転生ジーニアス ~最強の天才は歴史を変えられるか~

普門院 ひかる

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第2章 学園・学校編

第34話 ゼウスのダンジョン(3) ~バジリスク、マンティコラ、ゴルゴンとヒュドラ、そして望外の報酬~

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 ダンジョン探索3日目になった。

 いいかげんずっとダンジョンの中というのは気が滅入めいってくる。
 ボス級の怪物をあと何体倒したらゴールなのだろう。終わりが見えないというのは不安がつのるものだ。

 今日一つ目の大部屋に入るとエラスモテリウムが10頭ほど現れた。

 エラスモテリウムは更新世に生きていたサイの一種であり、体長5メートルほど。額にある角は2メートルにも及ぶ。

 草食動物なので本来は気性が荒くないと思われるが、ダンジョンにいるものは違った。怒り狂っており、次々と突進してくる。
 この巨体に押しつぶされたらひとたまりもない。

 物理攻撃は分厚い毛皮と脂肪の層に妨げられて、なかなか致命傷を負わせられない。
 ここは火攻めしかないだろう。

「プドリス。悪いが、また踏ん張ってくれ」
「わかりました。主様。
 炎よ来たれ。煉獄れんごくの業火。ヘルファイア!」

 エラスモテリウムの体毛が燃え上がり、脂肪の層が焼かれる。しかし、致命傷には至らない。
 弱りながらも、なおこちらに突進してくる。

 ──やむを得ん!

 フリードリヒは更に上位の火魔法であるパーガトリー・フレイムを発動する。
 と同時に魔法障壁を張り、パーティーメンバーを守る。

 地獄の炎はこんどこそエラスモテリウムを消し炭にした。

 できれば、まだ魔力は温存しておきたかったのだが仕方がない。
 この調子で魔力を消費していては、今日も早い時間に行き詰ってしまと少し不安になる。

 次の大部屋には大蛇が控えていた。
 頭に雄鶏のトサカと角を持ち、翼が2つあって、尾は槍の穂先となっている。
 バジリスクだ。その毒は石をも砕くという。

「こいつは口のほかに、目からも毒を放つぞ。下がっていろ」

 パーティーメンバーは後退して毒を警戒している。

 バジリスクはイタチが天敵だったはず。イタチは臭い匂いでバジリスクを殺すのだ。
 そのためには狭い空間に閉じ込める必要がある。

 フリードリヒは時空魔法でバジリスクの周りの空間を区切るとヴィヴィアンに習った変身魔法でイタチに変身し、その空間に飛び込んだ。

 イタチに変身したフリードリヒは思いきり臭い匂いを放つ。バジリスクは苦しみながらも口と目から滅茶苦茶に毒を放ち攻撃してくる。
 フリードリヒにも毒が降りかかるが、デトックスの魔法で無効化する。

 バジリスクはしだいに弱っていき、ついには絶命した。
 それを確認し、フリードリヒは時空魔法と変身魔法を解除する。

 密閉空間から大部屋の中へと匂いが広がっていく。

「臭っ!ご主人様、臭いにゃ」と臭いに敏感なミーシャが文句を言ってくる。他のメンバーも鼻をつまんでいる。

「何を言う。この匂いでバジリスクをやっつけたんだぞ。勲章みたいなものだ」
「それはわかるけど、臭いものは臭いのよ」と鼻をつまみながらローザが反論する。
 確かにバンパイアも匂いに敏感だからな。

 フリードリヒたちはそそくさと大部屋を出ると、魔法で匂いを消した。

 ──ああ。また無駄な魔力を使ってしまった。


 続く大部屋では、血の色をした人間の顔とライオンの体、サソリの尾を持つ怪物が控えていた。マンティコラである。

 ボス級のオンパレードだ。そろそろ終わりが近いのか?

 マンティコラはよだれをたらしながら咆哮ほうこうして威嚇いかくしている。開けた口には3列に牙が生えている。まるでサメの口のようだ。

 マンティコラは人間の肉を好んで食べるというから、さぞやごちそうに見えているのだろう。

「サソリの尾からは毒針が放たれるぞ。気をつけろ」

 毒針を避けながらパーティーメンバーでマンティコラを追い込もうとするが、鹿よりも速く走ると言われるだけあってすばしっこい。

「ベアトリス。矢衾やぶすまで行く手をふさげ!」
「はい。水よ来たれ。氷の矢衾やぶすま。レインオブアイスアロー!」

 氷の矢に行く手をはばまれ、マンティコラは追い詰められた。行き詰ったマンティコラはヘルミーネに狙いを定め、3列の牙で噛みついてくる。
 ヘルミーネは間一髪で後退し、これを避けたがバランスを崩して尻もちをついてしまった。

 もう一撃くらったらあわやというところで、ローザとカタリーナが前へ踏み込み、二人がかりでマンティコラの首を刎ねた。
 その直後、マンティコラの首から血が噴出し、ヘルミーネは血まみれになってしまった。

「いや~ん」
 窮地きゅうちは脱したものの、汚いやら、生臭いやらで、ヘルミーネは泣きそうになっている。

「仕方がない。ベアトリス。水魔法でヘルミーネを洗ってやれ」
「私、洗濯の魔法なんて知りませんけど…」

「とりあえず、服を脱いだところで、水をぶっかければいいんだ。私は後を向いているから」
「はい。わかりましたよ。もう、男の人って乱暴なんだから…」

 後ろでヘルミーネが服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえる。思わずその姿を想像してしまうが、これを振り払う。

 続いて「ザバーン」という水の音がする。本当にぶっかけたな。少しは加減してやればいいのに…

「プドリス。甲冑かっちゅうは替えがないから乾かしてやってくれ」
「わかりました。主様」

 それから甲冑かっちゅうが乾くまで小休止となった。


 更に次の大部屋ではゴルゴンが2人現れた。ボス級はもうおなかいっぱいだ。

 ゴルゴンは、猪のような大きな牙に青銅の腕を持ち、頭には無数の生きた蛇が生えている。
 背中には黄金の翼がある。これによって空を飛び、宝石のような目で見られたものは石化するのだ。

 ゴルゴンに見つめられたフリードリヒを含め、パーティーメンバーが石化していく。
 フリードリヒは急いでリカバリーの魔法で石化を解いた。

「皆、いったん部屋を出ろ」

 一人部屋に残ったフリードリヒは、マジックバッグからイージスの盾を取り出した。この盾はあらゆる災厄から守ってくれるから石化も無効化してくれるだろう。

 続いて聖剣エクスカリバーも取り出す。ボス級2体ともなればこのくらいの備えは必要だろう。

 それを見たゴルゴンは叫んだ。
「それはメデューサの首。おのれ妹の首をみせびらかしにきたのか!」

 そんなつもりはなかったのだが、ゴルゴンの不興を買ってしまった。2人はおそらくメデューサの姉のステンノとエウリュアレなのだろう。

 2人は連携しながらフリードリヒに襲いかかってくる。

 石化を防げれば楽勝かと思えば、それは違った。
 青銅の腕はかなりのパワーだし、空を飛び上空からの攻撃も織り交ぜてくる。2人の連携は絶妙だ。

 これをイージスの盾で防ぎながら、まずはエウリュアレの右手を断ち切った。青銅製であろうとエクスカリバーの切れ味には勝てない。

 続いてステンノの右腕も断ち切る。
 2人の腕からはおびただしく血が流れ出ている。

 2人が弱ったところでエウリュアレの首を刎ねた。刎ねた体から激しい血しぶきがあがる。
 続いて、残るステンノの首も刎ねる。

 しかし、彼女らは不死身なので死ぬことができない。

「く、苦しい…」
 刎ねた首は苦痛の表情で歪んでいる。

「私の眷属になるというのなら治してやるが、どうだ?」
「我らに情けをかけるというのか?」

「そうだ。嫌なら永遠に苦痛にさいなまれるか、不死性を返上して死を選ぶかの2択だ。どうしたい?」
「……わかった。この苦痛から逃れられるのなら眷属にもなろう」

 フリードリヒはハイヒールの魔法で2人の首と右腕を接合してやった。

「名前はステンノとエウリュアレを上書きでいいな」
「ああ。構わない」

「流した血は戻らないからしばらくは養生することだな」

 ──この台詞せりふ何度目だ?

「承知した」

「ところで、この先にまだボスはいるのか?」
「この先にヒュドラがいる。それで最後だ」
「それはいいことを聞いた」

 とはいえ、ヒュドラはギリシャ神話でも最恐の怪物の一つだ。やっかいだな。


 最後の大部屋が見えてきた。

 ヒュドラは、巨大な胴体に9つの首を持つ大蛇で、猛毒を持つ。毒は体からも染み出しており、空気中を漂っているから対策が必要だ。
 また、首を切っても2つに再生する。特に真ん中の頭は不死身だ。

 伝承によると、かつてヒュドラを封じ込めたヘラクレスは首を切ったはしからこれを焼いて再生を封じ込めたという。ここは前例を踏襲させてもらおう。

 部屋に入る前に布を水に濡らしたものをメンバーに配る。これでマスクのように鼻と口を覆い、毒を防ぐのだ。

「私と皆でヒュドラの首を切っていくからプドリスは再生しないよう傷口を焼いてくれ。極大のファイアーボールでいいだろう」
「わかりました」

「ヒュドラの毒は猛毒だ。噛みつかれたら即死もあり得る。気をつけろ」
「「「了解!」」」
 と言いながらもパーティーメンバーの顔は青ざめている。

 ──これで最後だから頑張ってくれ。

「では行くぞ!」

 大部屋に入ってみるとヒュドラは思ったよりも巨大だった。これは首を切るのも一苦労だ。

「皆は協力して一本に当たれ!」

 フリードリヒはイージスの盾とエクスカリバーのフル装備で臨む。イージスの盾はおそらく毒からも守ってくれるだろう。エクスカリバーは癒しの力も持っているので、多少の傷ならば回復してくれる。

 9本の首の攻撃をかいくぐりながらの戦いは難問だった。
 パーティーメンバーも苦労している様子である。

 これで最後だから魔力の温存は必要ない。ここは魔法で牽制けんせいしてみるか。闇系は効き目が薄そうだから光でいこう。
 フリードリヒはライトジャベリンを50本まとめて打ち込む。

 攻撃のショックでヒュドラの体が一瞬硬直した。
 そのすきをついてヒュドラの首を一本刎ねる。

「プドリス!」
「炎よ来たれ。高熱の火球。ファイアーボール!」
 ファイアーボールは見事に切り口に命中し、焼き焦がした。

 これで少しだけ楽になった。
 あとはこのパターンで首を刎ねていくだけだ。

 2本目、3本目と首を刎ねていく。
 パーティーメンバーも苦労しながら1本刎ねた。

 そして残った真ん中の一本を刎ねた。
 いちおう焼いてみよう。

「プドリス。頼む!」
「炎よ来たれ。高熱の火球。ファイアーボール!」

 が、不死身の首は焼いても再生していく。

 ヘラクレスは最後の不死身の首は大岩の下敷きにして封じたというが、ここにはそのようなものはない。どうする?

 フリードリヒは、とりあえず再生する首をそのはしから刎ねることにした。再生の材料はおそらく本体から供給されているだろうから無限ではないはず。
 接合と再生では圧倒的に後者の方が本体への負担が大きいのだ。

 ──こうなったら我慢比べだ。

 そうして刎ねた数が100回を超えたころ…

「待ってくれ!」
 ヒュドラから泣きが入った。

「どうした? その首は不死身ではなかったのか?」
「このままでは体が持たぬ。何とか許してくれ」

「条件次第だな。私の眷属になったら許してやろう」
「しかし、それではゼウス様への申し訳がたたぬ」

 ──おまえもかよ。

「ゼウス様は『遊んでやる』といっておられた。そこまで本気ではないと思うぞ」
「それは本当か?」

「もちろんだ。それに最後の財宝も最初から渡すつもりだったようにも思えるがな」
「そうなのか……わかった。其方そなたのような強く賢い者の眷属になれるなら本望だ」

「それでは治してやろう。痛いが我慢しろよ」

 残りの8本の首の焼いた部分を再度切り取っていく。するとこれらの首も再生した。

「何度も再生して本体には負担がかかっているからな。養生しろよ」
「かたじけない」

 大部屋の奥に最後の宝部屋と思われる扉があった。
 ヒュドラをあとに扉へ向かう。

 フリードリヒが扉の前に立つと扉が勝手に開いた。入り口のときと同じだ。

 部屋に入ってみると中央に台座があり、光り輝くオーブのようなものが置かれている。

 近づくとオーブが飛んできてフリードリヒの体に吸い込まれた。
 直後に電撃のような強烈な衝撃におそわれ、うずくまってしまった。
 なんだ? これも罠なのか?

「主様!」「旦那!」「ご主人様!」
 パーティーメンバーが心配してあわてて駆け寄る。

 衝撃が引いて冷静になったフリードリヒは悟った。
 体の中に途轍もないパワーを感じる。

 まさかとは思うが、これはゼウスの雷霆らいていの力ではないか?

 ──何かの間違いでは? それとも渡す気がなかったものを奪ってしまったのか?

「主様。大丈夫なのですか?」とネライダが聞いてきた。
 他のメンバーも深刻そうな顔をしている。

「ちょっと衝撃を感じただけだ。問題ない。
 それよりも急用を思い出した。急いで町へ戻るぞ」

「えっ。何なんだよ」とヴェロニアが声をあげる。他のメンバーも納得していない様子だが、とりあえずスルーだ。

 急いで地上へ戻るとテレポーテーションでパーティーメンバーをバーデン=バーデンの町まで送り、フリードリヒは神界へと向かった。

 ゼウスの神殿を訪ねる。

 が、向こうから声をかけられた。なぜかかたわらには妻のヘラのほかにアテナがいる。

「小僧。見ておったぞ。さすがアテナに懸想けそうするだけのことはあるな」
「いえ。そのようなことは…
 それよりもゼウス様の雷霆らいていをいただいてしまったようなのですが、何かの間違いでは?」

「間違いではないぞ。攻略してみてのお楽しみと言ったじゃろう?」
「それはそうですが…」

「それに小僧程度の神力では使ったところで威力はたかがしれている。だから気にせんでどんどん使え」

 ゼウスの雷霆らいていは、全力で使えば宇宙をも破壊すると言われている。それと比較すればフリードリヒの神力などスケールダウンもいいところだ。同じ雷霆らいていと呼ぶことすらおこがましいかもしれない。
 ここは素直にもらっておくか…。

「ありがたく頂戴ちょうだいいたします」
 フリードリヒは頭を垂れた。

 頭を上げるとアテナと視線が合った。
「フリードリヒ。よくやったな。あなたならあるいはと思っていたが、本当に攻略してしまうとは」
「恐れ入ります」

 しかし、なぜアテナ様がここにいる?
 アテナ様が俺のためにゼウスに頼んだとか…
 まさか、そこまで俺のことを思って……いや、あまり期待するのはよしておこう。

 ヘラが口を開いた。
「この子かなり期待できるんじゃない。ねえ、あなた」
「ああ。この歳でこれだったら、ひょっとして200年くらいで一人前になってしまうかもしれぬぞ」

 ──いや。俺、半分人間なんでそんなに生きられませんから。

 かたわらでアテナが穏やかに微笑している。
 アフロディーテの一件以来、ギクシャクしたままだったから、こんな笑顔は久しぶりだ。

 これだけでもダンジョンを攻略したかいがあったと思うフリードリヒであった。
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