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ハーマン子爵家との対決 1
しおりを挟む「───明日、ハーマン子爵達が我が家に訪ねて来る事になった。……メラニー、覚悟は良いか?」
ハーマン子爵家に書状を出してから数日後、父アイスナー子爵が夕食後にそう言った。
……いよいよ、なのね。
「はい。……全て、整っておりますから」
父を真っ直ぐに見つめ答える娘に子爵は頷いた。
「……勿論、私の覚悟も出来ていてよ。ハンナにも思い知らせてやらないとね」
母はそう言って笑ったが、目は怒りに燃えていた。
あれから色々調べていく内に、ディートマーの悪さの責任転嫁にはハーマン子爵夫人も大きく関わっていた事が明らかになったのだ。
「……まさかハーマン子爵夫人も息子の件に関わっていたとはな」
数人のハーマン子爵家の元使用人達から証言が取れていた。
ディートマーの言う嘘に夫人が更に嘘を重ねて援護する。そうやって数人の使用人が無実の罪で辞めさせられていた。……当然そんな理由なので退職金も次の職場への紹介状も無い。多くの罪の無い使用人が仕事を無くし中には身を持ち崩す者もいた。
「今考えればハンナは我が子であるディートマーだけを猫可愛がりしておりましたもの。良く出来た先妻の娘よりも我が子を可愛がるのはある程度致し方ないとは思っておりましたけれど……。ここまで歪んでいたとは、呆れて物も言えませんわ」
「今先妻の娘は結婚して遠く離れた地で暮らしているらしい。……おそらくは彼らと関わりたくはなかったからなのだろう。ヴォルフが彼らをきちんと見てやっていなかったのだな……」
ヴォルフとはハーマン子爵の名だ。つい最近までは親しくしていた2人の関係が悪くなる事を申し訳なく思うが、父は気にするなと言ってくれている。
真実を知った両親が不快感を露わにしながらそう話し合う。
……今まで彼らの事に気付かず娘を信用しなかったのは、あなた達も一緒なのですがね? と口には出さないがメラニーは内心そう思った。
「───父上や母上も、それに気付かず姉上を蔑ろにしていたけどね?」
その時弟スティーブが両親を白い目で見て言うと2人は俯いてメラニーに対し謝罪の言葉を口にした。
メラニーは少し考えて口を開く。
「……正直、辛い日々でした……。ディートマーは狡猾でお父様もお母様も彼を信じ、私は抗う術を持たなかった……」
メラニーはあの辛かった日々を思い出し、目を伏せた。
「───けれどディートマーには、ほぼ皆騙されていましたから。……これからお二人には、きちんと事実を見極めていただけたらと……そう思います」
メラニーは両親の謝罪を受け入れた。両親は涙を流して家族は和解する事が出来た。
……だって、今お2人は私をきちんと見てくれているもの。
メラニーは両親の変化や弟が分かってくれていた事が嬉しかった。
───そして次の日。
執事が来客を告げた。
◇
「良く来てくれた、ハーマン子爵」
「……ご招待感謝する。アイスナー子爵」
今まで『ロキシー』『ヴォルフ』と気軽に名前で呼び合う仲だった2人だが、今日は明らかにそこに大きな溝があった。
ハーマン子爵の後ろには彼の妻ハンナとディートマー。
2人は憎々しげにこちらを見ていた。
ハーマン子爵家の3人を応接間に案内し、6人は向かい合って着席した。弟スティーブはまだ学園にも通わぬ年なので同席はしない。
「今日来てもらった理由はお分かりだろうが、ハーマン子爵家ディートマーと我がアイスナー子爵家メラニーの婚約の件だ」
一応ホスト側であるアイスナー子爵がそう話を切り出した。普段ならば世間話などから和やかに話が始まるものだが、今回はそんな必要性は感じなかった。
友人であるアイスナー子爵のその態度にハーマン子爵は悲しそうにしたが、ハーマン子爵夫人は目を吊り上げた。
「まあ、唐突ですのね。貴人を招待したのなら時節の挨拶などから入るものでしょう?」
「やめないか!」
不満を露わにした夫人をハーマン子爵が諌めた。
「……当然わざとですよ、夫人。このような由々しき事態であるのにまわりくどい挨拶など必要ないですからね」
アイスナー子爵からも刺々しい言葉が出され、場の空気はピリピリとしていた。
明らかに怒りの炎が見える友人といきり立つ妻を見て少し冷や汗をかきながらもハーマン子爵は話し出した。
「───とりあえず、事の説明だけはさせてくれないか。……今回、うちのディートマーとメラニー嬢との『婚約解消』の件だが……」
「……『婚約解消』? ウチは『婚約破棄』だと聞いている。子息に他に好きな相手が出来たので『婚約破棄』を迫って来たそうだな」
即座に訂正され冷たくそう言い放たれたハーマン子爵。少し寂しそうな顔をしながらディートマーから聞いていた事情を話すことにした。
「いや、それは誤解なのだそうだ。……言いにくいのだがメラニー嬢から別な相手が出来たので別れて欲しいと言って来たそうだ。ディートマーが今の彼女と付き合い出したのはその後だそうで……」
「そうですわっ!! あなた方の娘がまたやらかしたのですわ! ……本当に、いつも何かしら迷惑をかける娘だったけれど、まさかこんな事までしでかすなんて!」
「お義父さん……、いえ、アイスナー子爵。僕もとても残念だったのですが……。ああ彼女ばかりを責めないでやってください! 僕の愛が足りなかったのです。僕が至らなかったばかりに……」
「何を言うの! ディートマー! ……ああ貴方は本当になんで優しい子なの。それなのにメラニーときたら……! 先程の事といい、非常識なのは親譲りなのかしら!?」
ハーマン子爵家の3人はいつもの茶番のような話をした。
何か揉め事があった時。これまでいつも3人でこのようなやり取りをした。すると相手方は最後にはこちらに謝罪をし、ハーマン子爵家に有利になって解決する。
こんなやり取りが何度もあるのは異常な事なのだが、彼等はそれを不思議に思う事もなく今回も違和感など全く感じていなかった。
しかし今回のアイスナー子爵家は違った。いやこれまでならばこれをされれば自分達側が悪い、つまりはメラニーが悪いと考えてしまっただろう。
しかしながらなんといっても今回は今までの事情や事実が分かった上での話し合い。……故にアイスナー子爵側には彼等が嘘をつき相手側に罪悪感が生まれるように話している事が冷静に見るとよく分かってしまった。
アイスナー子爵は内心ため息を吐いた。
……今まで自分はこんな愚かな者達の愚かな言い訳に騙され、愛する娘を信じず蔑ろにしてしまったのかと。
そしてそれはアイスナー子爵夫人も同じ気持ちだった。
一方メラニーは、『また始まった』と呆れた。そして少し心配になり隣にいる両親の様子を伺うと両親は呆れた顔で彼等を見ていた。
とりあえず今回はディートマーの嘘に両親は騙されてはいないようだと安心して改めて前を見た。
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