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21誘拐
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狼人タルブの件が収束するまでは朝の武術鍛錬にも出られないから、暇である。習慣で毎朝同じ時間に目が覚めるから館の周りを走り玄関前で演舞をひとさらいし、館に戻って身体を清め乾燥小魚とミルクを口にする。
エーヴェルト邸で食べていた朝食を館でマティアスと共に摂り、一緒に王城へと歩いて出掛け魔法研究室の白マントを羽織る。先日冒険者ギルドへ行って購入してきたアウトドア用品の改良でもしてみるか、と『空間』から背負い袋を出して一つずつ確認していく。
「サキくん、それ何ですかー」
「見せて見せて」
表になど出ない白マント研究員たちは冒険者用に作られた野宿セットが物珍しい様子で、わらわらと集まってきた。サキが説明をしていると、気の早いものがテントや寝袋を広げ出している。こんな狭い場所で広げられるものではないから慌ててそれを留め、代わりにコッヘルや簡易コンロなどのキッチンセットを出してやる。
「あれ、ここ魔方陣無駄じゃない?」
「ほんとだもっと省略できるね」
「ここはこれ外しちゃっても動くでしょ」
「あ、ではこちらも外して大丈夫ですね」
簡易キッチンセットが瞬く間に分解され、再セットされた。重さが半分ほどに減り性能は格段に良くなっている。魔方陣を改良して部品をいくつか外しただけだから、これならば価格は下がるはずである。
「さっきのテントと寝袋も広い場所で作業してみよう」
「サキくん、出して出して」
結局アウトドア用品は全て出して広い場所で作業することになった。王城の中庭の一つにぞろぞろと白マントが移動し、サキが『空間』から背負い袋を出して皆でテントを広げる。背負い袋を確認する白マントの一人が、これも魔方陣と魔石を組み込めば容量を増やしたり軽くしたりできるのでは、とその場でしゃがみ込み唸り出す。
テント班と化した白マントたちの方は、布が重すぎる、組み立てが面倒、中骨が折れそう、何日も泊まったら臭くなりそう、などと好き勝手騒いだあげく浄化軽量耐久の魔方陣を、とこちらも唸り出した。
空中に次々と浮かんでは消えていく魔方陣の数々は、流石見事なものである。一人の構築した魔方陣に別の一人が魔方陣を重ねる、あぁそれでは美しくないよ無駄が多すぎる。もう一人が新たな魔方陣を浮かび上がらせ、それだと二人が叫ぶ。
サキは研究熱に浮かされた白マントの面々をぐるりと眺め、自分は寝袋の改良に手を付け始めた。こちらも浄化軽量圧縮耐久、結界も入れておくかと魔方陣を構築していく。一つ二つ三つ、計五つの魔方陣を重ねたあとでこれでは普通の冒険者には扱えないか、と再度練り直す。
「あ、皆さんすみません。冒険者の誰でも使える仕様でお願いします」
「えぇっ、今さら?」
「魔力のない人間がっていうと、これでは無理か」
「冒険者が使うなら魔石もあまり使えないだろう」
「うへえ、やり直しかー」
実に楽しそうで何よりである。とそこへ籠を手にした女性たちが中庭へやって来た、まっすぐサキの所へやってきた女性たちは昼食を届けに参りましたと言う。
一体誰がと尋ねる前に白マントの一人が奇声を上げて女性ではなく籠へと飛びつき、具材の挟まったパンを手にしていた。奇声はおそらく謝礼のつもりであろうが女性たちにそれがわかるはずもなく、籠を置くと逃げるように立ち去ってしまった。
白マントたちが既に籠を囲みパンを手にして美味いと叫んでいるので、まあいいかとサキも気を緩める。女性たちの精気が乱れていたので不信に思ったのだが、この面子に近づくには勇気がいるのかもしれない。
サキは一旦片づけましょうと声を掛けて、作業中だったアウトドア用品を背負い袋へと収納した。パンを手にして一口齧り、さくりとした野菜の食感と染み出る肉の旨味に頬が緩む。瓶に入った果汁をコップへ入れてもらい、喉を潤しながらパンを食べ進めた。
目が覚めるとそこは暗くて、サキはあれと思った。中庭で作業していて昼食を食べた後の記憶がない、昼寝でもしてしまったかと身じろぎしようとして、腕と足が縛られていることに気づいた。腕は身体の前で縛られているし痛くはないが、猿ぐつわまで嵌められており不快である。
どこかの結界の中なのか、マティアスに送ろうとした伝魔法は通じない。
嫌な記憶が蘇って、身体が大きく震えた。
頭を振ってピアスが無事か確かめると、両耳に確かな存在を感じた。白マントの皆は無事だろうか、王城の中庭で堂々誘拐が起こるとは後の事の方が恐ろしい、と考えてサキは目を閉じて父親を思う。
きっと探し出してくれるから大丈夫、気を抜けば心に迫る押し潰されて息が上手く吸えないような恐怖を、無理やり鼻で呼吸を整え押し込めた。
(何の目的かまったくわからないな)
辺りは暗く静かで転がされた床は砂でざらりとしていて硬く冷たい。暗闇で手を伸ばせば布が手に触れた、確かめるとそれはサキの背負い袋である。人の気配もしないし何も見えないのは困るからひとまず明かりでも灯すか、と背負い袋からアウトドア用品のライトを取り出し明かりを付けた。昼間誰かが改良をしていたらしく、光源は明るさを増している。
ほっと息をつくとサキはまず腕の拘束を解こうとアウトドア用品からカトラリーの小さなナイフを出し、それを膝に挟んで腕の縄を少しずつ削り始めた。
腕の拘束が外れると猿ぐつわを外し、足の拘束も外しておく。自由になった身体でライトを掲げて今いる場所を確認すれば、つるりとした白い石でできた壁にぐるりと囲まれている。床も同じ石で真ん中に大きな魔方陣が描かれていた。
(大理石に古代文字の魔方陣、聞いたことないな)
わからないものには触らない方がいいだろう、魔方陣を踏まないようにぐるりと部屋を歩き、扉が見つからないことだけがわかった。
(扉がなくて部屋がある?そんなはずない)
ライトを精一杯上に掲げても天井は暗くて見えないから、もしかしたら上から降りてくるように造られているのかもしれない。丁寧に床を見て行けばざらりとした砂を擦るように梯子の足を置いた跡と、大きな靴の足跡が一人分見つかった。
サキをここへ閉じ込め梯子を外して置き去りにした、背負い袋も置いていったのは情けだろうか。手を下して殺すつもりはないが死んでも構わないと思っているということだ。
(まったく身に覚えがない)
ここから出られる手立てもないし、もう少し状況を見極めてもいいだろう。サキは冷静に判断を下し魔方陣を踏まぬようにテントを設営し、簡易キッチンセットを出して携帯食で温かいスープを作って飲んだ。大理石の床は冷えるからテントの中に入り寝袋にしっかりくるまると、明日に備えようとぎゅっと目をつぶった。
目が覚めてテントを出ても大理石の部屋は何も変わっていなかった。明かりがまったく入らないので体内時計を信じるしかないが起床時間なのであろう。いつもの通り過ごすしかないか、と巨大な魔方陣の周りをぐるぐる走り武術の型をいつも通りさらった。
風呂には入れないので浄化魔法を施そうとして、そういえば魔法が使えなかったことに気づいた。試しに伝魔法も使ってみるが通じない。
流れる汗を布巾で拭い、浄化魔法が使えないのは不便だなと改めて思う。魔法が使えないのであればサキがここにいることにマティアスたちが気がつくのは、どれくらい時間が掛かるのだろうか。おそらく呼び寄せの魔法も効かず焦れているマティアスが目に浮かぶ。
魔法が使えず自分でこの状況を打破しなくてはいけないとなると、やはり魔方陣の解読であろう。古代語は詳しくないのだが、目にしたことならある。急がねば背負い袋にある食料もそのうち底をつく。沸いてきたぞっとしない考えにサキは首を振って、魔方陣の解読に全神経を集中させた。
何度目かの眩暈に襲われてサキはふらりとした身体を片手で支えようとして、そのまま崩れた。床に座っていたから頭を打つことはなかったが、食べ物を口にしなくなってずいぶん経つ。水分もなくなったからひどい脱水症状なのかもしれない。
カタンとどこかで小さな音がした。ライトの魔石はだいぶ前に切れ、魔力を補充することができないから魔石自体が粉々に砕けてしまった。長いこと静かで暗い空間にいたから耳の感覚だけがやけに鋭い。
(なんだろう)
カタンガタンと音が聞こえたが目は見えないし、衰弱しており起き上がる気力はなかった。
暗闇の中足音を立てずに誰かが近づいてくる。視ればよく知った魔力の色と精気であるが、今日はだいぶ精気が乱れている。
(ししょー)
ムスタでも焦ることがあるのかと可笑しく思い、ふふっと笑う。
静かに走り寄ったムスタが暗闇の中サキをそっと抱き起こす、サキは動けないからされるがままだ。乱れた精気がサキに流れ覆い包み、それがわずかに回復を促す。精気を味わうのは初めてのことだが、ムスタの精気はサキにとってとても心地良いものだった。
「ムスタ……ししょー。精気もっとくださ……」
見えない目を開き精気に光るムスタを見つめれば、ムスタの黒い影が光を纏って降りてきた。唇から直接精気を流される。もっともっととサキの命が精気を吸いつくそうとする。
息もつかずムスタから流れる精気を吸い続ければ、逆にムスタが辛そうに息を上げて唇を離した。サキは諦めずに吸っていたものだから、舌を抜かれればちゅぱ、と互いの唇から音が立った。
「もっと、もっと欲し……」
初めて精気を味わうのにそれが衰弱した身体であったから、吸い過ぎて精気に中てられたサキは欲情していた。衰弱していた身体は精気である程度飢餓感が満たされ、今あるのは純粋な欲望だけである。我知らず足を擦り合わせサキはムスタに強請っていた。
「これ、おさまらない……ムスタししょー……助けてえ」
「………サキ……」
がばりと身体を抱かれるがそれは抱きしめるだけでちっともサキを宥めてはくれない、サキはいやいやをして動きにくい腕を伸ばし自分で宥めようと自分のモノに手を添えた。ムスタが息を吞むがサキは暗闇で目が見えないのだから構ってなどいられない。
ズボンに手を入れて力なくしごいても立ち上がった小さなモノは満足してはくれない。
「んー、んーっ」
身体の欲しがる快感を自分で与えることのできないもどかしさに、ムスタの腕の中でサキは泣いた。ムスタは身を固くしてサキを抱きしめるばかりだから、イライラと癇癪を起こす。
「こんなにしたのはムスタししょーなんだから、早くうっ!こんなじゃ足りないよう」
泣きながら頼めば、本当にいいのかと小さな声が聞こえた。
おずおずとムスタの手の影が光を纏ってサキに触れる。ムスタの表情は見えないが頭の影が降りてきて再びキスをされた。腰に置いたサキの手ごと包んでムスタが優しくしごき始めれば、途端に沸き起こる快感と続く予感に震えが走る。
そんなに何度も射精を経験したわけではないから、すぐに透明な液を飛ばしてサキはイッてしまった。だがまだ煽られた欲望は治まらず、じくじくと触れたこともない奥が疼く。
「んー……おく……じくじくするう」
「……サキ、これ以上は……」
「んーっ、ムスタししょーっ……これどうしたらいいのお……んーっ」
ムスタの腕の中で勝手に沸き起こった快感に背を反らせ、サキは涙を流す。サキの小さなモノも再びふるりと起ちあがり、どうにもならない奥の疼きを何とか流そうとサキは背を反らして身悶え泣いた。
「……わしの指をお前の中に入れようと思う、いいか」
「んんーっ、い、入れてえ……早くう」
サキはもう自分が何を言っているのかおそらくわかっていないのであろう。ムスタはサキのズボンを脱がせると片足を開かせ尻に手をやった。サキの零した透明の精液を指に掬って、その蕾に添える。暗闇でも見えるムスタの目にはサキの孔はあまりに小さすぎて、己の指一本入らないのではないかと戸惑う。
と孔が開き閉じて、また開いた。早くと強請られれば覚悟を決めて、ムスタはサキの孔へと指を進めた。
「身体の力を抜いておけよ」
「ん……ふぅっ……」
言われるままに身体の力を抜こうとするサキを愛しく思いながら、ムスタの指は第一関節まで納まった。
「痛くはないかの」
「ん、だいじょぶ……」
「進めるぞ」
ゆっくり真っ直ぐに推し進めると、やがて指は根元まで納まった。動かしてもいないのに狭い中は指をぎゅうぎゅうと締め付ける、力を抜けと一度キスを落としてやれば身体から力が抜かれ、中はゆるりと一度大きくうねった。
「もう抜くか?」
尋ねれば首を振ってまだ治まらぬと駄々をこねる。指を中で動かしてやれば、あ、あ、と音が漏れた。ムスタの指一本の動きに合わせて、サキの身体が腕の中で揺れる。サキの起ち上がった中心も腹で跳ね透明の雫を飛ばしている。
これを思うままに抜き差ししては初めての身体にきつかろうと指先だけをくいくいと擦ってやれば、中のイイところを刺激したのか漏れる音が大きくなった。
「あ、あ、あ、そこっ、あっ」
「もうイクか」
中のイイところを刺激しながら腕の中のサキを抱えなおし、もう片方の手でサキの中心も擦り上げてやれば身体を硬直させてサキはイッた。
気を失ったサキを清めてやる術が使えないため、ムスタはつるりとした肌を己の舌ですべてを舐め取り清めてやった。
ムスタ自身もサキに煽られ欲情し張り詰めていたが、今ここで解放するつもりなど到底なくまずはサキが先決と自身のことは放置した。
手早く衣服を整えてやるとムスタはサキを抱いて立ち上がった。サキがここに閉じ込められて一週間が経っている。それもすべて己のせいかと思うと、愛しさよりもまず申し訳なさがたち、生きていて本当に良かったと思う。
これでサキが命を落としていたら、自分は何をしていたかわからない。
サキを抱いて上がり陽の光を浴びれば、無事だったかとすぐさまマティアスが転移で飛んできた。衰弱していたから精気を与えたぞと言えば理解したらしく、そうかと返事が返って来た。さすがにここで何をしたかまでこの男に白状する気は後ろめたい気分のムスタにはなかった。
サキをマティアスの腕へと預け自身の貸与されている館へ戻れば、狼人タルブが待っていた。
「匂うぞ」
「黙れ」
歯を剥いてにたりと笑う狼人タルブを苦々しい顔で見ると、ムスタは浴室へと籠った。
エーヴェルト邸で食べていた朝食を館でマティアスと共に摂り、一緒に王城へと歩いて出掛け魔法研究室の白マントを羽織る。先日冒険者ギルドへ行って購入してきたアウトドア用品の改良でもしてみるか、と『空間』から背負い袋を出して一つずつ確認していく。
「サキくん、それ何ですかー」
「見せて見せて」
表になど出ない白マント研究員たちは冒険者用に作られた野宿セットが物珍しい様子で、わらわらと集まってきた。サキが説明をしていると、気の早いものがテントや寝袋を広げ出している。こんな狭い場所で広げられるものではないから慌ててそれを留め、代わりにコッヘルや簡易コンロなどのキッチンセットを出してやる。
「あれ、ここ魔方陣無駄じゃない?」
「ほんとだもっと省略できるね」
「ここはこれ外しちゃっても動くでしょ」
「あ、ではこちらも外して大丈夫ですね」
簡易キッチンセットが瞬く間に分解され、再セットされた。重さが半分ほどに減り性能は格段に良くなっている。魔方陣を改良して部品をいくつか外しただけだから、これならば価格は下がるはずである。
「さっきのテントと寝袋も広い場所で作業してみよう」
「サキくん、出して出して」
結局アウトドア用品は全て出して広い場所で作業することになった。王城の中庭の一つにぞろぞろと白マントが移動し、サキが『空間』から背負い袋を出して皆でテントを広げる。背負い袋を確認する白マントの一人が、これも魔方陣と魔石を組み込めば容量を増やしたり軽くしたりできるのでは、とその場でしゃがみ込み唸り出す。
テント班と化した白マントたちの方は、布が重すぎる、組み立てが面倒、中骨が折れそう、何日も泊まったら臭くなりそう、などと好き勝手騒いだあげく浄化軽量耐久の魔方陣を、とこちらも唸り出した。
空中に次々と浮かんでは消えていく魔方陣の数々は、流石見事なものである。一人の構築した魔方陣に別の一人が魔方陣を重ねる、あぁそれでは美しくないよ無駄が多すぎる。もう一人が新たな魔方陣を浮かび上がらせ、それだと二人が叫ぶ。
サキは研究熱に浮かされた白マントの面々をぐるりと眺め、自分は寝袋の改良に手を付け始めた。こちらも浄化軽量圧縮耐久、結界も入れておくかと魔方陣を構築していく。一つ二つ三つ、計五つの魔方陣を重ねたあとでこれでは普通の冒険者には扱えないか、と再度練り直す。
「あ、皆さんすみません。冒険者の誰でも使える仕様でお願いします」
「えぇっ、今さら?」
「魔力のない人間がっていうと、これでは無理か」
「冒険者が使うなら魔石もあまり使えないだろう」
「うへえ、やり直しかー」
実に楽しそうで何よりである。とそこへ籠を手にした女性たちが中庭へやって来た、まっすぐサキの所へやってきた女性たちは昼食を届けに参りましたと言う。
一体誰がと尋ねる前に白マントの一人が奇声を上げて女性ではなく籠へと飛びつき、具材の挟まったパンを手にしていた。奇声はおそらく謝礼のつもりであろうが女性たちにそれがわかるはずもなく、籠を置くと逃げるように立ち去ってしまった。
白マントたちが既に籠を囲みパンを手にして美味いと叫んでいるので、まあいいかとサキも気を緩める。女性たちの精気が乱れていたので不信に思ったのだが、この面子に近づくには勇気がいるのかもしれない。
サキは一旦片づけましょうと声を掛けて、作業中だったアウトドア用品を背負い袋へと収納した。パンを手にして一口齧り、さくりとした野菜の食感と染み出る肉の旨味に頬が緩む。瓶に入った果汁をコップへ入れてもらい、喉を潤しながらパンを食べ進めた。
目が覚めるとそこは暗くて、サキはあれと思った。中庭で作業していて昼食を食べた後の記憶がない、昼寝でもしてしまったかと身じろぎしようとして、腕と足が縛られていることに気づいた。腕は身体の前で縛られているし痛くはないが、猿ぐつわまで嵌められており不快である。
どこかの結界の中なのか、マティアスに送ろうとした伝魔法は通じない。
嫌な記憶が蘇って、身体が大きく震えた。
頭を振ってピアスが無事か確かめると、両耳に確かな存在を感じた。白マントの皆は無事だろうか、王城の中庭で堂々誘拐が起こるとは後の事の方が恐ろしい、と考えてサキは目を閉じて父親を思う。
きっと探し出してくれるから大丈夫、気を抜けば心に迫る押し潰されて息が上手く吸えないような恐怖を、無理やり鼻で呼吸を整え押し込めた。
(何の目的かまったくわからないな)
辺りは暗く静かで転がされた床は砂でざらりとしていて硬く冷たい。暗闇で手を伸ばせば布が手に触れた、確かめるとそれはサキの背負い袋である。人の気配もしないし何も見えないのは困るからひとまず明かりでも灯すか、と背負い袋からアウトドア用品のライトを取り出し明かりを付けた。昼間誰かが改良をしていたらしく、光源は明るさを増している。
ほっと息をつくとサキはまず腕の拘束を解こうとアウトドア用品からカトラリーの小さなナイフを出し、それを膝に挟んで腕の縄を少しずつ削り始めた。
腕の拘束が外れると猿ぐつわを外し、足の拘束も外しておく。自由になった身体でライトを掲げて今いる場所を確認すれば、つるりとした白い石でできた壁にぐるりと囲まれている。床も同じ石で真ん中に大きな魔方陣が描かれていた。
(大理石に古代文字の魔方陣、聞いたことないな)
わからないものには触らない方がいいだろう、魔方陣を踏まないようにぐるりと部屋を歩き、扉が見つからないことだけがわかった。
(扉がなくて部屋がある?そんなはずない)
ライトを精一杯上に掲げても天井は暗くて見えないから、もしかしたら上から降りてくるように造られているのかもしれない。丁寧に床を見て行けばざらりとした砂を擦るように梯子の足を置いた跡と、大きな靴の足跡が一人分見つかった。
サキをここへ閉じ込め梯子を外して置き去りにした、背負い袋も置いていったのは情けだろうか。手を下して殺すつもりはないが死んでも構わないと思っているということだ。
(まったく身に覚えがない)
ここから出られる手立てもないし、もう少し状況を見極めてもいいだろう。サキは冷静に判断を下し魔方陣を踏まぬようにテントを設営し、簡易キッチンセットを出して携帯食で温かいスープを作って飲んだ。大理石の床は冷えるからテントの中に入り寝袋にしっかりくるまると、明日に備えようとぎゅっと目をつぶった。
目が覚めてテントを出ても大理石の部屋は何も変わっていなかった。明かりがまったく入らないので体内時計を信じるしかないが起床時間なのであろう。いつもの通り過ごすしかないか、と巨大な魔方陣の周りをぐるぐる走り武術の型をいつも通りさらった。
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流れる汗を布巾で拭い、浄化魔法が使えないのは不便だなと改めて思う。魔法が使えないのであればサキがここにいることにマティアスたちが気がつくのは、どれくらい時間が掛かるのだろうか。おそらく呼び寄せの魔法も効かず焦れているマティアスが目に浮かぶ。
魔法が使えず自分でこの状況を打破しなくてはいけないとなると、やはり魔方陣の解読であろう。古代語は詳しくないのだが、目にしたことならある。急がねば背負い袋にある食料もそのうち底をつく。沸いてきたぞっとしない考えにサキは首を振って、魔方陣の解読に全神経を集中させた。
何度目かの眩暈に襲われてサキはふらりとした身体を片手で支えようとして、そのまま崩れた。床に座っていたから頭を打つことはなかったが、食べ物を口にしなくなってずいぶん経つ。水分もなくなったからひどい脱水症状なのかもしれない。
カタンとどこかで小さな音がした。ライトの魔石はだいぶ前に切れ、魔力を補充することができないから魔石自体が粉々に砕けてしまった。長いこと静かで暗い空間にいたから耳の感覚だけがやけに鋭い。
(なんだろう)
カタンガタンと音が聞こえたが目は見えないし、衰弱しており起き上がる気力はなかった。
暗闇の中足音を立てずに誰かが近づいてくる。視ればよく知った魔力の色と精気であるが、今日はだいぶ精気が乱れている。
(ししょー)
ムスタでも焦ることがあるのかと可笑しく思い、ふふっと笑う。
静かに走り寄ったムスタが暗闇の中サキをそっと抱き起こす、サキは動けないからされるがままだ。乱れた精気がサキに流れ覆い包み、それがわずかに回復を促す。精気を味わうのは初めてのことだが、ムスタの精気はサキにとってとても心地良いものだった。
「ムスタ……ししょー。精気もっとくださ……」
見えない目を開き精気に光るムスタを見つめれば、ムスタの黒い影が光を纏って降りてきた。唇から直接精気を流される。もっともっととサキの命が精気を吸いつくそうとする。
息もつかずムスタから流れる精気を吸い続ければ、逆にムスタが辛そうに息を上げて唇を離した。サキは諦めずに吸っていたものだから、舌を抜かれればちゅぱ、と互いの唇から音が立った。
「もっと、もっと欲し……」
初めて精気を味わうのにそれが衰弱した身体であったから、吸い過ぎて精気に中てられたサキは欲情していた。衰弱していた身体は精気である程度飢餓感が満たされ、今あるのは純粋な欲望だけである。我知らず足を擦り合わせサキはムスタに強請っていた。
「これ、おさまらない……ムスタししょー……助けてえ」
「………サキ……」
がばりと身体を抱かれるがそれは抱きしめるだけでちっともサキを宥めてはくれない、サキはいやいやをして動きにくい腕を伸ばし自分で宥めようと自分のモノに手を添えた。ムスタが息を吞むがサキは暗闇で目が見えないのだから構ってなどいられない。
ズボンに手を入れて力なくしごいても立ち上がった小さなモノは満足してはくれない。
「んー、んーっ」
身体の欲しがる快感を自分で与えることのできないもどかしさに、ムスタの腕の中でサキは泣いた。ムスタは身を固くしてサキを抱きしめるばかりだから、イライラと癇癪を起こす。
「こんなにしたのはムスタししょーなんだから、早くうっ!こんなじゃ足りないよう」
泣きながら頼めば、本当にいいのかと小さな声が聞こえた。
おずおずとムスタの手の影が光を纏ってサキに触れる。ムスタの表情は見えないが頭の影が降りてきて再びキスをされた。腰に置いたサキの手ごと包んでムスタが優しくしごき始めれば、途端に沸き起こる快感と続く予感に震えが走る。
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「んー……おく……じくじくするう」
「……サキ、これ以上は……」
「んーっ、ムスタししょーっ……これどうしたらいいのお……んーっ」
ムスタの腕の中で勝手に沸き起こった快感に背を反らせ、サキは涙を流す。サキの小さなモノも再びふるりと起ちあがり、どうにもならない奥の疼きを何とか流そうとサキは背を反らして身悶え泣いた。
「……わしの指をお前の中に入れようと思う、いいか」
「んんーっ、い、入れてえ……早くう」
サキはもう自分が何を言っているのかおそらくわかっていないのであろう。ムスタはサキのズボンを脱がせると片足を開かせ尻に手をやった。サキの零した透明の精液を指に掬って、その蕾に添える。暗闇でも見えるムスタの目にはサキの孔はあまりに小さすぎて、己の指一本入らないのではないかと戸惑う。
と孔が開き閉じて、また開いた。早くと強請られれば覚悟を決めて、ムスタはサキの孔へと指を進めた。
「身体の力を抜いておけよ」
「ん……ふぅっ……」
言われるままに身体の力を抜こうとするサキを愛しく思いながら、ムスタの指は第一関節まで納まった。
「痛くはないかの」
「ん、だいじょぶ……」
「進めるぞ」
ゆっくり真っ直ぐに推し進めると、やがて指は根元まで納まった。動かしてもいないのに狭い中は指をぎゅうぎゅうと締め付ける、力を抜けと一度キスを落としてやれば身体から力が抜かれ、中はゆるりと一度大きくうねった。
「もう抜くか?」
尋ねれば首を振ってまだ治まらぬと駄々をこねる。指を中で動かしてやれば、あ、あ、と音が漏れた。ムスタの指一本の動きに合わせて、サキの身体が腕の中で揺れる。サキの起ち上がった中心も腹で跳ね透明の雫を飛ばしている。
これを思うままに抜き差ししては初めての身体にきつかろうと指先だけをくいくいと擦ってやれば、中のイイところを刺激したのか漏れる音が大きくなった。
「あ、あ、あ、そこっ、あっ」
「もうイクか」
中のイイところを刺激しながら腕の中のサキを抱えなおし、もう片方の手でサキの中心も擦り上げてやれば身体を硬直させてサキはイッた。
気を失ったサキを清めてやる術が使えないため、ムスタはつるりとした肌を己の舌ですべてを舐め取り清めてやった。
ムスタ自身もサキに煽られ欲情し張り詰めていたが、今ここで解放するつもりなど到底なくまずはサキが先決と自身のことは放置した。
手早く衣服を整えてやるとムスタはサキを抱いて立ち上がった。サキがここに閉じ込められて一週間が経っている。それもすべて己のせいかと思うと、愛しさよりもまず申し訳なさがたち、生きていて本当に良かったと思う。
これでサキが命を落としていたら、自分は何をしていたかわからない。
サキを抱いて上がり陽の光を浴びれば、無事だったかとすぐさまマティアスが転移で飛んできた。衰弱していたから精気を与えたぞと言えば理解したらしく、そうかと返事が返って来た。さすがにここで何をしたかまでこの男に白状する気は後ろめたい気分のムスタにはなかった。
サキをマティアスの腕へと預け自身の貸与されている館へ戻れば、狼人タルブが待っていた。
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「黙れ」
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見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
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初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
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