玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第6章 エイゼル市に響くウェディングベル

第6章第016話 続・チャラ貴の血族 そして王姉

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第6章第016話 続・チャラ貴の血族 そして王姉

・Side:ツキシマ・レイコ

 さて。アイズン伯爵を交えてのカルマ商会主催、リラック商会協賛、輸入食材品評会も終わり。私とアイリさんタロウさんは伯爵邸をお暇して貴族街を出ようと門に向かっている所です。

 「うーん、良い匂いがしてくるけど…また今度だね」

 お腹をさすりながらアイリさんがぼやきます。この食いしん坊さん。
 貴族街城門前の屋台村には毎度気を引かれます。なにか醤油を使った料理も出ているようで、焼き物の醤油独特の香ばしい香りが漂ってきますが。
 すでに試食でお腹いっぱいですし、このまま自宅のある街北に帰ろうと歩いているとき。

 「アイリ殿っ! アイリ殿っ!」

 …いつぞやのチャラ貴2が現れた! 通りがかった馬車から降りてきます。

 「聞きましたよ! なかなか会えないと思っていたのですが、まさか僕以外の求婚を受けるだなんてっ! どこの馬の骨ですか? その身の程知らずの男はっ?」

 「…はい。馬の骨です」

 小さく手を上げてタロウさんが呟きます。
 ちなみに。こちらのオリジナルの言葉では、馬の骨というよりはまんま路傍の石ですね。そこら辺の価値のないものという意味になります。
 …このチャラ貴、一緒に歩いているタロウさんが目に入ってないようです。それでもボディーカードモードのタロウさん、すっとアイリさんの前に出ます。うん、かっこいいよっ!

 「…… なんだね君は。私はアイリ殿に用があるのだ。そこを退きたまえ」

 「またお会いしましたね、ラージュ・トラン・アーウィー様。私がアイリ・エマントと婚約した馬の骨のタロウです」

 根に持ちましたね、タロウさん。
 どうもこのチャラ貴、タロウさんがランドゥーク商会の跡取りだってのは知らないようですね。けっこうな大商会ですし、タロウさんはたぶん収入も期待できますよ?

 「なん…だとっ!」

 「ラージュっ! 急に馬車を止めるとは何事かね? …って、あなたは巫女様っ?!」

 馬車から顔を覗かせたのはチャラ貴その1。お城での年始の宴で大声で喧伝してくれやがった貴族カマン・エバッハ・アーウィーですね。そういえばラージュの父親でしたか… こんなツーペアうれしくないですけど。

 そして、もう一人出てきました。中年のマダムって感じの方。まさか…
 御者の人が喚きます。

 「控えなさいっ! こちらはネイルコード国国王クライスファー陛下の姉君であられるシエラ・アマランカ・アルタレス様であられます。控えなさいっ!」

 陛下の姉君ですが… まぁどんなにアレな人であっても、王家には敬意を表する必要があります。念のため、三人で膝をつき最敬礼です。

 「ふん。平民のクセに貴族の礼を取りますか」

 「…伯爵邸ではこれでいいって教わったけど…」

 アイリさんが小声で囁きます。タロウさんも頷いています。…難癖ですか?
 私は大使扱いということで、伯爵格で良いはずですが。余計なトラブル回避モードです。もともと頭は低い私。

 「まぁ良いです。アイリとやら、孫のラージュが何が良いのかあなたに執心のようです。聞けば教会奉納品を数多扱かっているとか。平民としてはなかなかの手腕のようですね。アマランカ領に来て領のために働くことを許します」

 「はい?」

 「ほう。あのランドゥーク商会の権益を引っ張ってこれるというのなら、有用さは認めざるを得ないな」

 父親のチャラ貴その1がほざいております。純粋に嫁に来て欲しいならともかく、有能ではなく有用ってなんですか?

 「あの。先ほどからアイリの婚約者は私に決まったと申し上げております。あと、奉納の管理権限はレイコ殿からランドゥーク商会に委託されておりますので。仮にアイリを妻として引っ張っていけたとしても、アマランカ領には何も付いてきませんよ?」

 「ならば、そこの赤竜神の巫女も一緒に来れば良いのです。ドクトールの嫁にはまだ若いですが、まぁ数年すれば丁度良いでしょう」

 …おお? 何気に私には初めての婚約話。あの同じ一族とは思えないチャラ貴のまともな親族のドクトールさんがお相手ですか? うーん、彼は悪くない物件かとは思いますが、私は結婚には興味ないですよ。

 「というわけだ、タロウとやら。アイリ殿も、こんなアイズン伯爵の街なんかにいるより、アマランカ領に来れば今よりも贅沢させてやるぞ。貴様ではそんな生活はさせてやれまいて」

 あ…チャラ貴2がアイリさんの地雷踏んだ。アイリさんの方からカチっと音がしました。
 チャラ貴2、上から目線過ぎて衛星軌道目線ですね。そんな高いところからだと何も見えないでしょ?ってなもんです。

 「…ちょっと。アイズン伯爵の街"なんか"ですって?」

 アイリさんが敬礼から立ち上がってチャラ貴2を睨み付けます。漫画だったら、背景に「ゴゴゴゴ…」って描かれる感じでです。
 …アイリさんはバッセンベル領から家族と逃げてきてこの街で救われたって経緯がありますからね。アイズン伯爵の信奉者でもありますから、今の物言いは聞き逃せないようです。

 「ア、アイリ殿っ?」

 流石に何か気に触る…を越して逆鱗に触れたらしいことは、アイリさんの雰囲気から察したようです。

 「ラージュ様でしたっけ? 貴方はアマランカ領でどのような施政をされているというのですか? アイズン伯爵を馬鹿に出来るほどのことをされているのですか?」

 「え? いや…その… 民から税を取ったり?」

 あ。こりゃ領政に関わることは何もしていないですね。ドクトールさんの話でも、領での施政は主にシエラ夫人の旦那さんであるコモドロ辺境候が主導のようですし。次代としてはドクトールさんがエイゼル市で修行中。チャラ貴1&2には出番がないはず。

 「今年の麦の生産高は? エイゼル領との交易量は? そもそも今年の税収入の見込みは?」

 「い…いや、そのような銭勘定は、貴族のやることじゃないだろ?」

 「誰がそのお金を生み出していると思っているんですか? 領民でしょ? だったらその領民の活動をし易いような政策を行なっていくのが、為政者たる貴族の役目じゃないんですか? エイゼル市が、伯爵の運が良くてまたまた発展したとか思っているんじゃないでしょうね? この街を"なんか"と呼べるような貴族なんですか? 貴方は?」

 「い…いや…だからこそアイリ殿や巫女様に来ていただきたいと…」

 「私もレイコちゃんも行きません。そもそも私やレイコちゃんの奉納がエイゼル市で利益を出せているのは、アイズン伯爵の計らいがあるからです。貴方の所に行ったところで、そのうち奉納の権利を切り売りして凌ぐようになるだけですよ」

 「く…優しく接していればつけ上がって、辺境侯家に対してよくも言ってくれる。不敬で処断されたくなければ、大人しく付いてこいっ!」

 お? 貴族の権威を出してきましたか? いいんですか? 私は別にアマランカ領と戦争しても良いんですよ? 直接手を出されない限り屋敷やら領軍施設の破壊だけで勘弁してあげますけど。

 「おまちをラージュ様。レイコ殿の奉納利権はランドゥーク商会が管理しておりますし。ランドゥーク商会はアイズン伯爵の庇護の元、エイゼル市で商会を営んでおります。また、アイズン伯爵は国王陛下からネイルコード国の経済相談役を仰せつかっている身分。それらの意向を無視してレイコ殿の利権を私欲しようとするならば、陛下のところまで話が登りますよ」

 熱くなっているアイリさんに変わってタロウさんが説明します。まぁ内心タロウさんも腹立たしく思っているようですが。商人スマイルうまいですね。目は笑っていないですけど。

 「陛下…まさか娘一人二人のことで王が動くなどと…」

 「通達が行っていませんか? 貴族がレイコ殿に関わる際にはアイズン伯爵を通せと。それを無視したのですから、嫌疑が向けられるのは当然でしょう」

 「く… しかし結婚ともなればその自由が保障されているはず!」

 「それは双方同意の上での自由です。貴族が一方的に女性を連れ去って良いという話ではありません」

 貴族と庶民…平民。法律上はまったく問題ないそうです。ただまぁ貴族の面子とか政治的なことを考えると、まだハードルは高めのようですが。

 「ならばっ! 婚約者を自称する其方がいなくなれば、アイリ殿との婚姻も適うと言うことだな! タロウとやら、決闘を申し込む!」

 …タロウさんがいなくなれば自分が選ばれると思い込んでいる時点でもうあれですが。まぁこのままアイリさんが連れて行かれたとしたら、たしかに私もアマランカ領に行くでしょうね。アイリさんを助けに、アマランカ領のあちこちを破壊しに。
 アイリさんをなんとかすれば鴨が葱しょって利権を持ってきてくれるなんて思ってんでしょね?

 「よく言いましたラージュ。王姉としてこの決闘を正統な物として認めます。日時はそうですね、三日後としましょう。アイズン伯の護衛騎士訓練場でも借りれば良いでしょう。委細は追って伝えさせます」

 え? そんなの受け入れるわけないじゃない…と思っていたのですが。三人ともとっと馬車に戻って貴族街に入っていきました。

 「…言いたいことだけ言って去って行きましたね…」

 「あれは逃げたというんだ」

 「…どうしようか?」

 結局、屋台街で飲み物と軽く摘まむ物を買って野外テーブルで作戦会議です。アイリさんはお酒を選びましたけど、まぁ黙認。

 古い制度ではありますが、ネイルコード国にも決闘というものがあるそうです。
 本人とは別に代理を一人立てることが出来ます。貴族同士の決闘ともなると、大抵の場合双方が代理を出すことになるそうですが。代理が負けた場合、当人が再挑戦することが認められています。
 当人同士ならともかく、後出しジャンケンのような代理人同士の決闘ではどちらが勝つのか全く読めませんし。代理が負けたから当人がと言っても、弱いから代理を立てるわけですから、先の決闘で負傷でもしていなければまず勝てるわけがありません。
 ルールとして真剣での生死問わずか木剣での審判制かは事前に合意で決めることになりますが。勝敗について不確定要素が多すぎて問題解決の手段としては甚だ不適切…と滅多に使われることはないそうです。
 大抵は恋愛や婚姻絡みでの勢い余っての三角関係解消試合が多いとか。その場合、原因となった令嬢はどうするんでしょうかね? どのみちしこりが残りまくりで後の婚活に影響大だと思いますが。

 「はいはいっ! わたしがタロウさんの代理やりますっ! ダンテ隊長に鍛えて貰った剣術、いろいろ試してみたいし」

 ここは私が代理に立候補しましょう。当然です。

 「…なんかそれでもう試合終了って感じね。あはははは」

 「俺の心配もちょっとはしてくれよ。婚約者だろ?」

 先方はタロウさんを見て、文官っぽいからこいつ戦えないとでも思ったようですが。彼はキャラバンを率いることもありますからね、専門職ほどではないにしろ、そこそこ戦えますよ。護衛ギルドの訓練場で、あの覇王様に定期的に教示を受けているそうですから。
 剣を"嗜んでいる"貴族に庶民は勝てないと思っているのか、忖度されてわざと負けて貰えると思っているのか。それとも代理人によほど強い人が控えているのか。
 ちょっと楽しみです。

 では。アイリさんが酔っ払う前に退却ですっ!

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