27 / 31
アルベルトの選んだ道
しおりを挟む……目を閉じながら、国王は頭の中で様々な事の計算をする。
自ら評判を落とし有能な婚約者と婚約解消した王太子。新たな王妃候補は友好国である隣国の評判の良い王女。元婚約者とはお互い納得の上での婚約解消で、彼女は筆頭公爵家の跡取りとして義弟と結婚し王家の味方となる。
王太子と共に評判を落とした側近の内の1人は祖父である侯爵が身勝手で傲慢な人物として有名で子息の婚約相手の家もどちらにも利得が無く困っていたと聞いている。そしてもう1人の側近ハルツハイム家もその婚約者である侯爵家が無理矢理婚約を決めたと有名だ。
彼ら側近2人の婚約解消は、話としては特に問題は無いはず。
要するに、王太子と側近達とその婚約者が婚約解消後に真に愛する相手と幸せになったと世間が認めれば、王家の権威の失墜は免れるはず。
そしてアルベルトと7歳離れた弟王子を王太子とするにしても、これからの教育やまた新たな相応しい婚約者探しなどそれなりにリスクはあるのだ。
国王は、これは我が子アルベルトに甘い判断だと気付き心の中で苦笑する。
……しかし本当はずっと努力し続けてきたアルベルトとその婚約者ツツェーリアの望みを叶えてやりたかった。どちらに転ぶか分からぬ賭けならば王としては絶対に出来ないが、努力次第で良い方にいくと思われるのならばそちらに賭けてみても良いという考えに至った。
「……アルベルト。水面下で速やかにエディット王女との婚約をまとめよ。そして公爵家も王家の婚約の発表後すぐにツツェーリアの婚約を発表出来るよう手配し待つように。
そしてお前の側近2人とその婚約者達も早急に話をまとめさせるのだ。
……こうなった以上は、これ以上の揉め事は許されないぞ。お前達は正しい愛の為に行動したのだと、世間に認めさせよ。それがこの『婚約解消』を認めアルベルトをこのまま王太子とする条件だ」
アルベルトとツツェーリア、そしてアルペンハイム公爵はバッと顔を上げた。
今まで何年もどれだけ願っても努力しても叶わなかった願い。
……やっと……、やっと! 報われる時が来たのだ。
「……はっ。必ずや成し遂げてみせます!」
「承りました……!」
「陛下。……ありがとうございます。必ずや良き方に進む事でありましょう。私も力を尽くします」
アルベルトもツツェーリアもアルペンハイム公爵も。
感動と喜びの中、国王に礼を言った。
◇
「───まったく。ツツェーリア程王妃に相応しく、王となるお前の力となってくれる者は居なかったものを。……アルベルト、お前はこれから随分と苦労し後悔することとなるぞ」
ツツェーリアとアルペンハイム公爵が退出し、謁見の間には国王とアルベルトの親子2人が残されていた。
そして全てを受け入れた後、ため息混じりに国王は言った。……これは王としてより『アルベルトの父』としての言葉だったのだろう。
「───はい。分かっております。
ツツェーリアほど王妃に相応しく私を理解し支えてくれる女性は居なかったでしょう。
……けれども私は彼女の心を聞いた時決意したのです。私はもしも彼女が私と共に生きる道を望んでくれたならば、エディット王女への想いには一生封をした事でしょう。
ツツェーリアは私の中で特別な女性。彼女の想いを知ったからこそ、私はエディット王女との恋を自分に許したのです。
……私はある意味、ツツェーリアを誰よりも深く愛していました」
アルベルトはツツェーリアを、深く愛していた。国を支える『同志』か『友情』か、長く共にいた『情』か……。彼女とならば生涯この国を守っていけると信じていた。
エディット王女に恋をしたのは本当だ。けれどその気持ちは生涯封をするつもりだったのに。しかしそれを不覚にも隣にいたツツェーリアに気取られてしまった。
ツツェーリアに『婚約の解消』と言われた時には心を抉られるような気持ちだった。一晩思い悩んで……。翌日もう一度ツツェーリアにその気持ちを確かめてやはり本当に『婚約解消』を望んでいると知った。そしてその時エディット王女への恋心を持つ事を自分に許した。
けれど自分はツツェーリアの事を愛していたのだと改めて気付いた。国王に『婚約解消』を却下されて心のどこかでホッとしていた自分に気付き、愛する者と一緒になれないツツェーリアの様子を見て心を痛める。
ツツェーリアのその辛そうな姿を見る度に、何とかせねばと考えてきた。
エディット王女に『本当に自分で良いのか』と問われた時。そしてツツェーリアの想い人アロイスに『本当はツツェーリアを好きなのでは』と問われた時。……表には決して出さなかったものの本当は心に迷いが生じていた。
───しかし、もう迷わない。
愛しい人ツツェーリアは愛する者と、そして自分は恋しいエディット王女と共に生きていく。
「───これが、皆が幸せになる道。私は自らが選んだこの道を精一杯生きていくだけです」
アルベルトの真っ直ぐな言葉に、国王は全てを理解しているかのように少し悲しそうに頷いた。
538
あなたにおすすめの小説
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
女性治療師と距離が近いのは気のせいなんかじゃない
MOMO-tank
恋愛
薬師の腕を上げるために1年間留学していたアリソンは帰国後、次期辺境伯の婚約者ルークの元を訪ねた。
「アリソン!会いたかった!」
強く抱きしめ、とびっきりの笑顔で再会を喜ぶルーク。
でも、彼の側にはひとりの女性、治療師であるマリアが居た。
「毒矢でやられたのをマリアに救われたんだ」
回復魔法を受けると気分が悪くなるルークだが、マリアの魔法は平気だったらしい。
それに、普段は決して自分以外の女性と距離が近いことも笑いかけることも無かったのに、今の彼はどこかが違った。
気のせい?
じゃないみたい。
※設定はゆるいです。
【完結】私のことが大好きな婚約者さま
咲雪
恋愛
私は、リアーナ・ムスカ侯爵子女。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの?
・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。
・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。
※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。
※ご都合展開ありです。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる