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ついに皇国へ
84. 遠慮と書いてお断りと読みますの
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誤字脱字を教えてくださる方も本当に感謝です……! 助かります!
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うますぎる話は裏を疑え。
権力者の口にする「遠慮をするな」はうのみにするな。
それが前世と今世の両方を合わせた、現在の私の心得だ。
マティス陛下はどこか驚いたような、意外そうな顔で私を見返している。
私が喜んで承諾すると思ったのだろうか。
「良いのか? 今ならば、なんなりと望みを通すことができるぞ」
今なら特典として〇〇をお付けします、今だけのチャンスです! も簡単に飛びついではいけない。
大抵、もらった以上に何かを支払うハメになるのよ……!
「せっかくのご厚意を無下にしてしまい、まことに申し訳ございません。ただ、わたくしの望みは、皇宮という場所で叶えられるものではありませんの。そのことを、どうかご理解いただければと存じます」
正直一番怖いのは、私に断られたマティス陛下が前言を撤回し、激怒することだった。
非公式だから気楽にしろとか、ただの知人として接すればいいとか寛容な前置きをしておきながら、いざこちらがそのように振る舞えば激昂する者なんて掃いて捨てるほどいる。
だからといって、この申し出に曖昧な解答だけはしたらいけない。
嫌なものは嫌、ダメなものはダメだと最初にしっかり言っておかないと、結局は相手のいいようにされてしまう。
私を使い倒したロラン王国の人々と、このマティス陛下が違うかどうかなんて、そんな判断ができるほど私はこの人に詳しくないのだから。
「聖女であることを捨て、平民として生きる意味がわかっているのか? そなたに傅く者はいなくなり、そのように美しい装いなどもしていられなくなるぞ」
「まあ、ほほほほほ」
いけない、つい嗤ってしまった。
かなり悪役っぽい嗤い方をしてしまったせいで、マティス陛下だけでなくグレゴリーとアロイスまでぎょっとしている。
でも、仕方がないじゃない。
今の問いにはカチンときたのだから。
「傅く者、ですって? ええ、確かにおりましたわね。腰だけは低いのですけれど、お顔には『我が儘を仰らずこちらの命令通りになさってくださいませ聖女様』と書いている侍女ですとか。何やらよくないことが起これば、すぐにわたくしの祈りが足りないせいにする民ですとか」
「あ~、落ち着け?」
初めてアロイスが口を挟んできたけれど、一度プッツンした私の口は止まらない。
「あとは美しい装い、でしたかしら? ええそうですわね、装いだけは美しく整えられておりましたわ。なんと申しましても、あれは大切な制服なのですもの」
「制服……?」
「ええ陛下、聖女という役職のための制服……いいえ、役柄に相応しい舞台衣装ですわね。すなわち貸与品であって、わたくしの所持品など何ひとつありませんでしたのよ。休憩時間? 気分転換? 何ですのそれ、何か美味しいものですの? 日々の疲れなど、疲れていないフリで乗り切るものですのよほほほほほ」
マティス陛下とグレゴリーが目を丸くし、アロイスが額を手で押さえている。
私、ちょっぴり言い過ぎているかも?
でもいい。後悔はしていない。
だいたい、地位でも身分でも何でも叶えてあげるみたいなことを言ってくれてはいるけれど、本当にどんな望みを口にしても許されるわけがなかった。
ほとんどの人はそういう申し出をされた時、常識的な範囲におさまる願いを口にするものだろうし、相手だってそれを想定しているのが普通だと思う。
だからきっと陛下も、こちらが欲をかかずに控え目な願いにすることを、無意識に期待している。
皇帝陛下を相手にとんでもない望みなど口にできないと、半ば当然のように思って。
――むしろこちらが控え目であればあるほど、好ましく感じる御方かもしれませんわね。
慎ましく、清廉で、決して多くを望まない。それでいて一本芯の通った娘。
もしマティス陛下がそういう人間ほど好ましく感じるタイプの人だとしたら、仮に私が皇宮を選択すると、形を変えて再び我慢の日々が始まるということだ。
我を出し過ぎてはいけない。望みを言い過ぎてはいけない。
無駄な欲は控え、己を律し、まず何よりも皇宮の作法やしきたりその他を覚えなければいけない。
そう。
つまり。
私は、皇宮に入った聖女としての振る舞いを求められることになる。
もし陛下がそうしなくていいと許可をしても、周りの人々は「じゃあなんでこの女はこの皇宮にいるんだ」と不満に思うんじゃないの?
たいして役に立たない女を云々って、絶対そういう文句を言い出す人がいる。確実にいる。
そういう人達を黙らせたかったら、聖女として皇帝陛下にお仕えするという立場を明確にするのが手っ取り早かった。
――まっっっぴら、ごめんでしてよ……!!
私は、「あれが欲しいこれをやりたい」と、我欲全開で堂々と言える日々が欲しいんだから……!!
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