《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん

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新たな婚約と友

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「───この度、隣国のエディット王女とアルベルト殿下の婚約が無事整った。王女も隣国内で貴族との婚約話が進んでいたようだが、こちらからの話にすぐに飛び付いた。これから同盟の話も進んでいくのであろうな」


 ある日の晩、夕食の席についてすぐにアルペンハイム公爵は言った。
 公爵夫人は『慶事でございますね』と微笑んだ。公爵は頷く。


「そしていよいよ次は我が家の番だ。
───ツツェーリア。アロイス。お前たちの気持ちに変わりはないか」

「勿論です!」
「……はい!」

 アロイスがやや食い気味に言い、ツツェーリアも真剣な顔で返事をした。


 公爵は2人を見て満足げに頷く。


「それでは、早速我が家もその届けをする事としよう。……また世間は大騒ぎをするのだろうが、なに、あの『婚約解消パーティー』程は騒がれる事はあるまい。先に殿下達の婚約が発表され大きく賑わうであろうしな」


「そうでございますね。そして我が家の後、ブルーノ様やその元ご婚約者もそれぞれ婚約を発表されるとおうかがいしております。暫く世間は大変な賑わいとなりましょう」


 ツツェーリアがそう言うと公爵夫妻もアロイスも満足そうに頷く。


「暫く慶事が続きそうだな。そして人々はあの『婚約解消』は、アレに関わったそれぞれの想いを叶える為のものであったと知る事だろう」

「ええ、そうですわね。……そしてきっとあの子も……天からこの事を見て喜んでくれている事でしょう」


 母のその言葉に、家族全員若くして亡くなった弟ハルミンを想う。そしてきっとどこかでこの事を応援してくれていただろうと確信したのだった。


 皆がしんみりした所で、母は少し涙目になりつつも明るく話題を変えた。


「そういえば、……ねぇ、ツツェーリア。殿下のもう一人の側近ハルツハイム伯爵家の嫡男の恋はどうなったのかしら。彼の婚約者であったシッテンヘルム侯爵家の令嬢は婚約が整いつつあるのでしょう?」


 母の問いかけにツツェーリアは目元の涙を拭きつつ頷く。


「はい。シッテンヘルム侯爵令嬢と隣国の侯爵令息との婚約がもうすぐ整うと殿下からの文に書かれておりましたわ。それから、ハルツハイム伯爵令息もお相手のご令嬢に恋心がやっと通じたと。
……ふふ。私そのご令嬢とは少しお話しした事があるのですけれど、真っ直ぐな素敵な方でしたわ。落ち着きましたら我が家にお茶にお誘いしようと思っているのです」


「そうなの? じゃあ僕も……」


「アロイスはダメよ。女性同士の話なのですからね」


「ツツェ……」


 捨てられた仔犬のような顔をしてツツェーリアを見るアロイスを見て、公爵夫妻は楽しげに笑った。



 ◇



「ミランダ シュミットでございます。この度はお招きいただきありがとうございます」


 ミランダ シュミット伯爵令嬢。
 アルベルトの側近、騎士団長ハルツハイム伯爵嫡男マルクスの想い人である。


 学園生の時は『婚約解消』を叶える為、それぞれがその関係者に関わらないと決めていたのでツツェーリアもミランダにも関わる事が出来ずにいた。

 しかしミランダには『平凡令嬢』などという失礼極まりない噂があり、当時のツツェーリアも『婚約者に浮気された憐れな公爵令嬢』と揶揄される事もあったのでミランダの歯痒い思いは痛いほどよく分かった。ミランダはマルクスの好いた相手でもありまったく無関係では無くとても気になっていた。

 そんな時、ツツェーリアの目の前で『平凡令嬢』の噂をしている男子生徒達がいたので諌めた事があった。
 ……ミランダ本人が近くにいた事は初め知らなかったが、その時ほんの少しだけ関わっただけの関係。


 あの時のミランダは、ツツェーリアをキラキラと尊敬したように見つめ美しいカーテシーをしてくれた。

 あんな噂をされ続けて、嫌な思いもたくさんしたはずなのに彼女の心は健やかで清々しい。……ツツェーリアの心にミランダは大きく印象が残っていたのだ。


「来てくださって嬉しいわ、ミランダ様。
……私はずっと貴女と色んなお話がしたいと思っておりましたの。学園の頃は、事情がありまして近付く事が出来ませんでしたので」


「マルクス様からおおよその事情は聞いております。殿下との間でそのように取り決められていたそうですね。
それなのに以前『平凡令嬢』と噂をする男子生徒を諌めてくださり、とても感謝しております」


「あれは……、本当に耳障りでしたのよ。あの男子生徒はおそらく貴女の事が気になっていて不器用なアピールをしていたのでしょうけど、あれがどれだけ相手を嫌な気持ちにさせるかという事を分かってもらいたかったのですわ」


 するとミランダは、あの時と同じように尊敬の眼差しでツツェーリアを見て言った。


「ツツェーリア様……。私、あの時本当に嬉しかったのです」


 ツツェーリアはミランダのその真っ直ぐな瞳に、胸がホッコリとした。


「ミランダ様……。貴女にそう思ってもらえていたのなら良かったですわ。
今日お呼びしたのは、ミランダ様の事がとても気になっていたからなのです。……ハルツハイム様と想いが通じ合えたと聞き私は本当に安堵いたしました。殿下達の中で、ハルツハイム様だけが想う方となんの意思疎通も出来ていない状態でしたから」


 ミランダは少し赤くなり恥ずかしそうにしながらも頷いた。


「はい……。あのパーティーの後、父より新たな見合いだと言われて彼と引き合わされたのです。
最初は学園であのような行動を取られていたマルクス様を許せずにいたのですが……」

「それは仕方ありませんわ。学園での彼らの行いは私も事情を分かってはいても良い気分ではありませんでしたもの。
……という事はミランダ様もあの頃からハルツハイム様の事を……?」


 途端にぼっと頬を染めるミランダ。


「いえあの……。私は学園に入学する前にマルクス様とお会いしていて、最初彼が私の運命の人だとそう信じていたのです。ですから……余計にあのような不実な行動が許せなかったのかもしれません」


 赤面しながら一生懸命に自分の思いを語るミランダが可愛くて、ツツェーリアは彼女に大いに好感を持った。

 そしてツツェーリアはマルクスが見合いでミランダをいかにして説得していったのかを少しずつ聞き出していった。……やはりというか、マルクスはあの『平凡令嬢』の件でミランダの心を掴むのは随分と苦労したようだった。


 ……ハルツハイム様の努力もあるけれど、周りの方々の協力もたくさんあったようですわね。


 ツツェーリアは微笑ましい気持ちで幸せそうなミランダを見つめる。


 ミランダの恋バナを聞いたあとツツェーリアもアロイスと婚約するまでの惚気話をしてしまった。



 ……そして。


「……セイラ嬢が学園を辞め領地にお帰りになったそうですわね」


 最終学年として学園に通うミランダに2年に進級するはずだったセイラが学園を去った話を聞く。


 ツツェーリアにとってセイラは、世間的には『婚約者の浮気相手』としての存在だったが本当はの協力者。本当にそれだけの関係だったなら『嫌われ役』を演じてくれた彼女の今後を守る役割も考えていた。

 ───しかし、セイラは色々とやらかし過ぎた。
 特にツツェーリアや側近たちの婚約者に嫌がらせをして来た時、『コレは自分が関わる事ではない』と思った。……要するに彼女に対して怒りを覚えた訳だが、……ツツェーリアは特に何もするつもりはない。

 ツツェーリアがセイラを庇わない事。それが暗黙の了解となり、彼女を追い込む事になるのだ。

 セイラは最初の『計画通り』にツツェーリアに関わってはならなかった。最大の被害者であるツツェーリアが許し庇ってくれるかどうかが、今後のセイラの人生の最大の分かれ道でもあったのに。


「結果的には私は望み通りに婚約の解消も滞りなく済んだので、彼女に対して何もするつもりはありませんわ。……けれど、そうは思わない者もいるでしょう。そしてその者達からセイラ嬢を守る程、私は彼女を許している訳ではないのですもの。
……ご実家の領地に帰られるのは賢明なご判断だと思いますわ」



 そう言ったツツェーリアにまたしてもミランダは『なんてお優しい』といった目で見て来たのだが、ツツェーリアは心の中で『そうでもないのよ』と呟いた。 
 ツツェーリアがした事は父やアロイスがセイラや子爵家にそれなりの罰を与えようとした事を止めるよう言った位だろう。



 その後も2人の話は盛り上がり、随分と打ち解けた2人はまた会うことを約束した。
 そしてそれからツツェーリアとミランダは互いに結婚してからも仲良く、生涯の友となっていったのであった。


 
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