232 / 251
『元』聖女、行きたくないけど方向転換
232. 容赦なき女達の暴露 (4) -sideアロイス
しおりを挟む「メラニー様……これは、やっぱりそのぅ……そういう意味、ですかしら? 殿方が女性に、という、噂の……選ばれし者にのみ訪れる試練の予兆、と申しますか……違いますかしら? わたくし図々しい? 恥ずかしい勘違い女かしら?」
「まあセレ様ってば、うふふふふ……そ、れ、は、ね~」
やめろおおおおお!!
選ばれし者にのみ訪れる試練ってなんだ!!
じゃねえ、そうじゃねえ。これは贈った俺であろうと、こっそり盗み聞きしていいもんじゃねーだろ?
なのにエタンとヒューゴとリュカとコルネイユまでここにいて、目の前で全部聞いてるんだぞ!!
今まさにこの俺が試練の真っただ中なんだが!?
しかもこんな時に限って、俺達以外の宿泊客が示し合わせたように誰も来ない。
もとから客が少なかったとしても、皆無じゃなかったってのに。
あいつら、どこで何やって――っと、待て。今さら来られてもまずいぞ?
他の客があとからやって来て、「兄ちゃん達もくつろいでるか~?」みたいに声をかけてきたらどうする。
やばい、そうなったら完全に終わるぞ……!
「――!」
リュカが何やらはっとした。
どうしたんだと思っていたら、女湯のほうでぱしゃぱしゃ音が立った瞬間に合わせ、そろりと立ち上がる。
……あっ、あちらの音に合わせて出ればよかったのか。なんでこんな単純なことに気付かなかったんだ。
俺ら全員、軽くパニックになっていたな。
顔を見合わせ、同じ方法で続こうとしたが、リュカは目線と指話で『そのままそこにいろ』と止めてきた。
多人数で一気に動くと、さすがに不自然な音が立つからか?
するとリュカは足音を消して出口の近くまで行き、くるりとこちらを振り返って息を吸った。
「……っく~、温泉! これだよこれ、ひっさしぶりだな~!」
さも「たった今来ました」と言わんばかりに大声を張り上げた。
なかなか自然で堂に入った演技だ。客の前で「この商品マジでいいんすよ!」と宣伝する時の、とても感情のこもった声色を使っている。
――そうか! さすがだぜリュカ!
俺達全員を救える素晴らしい手段ではないか。
一瞬、自分だけ逃げる気かと疑っちまって悪かったな。
「――リュカ? もしやこの浴場、殿方の浴場と繋がってますの?」
「そうっすよ! セレ様も来てたんすね? いいでしょ、ここの風呂! ジゼルもいるんすか?」
「いるよ、あたしも」
「ええ、一緒に来ましたの。素晴らしいお湯ですわね!」
「ふふ。あたしもいるわよ~」
リュカは平然と水音を立てながら歩いてきて、「どぽん」と浸かる。
わざと大きく音を立てているのだ。さらにザバザバと掻きまわしたり、石床をぺちぺち叩いたりと、派手に音を立てた。
「親父、なかなかいい湯加減だぜ!」
「うむ、そうだなぁ。コルネイユ殿はいかがですかな? たまにはこういうのもよろしいでしょう」
「う、うむ。そうであるな……」
リュカとヒューゴの即興芝居に巻き込まれたコルネイユ。
しかし、向こうに女湯があるとなれば、こいつがぎこちなくなっても全然不自然じゃない。
「……生き返るな、頭領」
「……あ~。マジでな」
エタンと俺は心底から絞り出し、堂々と湯から上がった。
のぼせるかと思ったぜ。
向こうの奴らには、出たんじゃなくて『浸かった』のだと聞こえるだろうな。
「ま、まあ。皆様も入りにいらしたの?」
「セレ様、あたしらは身体洗いましょう」
「うふふふふ、そうねぇ。つやつやぷるんのお肌にしましょうね~」
おのれ、メラニー。覚えていろ――いや。
ここであったことは忘れろ。さっぱりとな!
967
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる