聖女転生? だが断る

日村透

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お仕置きのお時間

158. 秘密を探したければまず霧を探せ (2) -sideアロイス

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 黒い霧に囲まれたその神殿の規模は、想像した以上に大きかった。
 セレストの神官達や避難した村人達は相当やつれてはいたものの、ぎりぎりで間に合ったらしい。
 本当に食い物が底を突いていたようで、これ以上遅れていたらどうなっていたか、想像すると恐ろしいがな。

 その地下で謎の壁画を発見した。
 セレスティーヌが泉に魔力を通すと、その魔力が水に触れていた魔石塗料を伝って発光する仕組みだった。
 水を通さずに魔力を放つだけでは、壁に届いたかどうかわからない。少なくとも、一般の魔法使い程度では無理だったろうな。
 水は魔力を素早く浸透させ、一定期間溜めておく性質がある。水系の魔法に適性があり、なおかつ保有魔力の多いセレスティーヌだからこそ、あの絵は浮き上がったのだ。

 しかし、あの地図はいったい誰が描いたのだろう?
 河の位置以外があまりにも正確で、以前俺が目にした地図にはなかったものまである。
 まるで上空から地上を眺めた、ミュリエルの視界のような地図だと思った。

 そのミュリエルに例の怪物の『本隊』を探らせたら、案の定、大きな群れが存在するとわかった。
 方角や距離を詳しく聞き出すと、神殿から北西の位置の、何がどうしてそこにあるのか不明な建物を示す印とほぼ一致している。
 知らなければ、ひとまずそちらの方向に進んでみようという話になったかもしれん。ミュリエルには感謝だな。

 しかし村人の話からしても、この土地の管理を任された責任者という奴が、どうにも怪しい。
 ミュリエルに手紙を持たせ、マティス陛下の元に送り出し、その日は一旦休むことになった。


 さて……

 
 部屋を準備できた者は、各自そちらに向かった。
 俺も自分用にあてがわれた部屋に戻り、深夜近くになると、エタンにグスタフ大神官を呼んできてもらった。
 あちらもそれを予想し、起きて待ってくれていたらしい。
 エタンには廊下で見張りを頼み、グスタフ大神官のみを招き入れる。

「こんな時間にすまんな、グスタフ様。そこにかけてくれ」

 ここは当時、上位神官の部屋だったと思われ、家具の質がそこそこいい。
 神殿内が瘴気に晒されていなかったもあり、椅子やテーブルなどもあまり劣化が見られなかった。
 あらかじめ用意してあった湯呑みから湯気が立ちのぼり、昼間より幾分明るくなった顔色で、グスタフ大神官はそれを見下ろした。
 
「おお、構わんぞ。どっこらしょ。――で、話っちゅうことだが、おまえさんはあのお嬢さんと進んどるんだ?」
「はっ倒すぞジジイ」
「なんだ、その話かと思ったわい」
「うるせぇ、白々しいぞ」

 絶対そーゆーことを突っ込んでくると思ったんだよ!
 お上品な態度が、この爺さん相手に長続きしたためしがない。人前ではお互いお行儀よく話していても、人目がないと一気に崩れる。
 
 オルタンス様相手だったら、付き合いが長くなった今でも自然と敬語になるんだがな。
 なんとなく、あの人相手に失礼な態度は取れん。
 たまに「この人大神官より偉いんじゃねぇか?」と思うのは、絶対に俺だけじゃないだろ。
 親父殿と同類の食えない爺さんを睨み付けながら、俺は茶をひと口飲み、気持ちを落ち着ける。

「しっかしアロイスのんが、まさか聖女様となぁ……しかもあんな可愛らしいお嬢さんに」
「しつけぇぞ。それ、セレスティーヌ本人に言うなよ」
「かか。わかっとるわかっとる。普段のおまえさんなら手ぇ出さんようなお嬢さんっちゅうことは、尻に敷かれとるんだろ」

 ……このジジイの頭、そこから離れる気がないようだ。
 しかもあながち外れてはいないから、余計やりにくい。
 睨み付けても飄々ひょうひょうと笑う爺さんに溜め息を覚えつつ、俺はいったん湯呑みを置いた。

「そのセレスティーヌについて話しておきたいことがある。どういう経緯で彼女が俺達に接触し、今ここにいるのか――ざっと説明したが、あれはごく一部。表面を軽くさらった部分だけだ」
「ふむん? そんな感じはしとったがな。一部だけでも結構な内容だぞ?」
「もっとあるんだよ。いろいろな」

 俺の声のトーンから何かを感じ取ったのか、グスタフ大神官は軽く姿勢を正し、身を入れて聞く体勢になった。


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