悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲

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22.婚約破棄事件の真相

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「…あっ!失礼しました!」
ブライス殿はつい叫んでしまった事に慌てて謝ってくる。
しかし叫んだ事を咎める気は起きない。

(そりゃ叫びたくもなりますよね)
彼の様子を見る限り王女殿下と恋仲ではなく仲良くしてくれる人程度の認識だった様子だ。

「いや責めるべきは君ではなくアシュリンだ。何を考えているんだ本当に」
愛称で呼ぶ意味を王女殿下は知っていたはずなのにその意味を教えずに呼ばせていたなんて。
最悪、社交界でやらなければ別に咎められる事はないがお2人の関係についての噂があった所を考えるに人前でも関係なく愛称で呼んでいたのだろう。


「…王女殿下は最初からブライス殿と恋人になる気だったのかもしれませんね」
「そんなっ!ヒューゴ様と婚約者だったんですよ!?」
「…今の状態のアシュリンならそのつもりだったと言われても納得できるのは悲しいな」
王女殿下は最初からブライス殿を恋人にする気だった。
薄々分かっていた事だったが改めて可能性が高くなると何とも言えなくなる。


「信じていただけないかもしれませんが俺は王女殿下とそんな関係になるつもりは一切ありません」
真っ直ぐした目で言われ私達は頷き合った。

「ブライス殿、今は婚約破棄の件の事情を聞きたいんだ。話を戻そう…私は貴方を疑ってなどいませんよ」
ヒューゴ様に優しく言われてブライス殿は涙目になりながら事情を話し始める。

「まず最初に言ったように嫌がらせ自体はあるにはあったのですが、その犯人がガンダー公爵令息だなんて王女殿下に言っていません…ただ1度本気で命を危機を感じた事があって」
ブライス殿の顔色が明らかに曇った。
「命の危機!?初耳ですが!?」
「待ってください!神の祝福を受けた人間である彼に命の危機があったのなら大騒ぎになるはず!」


「それがならなかった…どうやらアシュリンが関係者全員に口止めしたようだ」
「その命の危機を感じた、というのが背中を押されて階段から落ちた事で、幸い受け身を取れたので軽傷で済んだんですが。


落ちる瞬間、俺を押した人間を見たんです一瞬でしたけど」
気まずそうな表情になりつつヒューゴ様を見る。

「犯人を見ていたのですか!?」
「と言っても本当に一瞬だったので!!誰か分からなかったんです。

俺より背丈のある髪色が暗くて上位貴族らしき男としか」

(えっ…それだけ?)

あまりの情報量の少なさにポカンッとしてしまった。
ブライス殿の身長は160後半辺りだろう
それより大きい貴族男性がどれだけいる事か。
髪色が暗い人に絞る事はできるが個人を特定できる材料ではない。


「それを王女殿下に伝えた所…


何故かガンダー公爵令息が犯人だと言い出しまして」
「…何故?」無意識にそう呟いていた。

「確かにその特徴、ヒューゴ様に合いますけれど何故すぐにヒューゴ様だと思ったのでしょう?」
そこが不思議過ぎる。
私が考え込んでいると王太子殿下が口を開いた。


「恐らく…だがヒューゴには動機があると思ったんだろうなあの愚妹の中では」
「もしやそれが…あの時俺がブライス殿に嫉妬したとか言っていた」
「そう言えばそんな事言ってらっしゃいましたね」
お2人の話に納得して頷く。
王女殿下はヒューゴ様に動機があると思ったからあんな事をしたのか。


「俺は何度も顔を見てない事と犯人がガンダー公爵令息とは限らないとは言ったんですけど。話を聞いてもらえなくて…てっきりあのパーティーの時まで調査をしているんだろうと思ったんですが」
「実際は調査するどころか思い込みが暴走してあんな事になったと…」
王太子殿下は頭を抱え込んで項垂れてしまった。


(やっぱり王女殿下の性格の問題だったのかしら?)


トントンッ
扉がノックされて王太子殿下が入っていいと伝える。
侍女が入ってきて紅茶の用意をし始めた。

「一旦休憩させてくれ…色々あり過ぎて頭が痛くなってきた」
「お気持ちお察しします…」

手早く私達の前にティーカップが置かれていく。
(流石王宮の侍女、仕事が早い上にとても丁寧だわ)


「ブライス殿、砂糖は」
「あっでは1ついただけますか」

ブライス殿はカップを左手で持ちゆっくり紅茶を飲んだ。

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