悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲

文字の大きさ
43 / 55

42.前世の私の話

しおりを挟む
「それでは私はここで!」
とミラは部屋を出て行ってしまった。

(彼女にも話せるなら話した方が…いいえ今は彼に)

「ヒューゴ様こちらに、座ってお話ししますわ」「あぁ」
向かい合ったソファに1人ずつ座る。
「まずは…そうですわね。私の前世について話しましょうか」
深呼吸して話を始めた。


「私は前世で日本という国の一般階級の人間でした」「日本?」
聞いた事もない国名だから疑問に思うのも当たり前だろう。

「詳しく話すと長くなるので…少なくともこの国とはだいぶ雰囲気の違う国でした。色んな文化がかなり発達していて私は日本が好きでした」
「…もしやクレマー商会で売られている商品達は」
流石ヒューゴ様察しが良い、私は笑顔で頷いた。


「前世にあった物をこちらの世界で通用するように改造したんです。そのおかげで家を立て直す事は出来ましたが…狡いですわね」
「…狡いなんて思わないさ雰囲気が違う前世の世界の物をこの世界で使えるようにしたのは間違いなく君の成果だろう?」
心の内にあった罪悪感が彼の言葉で少し軽くなったように感じる。

「ありがとうございます。ヒューゴ様」
お礼を言ったその口で私は彼に残酷な事を告げないといけない。

「今から話す事はこれよりももっと信じ難い物だと思いますがどうか、どうか落ち着いて聞いてほしいんです」
「分かった」
あっさりと即答されて驚きつつもそんな彼が好きだなと思った。


「この世界は…前世の世界で小説として存在していました」
「っ!?小説と、して?」
「はい」
ヒューゴ様の戸惑いは当然の反応だと思う。

いきなり今いる世界は別の世界で小説として存在していますなんてすぐ咀嚼できる情報じゃない。


だってそれは遠回しに、貴方は物語の設定キャラクターですと言っているものだ。


「…ごめんなさい。こんな話をしてしまって」
「いや謝らないでくれただ心底驚いただけだ。この世界が小説の中だという事に」
「あくまでも私の前世の世界では、そうだっただけですわ」
そう、そこが一番大事な所。
前世の世界で小説として存在していたからといってこの世界が小説の世界そのものであるとは限らない。

「この世界の人達が皆生きている人間であり全て筋書き通りに動いている訳でもありません。私の世界の小説とこの世界が似ているのは…

です」
彼の目を見てはっきりとそう言った私に少し安堵した様子を見せた。
しっかりとした根拠がある訳でも証拠を見せられる訳でもないがそれでも言い切れる。


「イヴァ、聞きたい事があるんだ」
眉を寄せて下を向いてしまった。

「これは俺の予想でしかない…どうか答えてほしいまさか」
その言葉の続きを察せない程頭は悪くないつもりで私は全てを正直に話す覚悟を決めている。

「まさか、父上もそうだったのか?

父上も君と同じようにこの世界が小説として存在していた世界から」
聡明なヒューゴ様ならある程度の情報を話した所で気付くだろうと分かっていた。


「誘拐されて閉じ込められた時に教えてもらいました…ガンダー公爵も私と同じような世界の記憶があるそうです

そして今までの騒動を起こしたのはこの世界が小説そのままの世界であると思い込んで小説通りにしようとした結果だったそうで…小説通りの行動をせず前世の記憶を持つ私が邪魔だったから」
「…君を攫って閉じ込める事でその小説とやらの筋書きに寄せようとしたのか」
私のぎこちない説明でも全てを理解したらしいヒューゴ様の顔色はあまりよくない。


「父上はどこかで君のように俺達が生きている人間だとは思ってくれなかったんだろうか…いやすまない君に言っても仕方ないのに」
「謝らないでくださいそう思うのは当たり前です…

ただ今はヒューゴ様にとってかなり重要な事を話したいと思っています」
そうここから本題なのだ。
私は彼に酷い事を言わないといけない。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」  大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。  けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。  王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。  婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。  だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?

ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」  華やかな夜会の真っ最中。  王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。 「……あ、そうなんですね」  私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。 「で? 次のご予定は?」 「……は?」

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました

ほーみ
恋愛
 王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。  貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。 「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」  会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。

婚約破棄?はい、どうぞお好きに!悪役令嬢は忙しいんです

ほーみ
恋愛
 王国アスティリア最大の劇場──もとい、王立学園の大講堂にて。  本日上演されるのは、わたくしリリアーナ・ヴァレンティアを断罪する、王太子殿下主催の茶番劇である。  壇上には、舞台の主役を気取った王太子アレクシス。その隣には、純白のドレスをひらつかせた侯爵令嬢エリーナ。  そして観客席には、好奇心で目を輝かせる学生たち。ざわめき、ひそひそ声、侮蔑の視線。  ふふ……完璧な舞台準備ね。 「リリアーナ・ヴァレンティア! そなたの悪行はすでに暴かれた!」  王太子の声が響く。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?

パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。 侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。 「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」 これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。

処理中です...