158 / 251
お仕置きのお時間
158. 秘密を探したければまず霧を探せ (2) -sideアロイス
しおりを挟む黒い霧に囲まれたその神殿の規模は、想像した以上に大きかった。
セレストの神官達や避難した村人達は相当やつれてはいたものの、ぎりぎりで間に合ったらしい。
本当に食い物が底を突いていたようで、これ以上遅れていたらどうなっていたか、想像すると恐ろしいがな。
その地下で謎の壁画を発見した。
セレスティーヌが泉に魔力を通すと、その魔力が水に触れていた魔石塗料を伝って発光する仕組みだった。
水を通さずに魔力を放つだけでは、壁に届いたかどうかわからない。少なくとも、一般の魔法使い程度では無理だったろうな。
水は魔力を素早く浸透させ、一定期間溜めておく性質がある。水系の魔法に適性があり、なおかつ保有魔力の多いセレスティーヌだからこそ、あの絵は浮き上がったのだ。
しかし、あの地図はいったい誰が描いたのだろう?
河の位置以外があまりにも正確で、以前俺が目にした地図にはなかったものまである。
まるで上空から地上を眺めた、ミュリエルの視界のような地図だと思った。
そのミュリエルに例の怪物の『本隊』を探らせたら、案の定、大きな群れが存在するとわかった。
方角や距離を詳しく聞き出すと、神殿から北西の位置の、何がどうしてそこにあるのか不明な建物を示す印とほぼ一致している。
知らなければ、ひとまずそちらの方向に進んでみようという話になったかもしれん。ミュリエルには感謝だな。
しかし村人の話からしても、この土地の管理を任された責任者という奴が、どうにも怪しい。
ミュリエルに手紙を持たせ、マティス陛下の元に送り出し、その日は一旦休むことになった。
さて……
部屋を準備できた者は、各自そちらに向かった。
俺も自分用にあてがわれた部屋に戻り、深夜近くになると、エタンにグスタフ大神官を呼んできてもらった。
あちらもそれを予想し、起きて待ってくれていたらしい。
エタンには廊下で見張りを頼み、グスタフ大神官のみを招き入れる。
「こんな時間にすまんな、グスタフ様。そこにかけてくれ」
ここは当時、上位神官の部屋だったと思われ、家具の質がそこそこいい。
神殿内が瘴気に晒されていなかったもあり、椅子やテーブルなどもあまり劣化が見られなかった。
予め用意してあった湯呑みから湯気が立ちのぼり、昼間より幾分明るくなった顔色で、グスタフ大神官はそれを見下ろした。
「おお、構わんぞ。どっこらしょ。――で、話っちゅうことだが、おまえさんはあのお嬢さんとどこまで進んどるんだ?」
「はっ倒すぞジジイ」
「なんだ、その話かと思ったわい」
「うるせぇ、白々しいぞ」
絶対そーゆーことを突っ込んでくると思ったんだよ!
お上品な態度が、この爺さん相手に長続きしたためしがない。人前ではお互いお行儀よく話していても、人目がないと一気に崩れる。
オルタンス様相手だったら、付き合いが長くなった今でも自然と敬語になるんだがな。
なんとなく、あの人相手に失礼な態度は取れん。
たまに「この人大神官より偉いんじゃねぇか?」と思うのは、絶対に俺だけじゃないだろ。
親父殿と同類の食えない爺さんを睨み付けながら、俺は茶をひと口飲み、気持ちを落ち着ける。
「しっかしアロイスの坊んが、まさか聖女様となぁ……しかもあんな可愛らしいお嬢さんに」
「しつけぇぞ。それ、セレスティーヌ本人に言うなよ」
「かか。わかっとるわかっとる。普段のおまえさんなら手ぇ出さんようなお嬢さんっちゅうことは、尻に敷かれとるんだろ」
……このジジイの頭、そこから離れる気がないようだ。
しかもあながち外れてはいないから、余計やりにくい。
睨み付けても飄々と笑う爺さんに溜め息を覚えつつ、俺はいったん湯呑みを置いた。
「そのセレスティーヌについて話しておきたいことがある。どういう経緯で彼女が俺達に接触し、今ここにいるのか――ざっと説明したが、あれはごく一部。表面を軽くさらった部分だけだ」
「ふむん? そんな感じはしとったがな。一部だけでも結構な内容だぞ?」
「もっとあるんだよ。いろいろな」
俺の声のトーンから何かを感じ取ったのか、グスタフ大神官は軽く姿勢を正し、身を入れて聞く体勢になった。
1,350
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる