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『元』聖女、行きたくないけど方向転換
233. お風呂と旅路に強い味方
アロイス達がお風呂に入ってきてしまい、この耳飾りが選ばれし者にのみ与えられた試練の予感なのか違うのか、メラニーさんから答えを聞くことはできなかった。
「それにしても、びっくりしましたわ。殿方のお風呂と繋がっていたとは、思いもよりませんでしたの」
「そーだったんですか? ああいうのは結構よくあるんで、普通だと思ってました」
「大きい浴場だと結構あるのよねぇ。間を壁で区切って、湯船も別だけど、建物自体は同じっていうの」
「そうでしたの? 存じませんでしたわ」
そもそもこの世界に来て以降、複数人で入るお風呂の経験がなかったのだ。
水かお湯で身体を拭いたり、解毒魔法や浄化魔法をかけたり。いい宿に泊まった時は湯船に浸かれることもあるけれど、基本は自分ひとりだった。
でも前世を思い返してみれば、男湯と女湯が隣同士で、声をかけたら親兄弟から返事がくる……というのはあった気がする。
――水回りは基本的に一箇所に集中させる、というのがありましたわよね。そのほうが合理的という理由からだった気がしますわ。
男湯と女湯を完全に別棟で建てたら、多分そのほうがコストがかかり、宿の人間も見回りや清掃、お湯の準備その他で手間が増える。
国全体が豊かではないという事情があるのだから、節約できるところは節約するのが当たり前だった。
「わたくし、うっかりさんでしたわ。ですけれど、このような経験はとっても楽しいですわね」
「ですねぇ。特別感あって面白いですし」
「うっふふ。お肌もすべすべのつやつやになるものねぇ」
ジゼルはともかく、メラニーさんもずっとご機嫌だ。
よほどあの温泉がお気に召しているらしい。
――でも、お気持ちわかりますわね。この浴衣もとっても素敵ですもの。
異国情緒あふれる浴衣だ。自分の記憶にある浴衣とは見た目がまったく違うけれど、これはこれで可愛い。
ブーツではなくサンダルに足を通し、どこからどう見ても立派なお風呂上がりスタイルである。
「ジゼルさん、髪の毛を乾かしてあげるわね」
「お願いします!」
そうそう、メラニーさんが加わって一番助かるのがこれだ。
なんとメラニーさんは自分の魔法を調節し、濡れたものを早く乾燥させることができたのである。
これはジゼルみたいに、髪の長い仲間が感動していた。
アロイスも洗った髪を乾かすのに、自然乾燥だけでなく熱したコテみたいな道具を使っていて、それでもメラニーさんの魔法よりも時間がかかっている。
ここにいる三人の髪が乾くまでに五分あるかないかぐらいだから、相当な速さだ。
「これほんとに便利ですね。火の魔法の微調整は難しいって聞くのに、一流の腕前じゃないですかメラニーさん。なんでこっちの魔法はあんまり有名じゃないんですか?」
「それがねぇ、火って使い方を一歩間違えると危ないでしょ? 怖がられることが多いから、あえて前面には出してないのよ」
……心を読めて、やろうと思えば魂を消してしまえる解呪魔法使い、という肩書のほうが怖い気がするけれど。
目に見えて『危険』とわかる火のほうが、シンプルに忌避されやすいのだろうか。
扱いを間違えると危ないのは焚き火だって変わらないのに。
「そんなもんなんですか。一瞬で焚火ができるし、あたしらとしちゃ便利なものにしか見えないですけどねえ」
ジゼルも私と同様、「煮炊きの準備が楽になって皆が助かる」という感想しかないようだ。
首を傾げて、ふと思った。
――もしやこの感覚、世間一般の方々とはズレてますかしら?
魔法で鍋の湯を沸かしてはいけない決まりなんてないはずだけれど。
メラニーさんも不愉快そうには見えず、むしろいつもにこにこしているし。
「セレ様、そのお姿とっても可愛らしいわね。着心地はいかが?」
「お言葉嬉しいですわ。肌触りもさらりとしていて、とっても快適ですの」
メラニーさんのお姿は、とっても悩殺的だった。
ローブ姿でも危なかったのに、危険度が爆発している。
何故か「男性陣逃げて」と言いたくなるのが不思議だ。
「――そうだわ。アロイス様達は共有場所で熱を冷ましていると思うから、そちらに行かない?」
アロイス達はお風呂の時間が短めなのか、私達よりあとから来たのに、手早く身体を洗ってさっさと出てしまった。
だいたいは宿泊者の共有スペースで話している、みたいなことを言っていたし、行ってみようか。
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