悪役聖女に転生? だが断る

日村透

文字の大きさ
26 / 203
ついに皇国へ

85. そもそも誤解があったようです

しおりを挟む

「――これで、俺がお伝えしたことはご理解いただけたでしょう、陛下」

 私が表向きお上品な笑顔で、内心ではフンス! と鼻息荒く胸を張っていると、アロイスの静かな声が割って入った。

「そもそも俺は、会って詳細を説明するともお伝えしたはず。なのに、到着するなり俺ではなく、本人に直撃などするからこうなるのです」
「う……む……」

 静かだけれど、アロイスは少し怒っているような声だった。
 マティス陛下はそれを咎めることなく、バツが悪そうな顔をしている。

 直撃というか、呼び立てられたんだけれど。
 お風呂にゆっくり入らせてくれたとはいえ、よくよく考えれば到着したその日のうちにこれって、あんまり常識的ではなかった。
 事前の心構えだって、何もさせてくれなかったし。

「いや、坊主。あまり陛下に言ってやるな」
「親父殿も親父殿だぞ。あんたも止めずに様子見をしたかったんだろう?」
「まぁな。すまん。その通りだ」

 こちらは少し苦笑いになっているけれど、「すまん」と言いつつ陛下よりも堂々として悪びれない。

 それにしても、この会話は何なんだろう?
 首を傾げた。
 そもそもこの陛下は、アロイスからどこまで私のことを伝えられていたんだろうか。
 私の困惑を察してか、アロイスは改めて説明してくれた。

「陛下や親父殿とは、ミュリエルを介しての連絡のみだった。――夜行鳥の運ぶ手紙の大きさ、おまえも何度となく見ただろう」
「ええ、もちろんですわ。このくらいの」

 私の手の平を広げたぐらいの紙か、表面を加工して文字を書けるようにした布。
 それを巻物にし、お腹側にかけた玩具オモチャみたいな小さなリュックの中に入れて運ぶ。
 小さなものは運べるけれど、大きなものや重量のあるものは運べない。
 飛べなくなってしまうから。

「おまえの事情やこれまでのことを、すべて書き切れる大きさではないんだ。まずは簡潔に事実のみを伝え、詳しいことは会ってからご説明すると伝えていたんだよ」

 ――読むのに支障のない大きさの文字で、あの紙に書くとなると、文字数がどうしたって制限される。
 それにその手紙が『事故』で紛失しないとも限らないから、夜行鳥での連絡では、細かいことをたくさん書き過ぎないようにするものなのだそうだ。

 アロイスは伏字ふせじを使い、ロラン王国の聖女が亡命希望であることを、まずはグレゴリー宛に伝えていたらしい。
 理由は、ロランの王宮や大神殿で、ろくな扱いをされなかったため。
 だから神殿に入ることは望まず、聖女ではない普通の暮らしを望んでいるようだとちゃんと伝えてくれていた。
 ただし概要だけで紙は埋まり、細かいことはここに書ききれないから、詳細は直接説明させてもらうとも伝えたらしい。

 なのに、こんなことになっている。
 この部屋に入った時も思ったけれど、やはりこの展開はアロイスにとっても不服でならなかったみたいだ。

 アロイスから受け取った連絡の中身を、マティス陛下に伝えたであろうグレゴリーも、さすがにバツが悪そうな顔になって頭をかりかりと掻いている。

「たとえ聖女とやらが、口ではおまえにそう望んだとしても、実際それがどこまで真剣かどうかわからん――陛下がそう仰ってな。悪いが、俺もそれには同意だった」
「お姫様の待遇をれば、心変わりをするかもしれないと?」
「そうだ」

 グレゴリーはハッキリと頷いた。
 つまり……

 聖女セレスティーヌは、蝶よ花よと大切に育てられた箱入りの聖女様。
 アロイスが私のことをそう思っていたように、彼らもまたそう思っていたのだ。
 そしてロラン王国に新たな聖女が出現したことも、彼らは把握している。

 どうせあの国の王は、より強い力を備えているとされる、新しいほうの聖女を王子の妃に迎えようとするだろう。
 聖女セレスティーヌが国を出たくなった最大の理由とは、要はそれではないか。
 世間知らずのお姫様が、王子との結婚を反故にされ、『ろくな扱いをされなかった』と不満を訴えているのだと。

 そんなお姫様が『普通』の暮らしをしたいと言っても、あまり説得力はない。
 長旅で疲れが溜まっているであろう直後に、何人もの召使いに世話をさせ、入浴に綺麗な衣装にとお姫様の待遇を与えれば、心が揺らぐのではないか。

 さらに日を置かなかったのは、私に考える時間を与えないため。
 アロイスと相談することで、準備をする時間を与えないためだった。
 そのほうが、私の本音を引き出しやすいからと。

 そしてアロイスには、私の話を聞くまでは口出し禁止と命じ、この場を設けた……ということだった。


しおりを挟む
感想 307

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。