玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第10章 レイコさんは自重しない

第10章第012話 閑話 なとぅ伝来

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第10章第012話 閑話 なとぅ伝来

Side:ツキシマ・レイコ

 セイホウ王国の食べ物"なとぅ"。つまり納豆。…セイホウ王国のというよりは。おそらくロトリー国のレイコが作ったけど、セイホウ王国以降は広まらなかった食べ物というべきですか。理由はまぁ想像つきますけどね。

 乾燥させて瓶に栓と蝋で密封した状態で戴いた納豆。この状態で数年は"タネ"として保存できるとのことです。
 本来なら、こういう伝来物には対価を…ですが。「え?これ欲しいの?」って感じでしたよ。
 まぁそれでも私にとってはお宝です。ついに、ファルリード亭で目覚めるときが来ました。


 茹でた豆に乾燥納豆を数粒入れてよく混ぜます。熱に強いのが納豆菌の特徴でもあります。
 あとは煮沸消毒した瓶に分け入れて、冷蔵庫に置いて一晩たった次の朝。うん、きちんと糸引いています。カビも生えずに一発でうまくいったようです。
 生きてくれていたんだね納豆菌! この辺はセイホウ王国の料理人からきちんと学んできていますよ。
 
 "ラス"、味噌の方は大壺で戴いてきました。こちらは保存食なのでそのままでOKですが。次の味噌も仕込んでおかないと行けませんね。こういう発酵食品は、継続性が大切です。


 「…レイコママ、それ本当に食べて大丈夫?」

 「私は、お腹壊してまで痩せたくないわよ」

 出来た納豆を混ぜていますが。ハルカちゃんとアイリさんらがちょっと遠巻きです。タロウさんは、ターダ君を抱っこして、とっとと別のテーブルに逃げてしまいました。
 というわけで。ファルリード亭の一角を借りての試食…ですが。なんかお客さんからもギャラリーが多いです。

 「みんな! これは地球でも、好き嫌い顕著な食べ物よっ! 過度に期待しないでね」

 日本で納豆を食べられない人は二割ほどだそうですが。日本食ブームで世界で広まったなんて話も聞かなかったので…まぁ食べたいという人の方が少数なのは正しいでしょう。

 「好き嫌いは人それぞれだけど。料理人としては、食べもせずに忌避は出来ないからな。一度は味を見ておかないと…」

 …そんな覚悟を決めた顔しないでくださいカヤンさん。
 ミオンさんとモーラちゃんも遠巻き組です。ウマニ君とベールちゃんは興味深そうに見ていますが。…糸を引くのを面白がっている感じですか?

 「レイコ…やっぱ腐っているようにしか見えないわよ」

 「マーリアちゃん。人に有用なら発酵。有害なら腐敗ね。お酒だってチーズだってピクルスだって、定義的には腐っているのよ!」

 「いや…理屈は分かるけど…ねぇ」

 はいはいはいっ! 見た目はどう言っても腐ってます。臭いです。マーリアちゃんも結局、セイホウ王国では食べなかったですからね。

 私だけならともかく他の人にも食べさせると言うことで。きちんと納豆になったか、いつもならレッドさんに毒味を頼むところですが。前回と同じく拒否されました。レッドさんは納豆嫌いです。
 代わりに、私の舌をモニターすることで判断してくれるそうです。そんなこと出来たんですね。

 感覚リンクの為に背中にレッドさんを背負いながら。試しに一粒。箸で持ち上げたそれが糸を引くのを、皆がうへぇと見ていますが。
 それをパクっと。モニモニ… うんうん、ちゃんと納豆になっていますっ。

 レッドさん。…とりあえず有害と見なす成分は無しと言うことで。早々にリンクを切ってしまいました。トっと降りて、口直しにジュース飲んでます。

 「カヤンさん、大丈夫だって」

 「そ…そうか。では私も一粒…」

 家の皆は、箸を覚えていますので。カヤンさんもそれを使って食べますが。
 取りにくい納豆の豆をちょっと苦労しながら摘まむカヤンさん。糸を引く納豆。空中をくるくる回して糸を切って…この動作は、皆自然とやるんですね。意を決したように口に含みます。

 「いい匂い…とは言いがたいな。いやしかし、干した魚も良い匂いとは言いがたいか。…豆はかなり柔らかくなるんだな…ねっとりとして…」

 「どうですか?カヤンさん」

 「…豆のうま味は出ているように思える、面白い味だな。これがうまいと言う人の何がうまいのかは理解出来るが… 食感と匂いは、やはり苦手な人の方が多いだろうな」

 まぁ順当な評価だと思います。

 さて。炊きたてご飯と一緒というのも良いですが。皆が食べやすいということで、まずは納豆パスタで行ってみますか。納豆嫌いだったという友人が、納豆パスタと納豆カレーは食べられたということがありまして。私も好きですよ。

 作り方は簡単。茹でたパスタに、スープで割った醤油と味噌を混ぜた納豆乗せて香草を和えて…ここでマヨをちょっと入れて混ぜます。最後に黄身を回しがけ。こちらの卵は一個がデカいので。黄身は、小鉢で溶いたものが出されます。
 …見た目は悪くないと思いますけど。小皿にとって、勇者を求めます。

 「まぁレイコの関わった食べ物で美味しくなかったものは無かったしね。私もネイルコードに来て野菜も食べられるようになったし。一度は試しておくわ」

 お、マーリアちゃんトライしてみますか?
 フォークで絡め取られるパスタ。ネバネバなパスタ。それをパクッと行きます。

 「…これならまだ食べられる。ネバネバもなんか新食感ね…」

 ネバネバ食材は、日本でも妙な人気があったもんです。匂いも、薬味と味噌で大分和らぎますしね。
 むーんという表情のマーリアちゃん。まぁ食べられないこともないけど、積極的に食べたいというほどでもないですか。

 「なるほど。…豆の見た目はともかく。これなら味も悪くないか」

 つづいてカヤンさんからもOKが出たようです。

 「ネバネバ~」

 「わっわっわっ糸ひている」

 子供達に小皿にとって与えました。フォークに巻いて食べてます。

 「おいしい?」
 「おいしい…のかな?」
 「レイコママが好きなら、あたしも好きになる~」

 こちらはもう一押しですかね?



 ただし。私はそれでは満足できません。
 
 専用に作ってもらっていた土鍋でご飯を炊いてあります。
 魚出汁は、カヤンさんが作っている物を戴いて、さらに昆布っぽい海藻も入れて。アサリと根菜の味噌汁を作ります。味噌スープですよ。
 お魚。朝一番で納品された、脂の乗った鯖っぽい魚です。

 「とくに調理することもなく。切り身をそのまま焼いたので良いのかい? 煮込むソースとか作るよ?」

 「私の国の料理には、素材そのままってのがけっこう多いんです」

 お魚焼こうとすると、調理師さんに声をかけられますが。新鮮な魚はそのままでごちそうなのが和食です。

 もう一品。葉物のおひたしなんか良いですね。


 できました。
 お味噌汁、焼き魚、おひたし、納豆。そして炊きたてご飯。
 焼き魚に醤油をかけて。まずは、ご飯を一口。そして焼き魚。ふぅ…良いですね。良いですね。
 お味噌汁。貝の出汁が出ていて良い感じです。私はシジミでも中身は食べてましたよ。まずは軽く盛ったご飯一杯目をこれらで戴きます。

 で。ご飯をおかわりします。二杯目を食べるのは久しぶりですね。
 納豆行きます。醤油と卵、それらを適量混ぜます。日本だと、卵を割るからには一個使い切る必要がありますが、こちらでは小分けなので、量を調節できるのはいいですね。
 ご飯にかけて、醤油…セイホウ王国製の本物の醤油ですよ?、軽くかき混ぜて…ギャラリーには嫌な顔をしている人が何人かいますが、遠慮せずに戴きますよ。
 ちょっとお行儀悪いですが、ズゾゾという感じが良いのです。うんうん…納豆ご飯だ。納豆ご飯は飲み物なのです。

 …ふぅ。堪能いたしました。
 箸を置くと、自然と手が合わさります。

 「ごちそうさまでした」

 ぷふぅ…なんかこれで、この世界に来ての目的の八割方叶えてしまったような気分です。

 「…レイコ、幸せそうね」

 「まぁいろいろ突っ込み所はあるんだが。レイコちゃんが満足そうだから、これでいいのか」

 「はい。これでいいのです。これがいいのです」

 さて。だれかこのメニューにチャレンジしてみる人は居ませんか?



 後日。
 ネイルコードにいる赤竜神の巫女は。茹でただけの麦もどき。焼いただけの魚切り身。ドロのような色のスープ。そして腐った豆を食べさせられている…という噂が流れることになったのでした。

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