」と、声が聞こえた。ティアナは、音のする方に顔を向けた。そこには、意識を取り戻したばかりのエリーの姿があった。

      「エリー。目覚めたんだな、苦しい思いをしていたのに、何も出来ずにすまなかった。」

      「いえ、ティアが助けてくれたので。」

ティアナは、咄嗟に自分の両手をエリーに見せないように隠した。

   お姉様が、私の手を見たらきっと深く落ち込む。そんな思いはして欲しくない。

     「エリーもティアナも無事で良かったよぉ。ぐずっぐすっ」

リアムは、2人の無事が分かると安堵し涙を流していた。

      「ティア、助けてくれてありがとう。」

      「うん」

    あれ、なんか、心臓が痛い。身体が、熱い___。

    
   
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