嘘はいっていない

コーヤダーイ

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34王城の森

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 やがて街行く人の吐く息が白くなり朝には石畳に霜がつくようになった。
 サキとムスタは早朝の走り込みをし庭でいつものように武術をさらう。昔と違うのはマティアス邸の庭でそれらが行われるようになったことと、ひろきとイェルハルドの他に参加者が一人増えたことである。

「ふんっ、ふんっ、ふんっ」

 真面目な顔で基本の型をさらっているのは、動きやすいパンツスタイルに身を包んだキーラである。緩くカールのかかった薄茶の髪をふわりふわりと揺らしながら、一挙ごと大事になぞっていく。横で同じ型をさらうイェルハルドが時々キーラの腕をちょんと触れて位置を正したり、膝を指して腰の重心を落としたりと面倒をみている。
 二人の様子を少しだけ眺めてサキは5年ほど前のムスタとの出会いを思い出した。あの日からムスタの見た目は全然変わっていない、人間で言うならばムスタの見た目は30代前半といったところである。

(ムスっていくつなんだろう?)

 そういえば年齢を尋ねたことはなかった、とサキは気づきエーヴェルト王より年上だというムスタを見る。

(獣人は人間とは年の取り方が違うというけれど、聞いてもいいのかな……)

「どうしたサキ、昨夜の疲れが残っているかの」
「……っ!ち、違っ、」

 さらりと頬を撫でられてサキは頬を赤らめる。確かに昨夜も二人は身体を重ねたがサキのためと無理強いはしないし、繋がる時間もごく短いものである。

「あのくらいどうってことないしっ」
「ほぉ、そうか。慣れてきたのなら、もう少し楽しんでも良いかのう」

 さわりとサキの腿をムスタの尻尾が撫でて、赤い頬へと軽いキスを落とされた。

「………っっムスのえっち!」

 キスされてさらに赤く染まったサキは頬を両手で押さえて、ムスタを軽くにらむ。ムスタは機嫌が良さそうに尻尾を揺らし、ひろきが新婚は甘いねと笑った。
 キーラはそんな風にいちゃつく二人を見ても、マティアスとラミという両親の子であるから慣れたものである。イェルハルド一人が苦笑し、その後何事もなかったように再び武術の演舞は行われた。

 マティアス邸にはそれぞれの部屋に湯舟を備えた浴室が付いている。魔力と魔石は潤沢であるから湯を溜めるのもシャワーを使うのも、使用後の浄化と乾燥も魔石を付けたボタンを押せば済ませることができる。
 これもドワーフの匠オーシュがいてこそ叶ったものだが、遊びに来たエーヴェルトが自邸にも同じものをと取り付けた。

 ムスタには二間続きの個室がムスタ専用として設えてあるのだが、サキと一緒が良いと同じ寝室を使っている。二人一緒に浴室へと入り手早くシャワーを済ませると、サキが魔法で二人の髪の毛を乾かす。
 
 乾いて背中を流れるサキの黒髪が気に入っているのか、ムスタはサキの黒髪を一房手に掬いそっと口付ける。髪に神経などないはずなのにそれを見たサキは肩のあたりがぞくりと痺れ、ん、と声を漏らす。
 サキの黒髪を撫でながらにやりとしたムスタが、愛おしいことよとサキの頬を顎を首筋を指の背でなぞる。それだけで次の動作を期待してサキの精気が少しだけ揺らぐ、気づいて揺らぐ精気を抑えようとサキが唇を噛む。

「サキ、それでは唇を切ってしまう」

 唇を噛んだ白い歯を舐めて押し開き、下唇を軽く吸ってすぐにムスタは離れる。濡れた唇を薄く開きサキが精気を抑えようと集中する姿は視線が定まらず、かすかに寄った眉は何かに耐えるようでこれまた扇情的である。
 ムスタにしてみれば美しい愛する番が快楽に溺れそうになるのを必死にこらえる画など、煽るだけ煽って手を触れられぬ甘い拷問でしかない。ムスタは純血の獣人である、番に対しては食べてしまいたいと思うほどの激情を心の奥底へと秘めているのが獣人なのである。
 
 そのうなじへと牙を突き立て噛み付き血を啜りたい、己のものと知らしめるために決して消えぬ噛み痕を残したいという願望が常にムスタをさいなんでいる。獣人同士であればおそらく噛み付いていたはずだ、だがサキは違う。牙で噛めば死んでしまうかもしれない。
 それにサキはまだ若すぎる、無理をすれば身体は壊れてしまうだろう。いつかは己を解放し心のままに甘い香りのする身体を好きに蹂躙してみたいものだがと心の深い場所へとそれらの気持ちを全て封印する。

「……はぁ……」
「落ち着いたか」
「うん、もうだいじょうぶ……」

 徐々にサキの精気の抑え方も上手く、早くなってきている。やはり少しずつの訓練が大事、とムスタは一人でにやりとした。

「また一人でえっちな笑い方して……」
「サキのことしか考えてはおらぬ」
「だから、それが……」

 サキの言葉は続かなかった、ムスタが唇を塞いだからである。ちゅっ、ちゅと音を立てて二人のキスは角度を変えて深まっていった。

「………っ、いけない」

 ムスタの胸を両手で押さえてサキが上気した顔で思い出した。
 今朝方武術をさらった後、ひろきが王城の敷地内の森の中で木の実を拾いに行くというのに誘われているのである。一般に公開されていない場所であるから木の実は取り放題だそうで、たくさん拾っておけば酒のつまみにお菓子にと使い道はたくさんある。

「今日は雪が降る前に、ひろきと一緒に木の実を拾いに行くんだった」
「ひろきなど待たせておけばよい」
「そうはいかな、いよ、ぁ、んっ。駄目だってばっっ、ムス、」
 
 首筋を辿って鎖骨を唇に含みその下へと舌を落としていけば、ついにぺしりとサキに頭をはたかれた。はたいたサキをじろりと仰ぎ見て、ムスタは最後にぺろりと左乳首を舐め軽く噛んで引っ張り終いとする。

「ひゃんっ、」
「かわいい声をそのように上げれば終いにはできぬぞ」
「も、もうおしまいっ」

 開かれたシャツをもう一度着直してサキは赤い顔で文句を言っている。朝から盛って済まなかったと謝りゆったりと腕の中で抱き締めれば、ううん僕こそ頭をはたいてごめんとサキが謝る。
 顎を指で持ち上げ軽くキスを落として許すと鷹揚にムスタが告げれば、サキが嬉しそうに笑った。



「うわー、こんなに落ちてるんだ」
「ね、拾い放題でしょう」

 ひろきとフロイライン、サキとムスタの四人で籠を持ち王城の敷地内の森へと来ている。拾い放題というか足を置けば木の実を踏んでしまうほど、豊かな実りに森は満ちている。
 嬉しそうに早速屈みこみ木の実を拾い出したサキに付き合って、ムスタも腰を屈めて木の実を集め出す。

 ひろきはフロイラインに手を繋がれて、少し離れた場所へと移動するようだった。笑ってこちらに手を振るひろきに手を振ってこたえ、サキはムスタの隣で木の実を籠へ入れていった。

「これならすぐ籠いっぱいになっちゃいそう」
「二人で拾えばあっという間であろう」
「うん、付き合ってくれてありがとう。ムス」

 誰もいない森で鳥が木々の間を飛び鳴く以外、聞こえるのは落ち葉を踏む二人の足音だけである。静かな森の中でムスタは深呼吸をし、今ある幸せを改めてかみしめていた。
 無言のまま二人で作業をすれば、籠は瞬く間にいっぱいになった。他の袋にでも詰めるかと聞けば、これだけあれば十分とサキが言うので他にすることもなくなってしまう。

「そういえば、獣人は人間とは年の取り方が違うと聞いたけれど」
「あぁ、話したことはなかったか」
「うん、ムスが何歳なのか聞いてもいい?」
「わしは48になる」
「そっかあ」
 
(てことは、ムスと僕は年齢差34歳。すごいな)

「獣人は人間の倍ほど生きることは知っているな」
「うん」
「成長速度も人間とは違うのじゃ。子供の頃は同じように成長するが、成人を境に獣人は成長が緩やかになる」
「へえー、だからムスはずっと変わらず若いままなんだ」

(エーヴェルト王より、ずっと若く見えるものなあ)

「……サキは年齢差が、気になるか?」
「え?ううん、ぜんぜん?ムスがいくつなのか気になってただけ」

 ムスタは何を緊張していたのか、耳をぴくぴくと動かして尻尾でぺたりと落ち葉を払った。

「サキはやはり変わっておるの」
「……そうかな?そうかも?自分じゃわからないけど」
「ところでサキ」
「はい」
「わしは今非常に盛っておるんだが、少しだけいいかの」
「………はい?」

 盛っていると言いつつもムスタの精気は相変わらず安定して柔らかなオレンジ色に輝いている。愛する人に嫌なら無理はしないと真顔で尋ねられて、断れる者がいようか。サキは赤い顔でこくりと頷いた。

 身体が隠れるほどの大きな樹の幹にコートを羽織ったサキは背中を預けている。膝までの長さのコートの中に屈んだムスタが入り込み、ムスタの肩へと乗せられた片足の膝はコートからちらりと覗く腿も素足である。サキの股間に顔を寄せサキ自身を口に含んでいるムスタの指が二本、片足を抜いた下衣の後ろからすでに蕩けた後孔をちゅくちゅくと出入りしていた。

(盛っているって、部屋に戻るんじゃなかったのか……これって青姦てやつじゃ)

「んっ、ムスもう出、っ」

 ムスタの口の中へと放たれた白濁はごくりと飲み込まれ、立ち上がったムスタの屹立がすぐに抜かれた指の代わりにずくりと入り込んできた。片足の膝裏を持たれたままずくずくと責められ、後ろに下がることもできず上に逃げることもできず、サキは太い幹に爪を立ててすぐに追い詰められた。
 持ち上げられている素足の膝から先だけがコートから見えてムスタの動きに合わせて揺れている。

 片足で突き上げられる反動を堪えきれず崩れそうになれば、その足の膝裏も掬って持ち上げられた。両膝をそれぞれムスタの肘に掛けられて、サキの身体は今や宙に浮いている。不安定な姿勢に幹に立てていた爪を外してムスタの首へとしがみつけば、背中が樹からも浮いた。

 片足は素足が見えており、もう片方の足には下衣が絡まるようにまとわりついている。ムスタの下からの突き上げを受けて両足がゆらゆらと揺れ、あるときにはぴんと伸ばされる。太い樹の陰でコートを着たままで長い黒髪を乱すサキの姿を見るものは、風のほかに誰一人いない。

 自重が掛かり後孔で受けるムスタの熱が、いつもよりも深いところまで突き上げてくる。奥の壁を突かれる感覚と後孔の入口へと掛かる圧力とが、痛みと宙に浮く不安定さとでただひたすらに快感をよぶ。

 サキはどんどん増していく快楽に耐えきれず声をあげ、ムスタへと強くしがみついた。宙に浮く足もムスタの腰に絡め、互いの身体の隙間を埋めるようにぎゅうぎゅうとすがりつけば快感はより一層増した。やがてムスタとサキとは同じ一つの身体一つの魂となって互いの快感を、感情を共有し共に高みへと昇り果てた。

 サキの閉じた目の奥でいつか視たようにちかちかと星が瞬く。座った裸の自分に見たことのない若い男が座っている、おそらく裸でサキの肩に手を乗せている。若い男が顎を上げたのち肩へと顎を落とした。サキは若い男の髪を撫でてやっているが、撫でる自分の顔がこわばっているのがわかる。

(何これ……嫌な夢?)

 目を開ければそこには壮絶な色気をまとって息を乱したムスタの顔があった。サキの全体重を抱えて果てるまで支えて持ち上げさらに突き上げ続けたのは、恐るべし獣人だからなのかムスタだからなのか。
 とりあえず重いだろうから何とか足を地面に着こうと動けば、ムスタが普段は漏らさぬような色を含んだ声を漏らした。ずくり、とサキの中にいるムスタのものが硬くなる。

(嘘でしょう?)

 見るだけで火傷をしそうな金瞳に瞳の奥まで見透かされるように見つめられて、サキも逸らすことができず互いの瞳の虹彩を覗き込むように視線を絡めた。いつしかムスタの律動が再開され、ムスタのいいように揺らされ突き上げられサキはただただ増幅する快楽に耐えた。

 満足したムスタに浄化魔法を掛けられ身なりを整えられた後も、サキはぼんやりしていた。先ほど観た嫌な夢のようなものが胸に残っている。

「サキもあれを視たのだな」

 ムスタに言われてサキは同じものをムスタと共有していたのだと知る。

「ムス、あれは……嫌な夢?」
「あれは幻影じゃ。わしの能力で未来を視る」
「未来……僕誰かに裸で乗られて、嫌な顔してその誰かの頭を撫でていたの」
「嫌な顔をしておったのか」

 頷けばサキの言葉を聞いて意外そうな顔をムスタがしている。

「わしはあれをサキの番となる者かと思っていた」
「嫌だっ、僕の番はムスでしょう!どうしてそんなこと言うの?」
「……そうだったな、わしの番はサキ一人じゃ」

 しばらく無言で抱き合えばサキの心もようやく落ち着いた。

「ムスはいつも未来を視ているの?」
「見たくて視るものではないがの、あれのせいで星森の占星がわしの退位を認めないのじゃ」
「……星森に戻りたいと思う?」
「いやまったく。サキが生まれるもっと前に故郷は捨てた、今のわしはサキが生きる場所に居たい」
「僕も。ムスが生きる場所が僕の居場所だから」



 かさりかさり、と落ち葉を踏む音が聞こえてくる。

「サキー、木の実たくさん拾えたー?」

 きっとひろきはサキたちを探しながら歩いているのだろう、サキはにっこり微笑んでムスタと手を繋いだ。未来がどうあれ、この手を離すつもりなど決してない。

 離れたところに見えるひろきとフロイラインに向かってサキは手を振った。木の実の入った籠はムスタが持ってくれている。手を繋いだまま歩いていけば、ひろきが籠を覗き込んだ。片手をフロイラインと繋いで首を伸ばしたひろきの首筋には、落とされたばかりの赤い印が残されている。

 ちらとフロイラインを見れば、何ということもない顔をしてひろきだけを見ている。ざっと風が吹いて落ち葉が舞う、反らした顔のすぐ下に同じような赤い印を見つけてサキは笑みを深めた。
 愛し愛されて皆が幸せだといい、大事なのは今この時でサキには愛する人がいる。

「拾えたよー、籠いっぱい」
「ほんとだ、俺より多いかも。そろそろお昼だし帰ろうか」
「うん、今日はうちで食べてよ。カティがたくさん作っておくからって張り切ってた」
「嬉しいな、フロウとお邪魔しよう」

 四人はそれぞれに手を繋いで、来た道を戻った。
 ちらり、ちらり触れればすぐに溶けてしまう雪が舞い始めている。
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