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ついに皇国へ
85. そもそも誤解があったようです
しおりを挟む「――これで、俺がお伝えしたことはご理解いただけたでしょう、陛下」
私が表向きお上品な笑顔で、内心ではフンス! と鼻息荒く胸を張っていると、アロイスの静かな声が割って入った。
「そもそも俺は、会って詳細を説明するともお伝えしたはず。なのに、到着するなり俺ではなく、本人に直撃などするからこうなるのです」
「う……む……」
静かだけれど、アロイスは少し怒っているような声だった。
マティス陛下はそれを咎めることなく、バツが悪そうな顔をしている。
直撃というか、呼び立てられたんだけれど。
お風呂にゆっくり入らせてくれたとはいえ、よくよく考えれば到着したその日のうちにこれって、あんまり常識的ではなかった。
事前の心構えだって、何もさせてくれなかったし。
「いや、坊主。あまり陛下に言ってやるな」
「親父殿も親父殿だぞ。あんたも止めずに様子見をしたかったんだろう?」
「まぁな。すまん。その通りだ」
こちらは少し苦笑いになっているけれど、「すまん」と言いつつ陛下よりも堂々として悪びれない。
それにしても、この会話は何なんだろう?
首を傾げた。
そもそもこの陛下は、アロイスからどこまで私のことを伝えられていたんだろうか。
私の困惑を察してか、アロイスは改めて説明してくれた。
「陛下や親父殿とは、ミュリエルを介しての連絡のみだった。――夜行鳥の運ぶ手紙の大きさ、おまえも何度となく見ただろう」
「ええ、もちろんですわ。このくらいの」
私の手の平を広げたぐらいの紙か、表面を加工して文字を書けるようにした布。
それを巻物にし、お腹側にかけた玩具みたいな小さなリュックの中に入れて運ぶ。
小さなものは運べるけれど、大きなものや重量のあるものは運べない。
飛べなくなってしまうから。
「おまえの事情やこれまでのことを、すべて書き切れる大きさではないんだ。まずは簡潔に事実のみを伝え、詳しいことは会ってからご説明すると伝えていたんだよ」
――読むのに支障のない大きさの文字で、あの紙に書くとなると、文字数がどうしたって制限される。
それにその手紙が『事故』で紛失しないとも限らないから、夜行鳥での連絡では、細かいことをたくさん書き過ぎないようにするものなのだそうだ。
アロイスは伏字を使い、ロラン王国の聖女が亡命希望であることを、まずはグレゴリー宛に伝えていたらしい。
理由は、ロランの王宮や大神殿で、ろくな扱いをされなかったため。
だから神殿に入ることは望まず、聖女ではない普通の暮らしを望んでいるようだとちゃんと伝えてくれていた。
ただし概要だけで紙は埋まり、細かいことはここに書ききれないから、詳細は直接説明させてもらうとも伝えたらしい。
なのに、こんなことになっている。
この部屋に入った時も思ったけれど、やはりこの展開はアロイスにとっても不服でならなかったみたいだ。
アロイスから受け取った連絡の中身を、マティス陛下に伝えたであろうグレゴリーも、さすがにバツが悪そうな顔になって頭をかりかりと掻いている。
「たとえ聖女とやらが、口ではおまえにそう望んだとしても、実際それがどこまで真剣かどうかわからん――陛下がそう仰ってな。悪いが、俺もそれには同意だった」
「お姫様の待遇を思い出させれば、心変わりをするかもしれないと?」
「そうだ」
グレゴリーはハッキリと頷いた。
つまり……
聖女セレスティーヌは、蝶よ花よと大切に育てられた箱入りの聖女様。
アロイスが私のことをそう思っていたように、彼らもまたそう思っていたのだ。
そしてロラン王国に新たな聖女が出現したことも、彼らは把握している。
どうせあの国の王は、より強い力を備えているとされる、新しいほうの聖女を王子の妃に迎えようとするだろう。
聖女セレスティーヌが国を出たくなった最大の理由とは、要はそれではないか。
世間知らずのお姫様が、王子との結婚を反故にされ、『ろくな扱いをされなかった』と不満を訴えているのだと。
そんなお姫様が『普通』の暮らしをしたいと言っても、あまり説得力はない。
長旅で疲れが溜まっているであろう直後に、何人もの召使いに世話をさせ、入浴に綺麗な衣装にとお姫様の待遇を与えれば、心が揺らぐのではないか。
さらに日を置かなかったのは、私に考える時間を与えないため。
アロイスと相談することで、準備をする時間を与えないためだった。
そのほうが、私の本音を引き出しやすいからと。
そしてアロイスには、私の話を聞くまでは口出し禁止と命じ、この場を設けた……ということだった。
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