63 / 69
another story②~彼らの長女の小話~
絶対に諦めたくない人
しおりを挟む
「何度言ったらわかるんだ!音楽なんかやってなにになる!」
「俺は会社なんて、継ぐつもりねぇって言ってんだろ!!」
お風呂から上がって、リビングに行くとまた聞こえてくるお父さんとお兄ちゃんの喧嘩。
「お母さん、また?」
「うーん。お父さんも來輝も.......お互いもう少し歩み寄ってくれたらいいんだけどね」
「そうだね.......」
あたしのお父さんは、MMコーポレーションという会社の社長をやっていて、お兄ちゃんもあたしも小さなころから英才教育を受けてきた。
お兄ちゃんは、次期社長になるため。
あたしは、どこに嫁いでも恥ずかしくないため。
でも、高校生の時からお兄ちゃんはそれに嫌気がさして、そして、出会った音楽に魅了されてお父さんが敷いたルートから外れた。
「いいか、お前が継がないってことは代々築いてきた我が家の伝統が途切れることになる。わかってるのか?」
「は?そんな伝統どーでもいいよ。そんなの俺に関係ねーだ「いい加減にしろ」
お兄ちゃんの言葉を遮って、お父さんが、鋭い目でお兄ちゃんのことをみる。
「お前が音楽をやるのもいい。好きにさせてきた。でも、会社の伝統を途切らせることだけは許さない」
「なんなんだよ、伝統だかなんだか知らねぇけど、俺、その先祖とやらと血の繋がりのあるやつ父さんしか知らねぇもん。べつに会ったこともねぇような、お祖母様とかいうやつが守ってきた伝統なんかどうでもいい」
──パシンッ
鈍い音が部屋中に響く。
「.......っ、なにすんだよ!母さん!」
お兄ちゃんの頬を叩いたのは、お父さんではなく、お母さん。
「いい加減にしなさい。お父さんに謝って。分かってるよね?お父さんが1番なにが傷つくか」
「うるせーよ、出る」
お母さんを見ることもなく、お兄ちゃんはそのまま玄関に行く。
「.......お兄ちゃん」
「ごめんな、うるさくして。暖かくして寝ろよ」
ポンっとあたしの頭を撫でて、靴を履いて出ていく。
お兄ちゃんは、あたしにだけは優しかった。
お兄ちゃんが荒れはじめて、お父さんやお母さんに口答えをするようになっても、あたしにだけは普通に接してくれた。
「.......はぁ、ごめんな」
お父さんが肩を落として、お母さんに謝っている。
「いまのは來輝が悪いもの。学くんのお母さんのこと、あんなふうに言うなんて.......」
「まぁ、仕方ねぇよな。あったこともないのはたしかだから」
お父さんのお母さん、つまりあたし達の祖母に当たる人はお父さんが大学生の頃に交通事故で亡くなったらしい。
そして、現会長である元社長とお父さんには血の繋がりがない。
お祖母様が再婚して、社長に就任したらしい。
でも、その現会長とあたしのお母さんには血の繋がりがあるというなんとも不思議な関係だ。
「こうなったら、光架の結婚相手に継いでもらうか」
「え、やだ!」
「冗談だよ、何を本気にしてんだ」
お父さんが笑って、でも寂しそうにあたしの頭を撫でる。
「なんとなく.......」
あたしにだって付き合ってる人はいる。
その人にうちの会社を継いでなんてもらいたくない。
「光架、なんか落ち.......なんだこれ?」
あたしが持っていた手帳から落ちたものをお父さんが拾う。
「あ、それは.......っ」
あたしが彼氏と一緒にとったプリクラ。
「お前、彼氏がいたのか」
「う、うん」
お父さんにもお母さんにも言えてなかった彼氏の存在。
彼のことを知られたら絶対に反対されると思ったから。
「どっかで見たことあるんだよな.......」
お父さんが眉を潜める。
「あら、この子.......航くんじゃない?燿くんにすごく似てきたわね」
お母さんが目を細めて笑っている。
「お母さん、航のこと知ってるの?」
「.......なっ!お前、霧島の息子と付き合ってるのか!?」
あたしの質問にお母さんが答える隙もなく、お父さんが聞いてくる。
「うん、そうだよ」
航とは高校のとき、同級生だった。
その時から付き合っていて、もう5年になる。
航のお父さんは霧島物産の社長で、うちの会社とはライバル関係にある。
うちの会社は、代々続いてきた会社だけど、霧島物産は航が生まれた頃に設立して、航のお父さんが初代社長だ。
「分かってるのか?霧島とうちがライバル関係にあること」
「知ってるよ」
霧島物産は、割と新しめの会社だけど、勢いがすごくて業界ではうちに次いで2位だとかテレビでみたことがある。
「なんで、よりにもよって霧島の息子なんだ」
「しょうがないじゃん!好きなんだもん!お父さんだって、お母さんのことが好きで結婚したんじゃないの!?」
絶対に航と付き合ってることは家族には言うもんかって思ってた。
こうやって頭ごなしに反対されるのが目に見えていたから。
でも、どうしたって航のことは諦められない。
「勝手にしろ」
お父さんがため息をついて、そのまま書斎へと入っていく。
「お父さんも光架の気持ちが分からないわけじゃないのよ.......」
お母さんがあたしの頭を撫でる。
「分かってる.......でも、悔しいよ。航のこと何もしらないくせに」
お父さんとお兄ちゃんが喧嘩の毎日で。
お母さんが板挟みになって泣いていて。
そんな家にいるのが窮屈で仕方ないときも、いつだってあたしのそばにいてくれたのが航なんだ。
だから、航のことだけは絶対に諦めたくない。
「俺は会社なんて、継ぐつもりねぇって言ってんだろ!!」
お風呂から上がって、リビングに行くとまた聞こえてくるお父さんとお兄ちゃんの喧嘩。
「お母さん、また?」
「うーん。お父さんも來輝も.......お互いもう少し歩み寄ってくれたらいいんだけどね」
「そうだね.......」
あたしのお父さんは、MMコーポレーションという会社の社長をやっていて、お兄ちゃんもあたしも小さなころから英才教育を受けてきた。
お兄ちゃんは、次期社長になるため。
あたしは、どこに嫁いでも恥ずかしくないため。
でも、高校生の時からお兄ちゃんはそれに嫌気がさして、そして、出会った音楽に魅了されてお父さんが敷いたルートから外れた。
「いいか、お前が継がないってことは代々築いてきた我が家の伝統が途切れることになる。わかってるのか?」
「は?そんな伝統どーでもいいよ。そんなの俺に関係ねーだ「いい加減にしろ」
お兄ちゃんの言葉を遮って、お父さんが、鋭い目でお兄ちゃんのことをみる。
「お前が音楽をやるのもいい。好きにさせてきた。でも、会社の伝統を途切らせることだけは許さない」
「なんなんだよ、伝統だかなんだか知らねぇけど、俺、その先祖とやらと血の繋がりのあるやつ父さんしか知らねぇもん。べつに会ったこともねぇような、お祖母様とかいうやつが守ってきた伝統なんかどうでもいい」
──パシンッ
鈍い音が部屋中に響く。
「.......っ、なにすんだよ!母さん!」
お兄ちゃんの頬を叩いたのは、お父さんではなく、お母さん。
「いい加減にしなさい。お父さんに謝って。分かってるよね?お父さんが1番なにが傷つくか」
「うるせーよ、出る」
お母さんを見ることもなく、お兄ちゃんはそのまま玄関に行く。
「.......お兄ちゃん」
「ごめんな、うるさくして。暖かくして寝ろよ」
ポンっとあたしの頭を撫でて、靴を履いて出ていく。
お兄ちゃんは、あたしにだけは優しかった。
お兄ちゃんが荒れはじめて、お父さんやお母さんに口答えをするようになっても、あたしにだけは普通に接してくれた。
「.......はぁ、ごめんな」
お父さんが肩を落として、お母さんに謝っている。
「いまのは來輝が悪いもの。学くんのお母さんのこと、あんなふうに言うなんて.......」
「まぁ、仕方ねぇよな。あったこともないのはたしかだから」
お父さんのお母さん、つまりあたし達の祖母に当たる人はお父さんが大学生の頃に交通事故で亡くなったらしい。
そして、現会長である元社長とお父さんには血の繋がりがない。
お祖母様が再婚して、社長に就任したらしい。
でも、その現会長とあたしのお母さんには血の繋がりがあるというなんとも不思議な関係だ。
「こうなったら、光架の結婚相手に継いでもらうか」
「え、やだ!」
「冗談だよ、何を本気にしてんだ」
お父さんが笑って、でも寂しそうにあたしの頭を撫でる。
「なんとなく.......」
あたしにだって付き合ってる人はいる。
その人にうちの会社を継いでなんてもらいたくない。
「光架、なんか落ち.......なんだこれ?」
あたしが持っていた手帳から落ちたものをお父さんが拾う。
「あ、それは.......っ」
あたしが彼氏と一緒にとったプリクラ。
「お前、彼氏がいたのか」
「う、うん」
お父さんにもお母さんにも言えてなかった彼氏の存在。
彼のことを知られたら絶対に反対されると思ったから。
「どっかで見たことあるんだよな.......」
お父さんが眉を潜める。
「あら、この子.......航くんじゃない?燿くんにすごく似てきたわね」
お母さんが目を細めて笑っている。
「お母さん、航のこと知ってるの?」
「.......なっ!お前、霧島の息子と付き合ってるのか!?」
あたしの質問にお母さんが答える隙もなく、お父さんが聞いてくる。
「うん、そうだよ」
航とは高校のとき、同級生だった。
その時から付き合っていて、もう5年になる。
航のお父さんは霧島物産の社長で、うちの会社とはライバル関係にある。
うちの会社は、代々続いてきた会社だけど、霧島物産は航が生まれた頃に設立して、航のお父さんが初代社長だ。
「分かってるのか?霧島とうちがライバル関係にあること」
「知ってるよ」
霧島物産は、割と新しめの会社だけど、勢いがすごくて業界ではうちに次いで2位だとかテレビでみたことがある。
「なんで、よりにもよって霧島の息子なんだ」
「しょうがないじゃん!好きなんだもん!お父さんだって、お母さんのことが好きで結婚したんじゃないの!?」
絶対に航と付き合ってることは家族には言うもんかって思ってた。
こうやって頭ごなしに反対されるのが目に見えていたから。
でも、どうしたって航のことは諦められない。
「勝手にしろ」
お父さんがため息をついて、そのまま書斎へと入っていく。
「お父さんも光架の気持ちが分からないわけじゃないのよ.......」
お母さんがあたしの頭を撫でる。
「分かってる.......でも、悔しいよ。航のこと何もしらないくせに」
お父さんとお兄ちゃんが喧嘩の毎日で。
お母さんが板挟みになって泣いていて。
そんな家にいるのが窮屈で仕方ないときも、いつだってあたしのそばにいてくれたのが航なんだ。
だから、航のことだけは絶対に諦めたくない。
0
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
君に何度でも恋をする
明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。
「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」
「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」
そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる