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『元』聖女、出発する
96. 最初の印象が大事
しおりを挟む数日後、とうとうモニークの町を発つことになった。
その間私はずっと総督邸で、お姫様みたいな待遇を受けていた。
どことなく、どことな~くそこに勤めている人々は、私が「やっぱりこれからもお姫様生活をしたいです!」と言い出すのを期待していたふしがある。
出発の予定時間を聞き、目を輝かせてはしゃいでいる私の姿に、とうとうあきらめたようだ。
皆さんに優しく迎えてもらったことは、もちろん感謝している。
この世界でも第一印象がとても大事と言うけれど、その点でこの町や町の人々は、私に最高の印象を残した。
まだ公表していなくても、私の容姿から『ロラン王国の聖女』だとわかるだろう。
それがアロイス達に連れられて来たとなれば、何がしか事情があるんだろうと察しはつくはずだ。
そこで私に冷ややかな疑いの目を向けるか、あたたかく迎え入れる態度を取るかは、彼らの自由だったはず。
ゴーティエ総督から「丁重に扱え」と命じられていたとしても、裏でこっそり冷たい態度を取ることはできただろうし。
だからといって、彼らが密かに望んでいたであろう『聖女セレスティーヌ』としてのお姫様生活を、この先もずっと続けていたいとは思わないんです。
ごめんね。
というわけで、私は旅生活ですっかりお馴染みの服を着ていた。
だけど、ちょっと違いがある。前の合わせとか、スカートの裾部分に花の刺繍が増えていた。
いつも着ていた服と型や色は基本同じなんだけれど、着替え用にとアロイスが何着か増やしてくれたのだ。
アロイスの隊商は、みんな清潔さと効率重視で着替えを一着ずつ持っている。これは珍しいことらしかった。
平民は衣類が一着しかない人が多くて、大きな隊商の場合でも、地位の高い人だけが服を豊富に持っているのが普通。
これは皇国やロラン王国だけじゃなく、ほとんどの国がそうなんだと聞いた。
でも実際、服を洗濯したばかりで裸の間は何もできない……なんてことになるぐらいなら、その間に着られる服を持っていたほうが効率がいい。
衛生面でも、数週間から何ヶ月も同じ下着で洗濯もしないなんて、想像したらぞっとするし。
ところで、今着ている私の服の花は、こちらの世界では初めて見る種類だ。
前世の白木蓮に似ているそれは、ウェルディエ皇国の国花で、マグノリアというらしい。
……絶対、木蓮でしょ。
前世の母の頭にあった『設定』がどこまで生かされているかは不明だけれど、これは私も母も好きな花だった。
平民でも使って構わない意匠らしく、男女ともによく使われるんだそう。
「よく似合っているぞ。着心地はどうだ?」
「アロイス様!」
こちらもいつもの服に戻ったアロイスが、部屋まで迎えに来てくれた。
貴人そのものだった彼の装いも素敵だったけれど、見慣れている姿を目にしたらホッとする。
実家に戻ったような気分とは、こういうものだろうか。
ロラン王国? あれは私の実家ではない。
「以前いただいたものよりも、とっても動きやすくて身体に合っている感じがしますの。もしや」
「おまえに合わせて寸法を直させた」
これまで着ていたのは、サイズの合う既製品をちょっと直した程度だった。
あれでも充分だったけれど、それらを改めて私のサイズにきっちり直し、花模様の追加もしてくれたらしい。
縫ってくれたのは、総督邸の召使いさん達だった。
お姫様衣装ではないから、そこまで手間も日数もかからなかったそうだけれど。
「まあ……本当に、どうお礼を申し上げたらいいかわかりませんわ」
「お礼など。どうかお気になさらず」
「お喜びいただけることが、わたくしどもへの褒美でございます」
上辺だけの言葉ではなく、心から私のためにそれを用意してくれたのを感じた。
自由に動きやすく、それでいて華美にならない範囲で、精一杯可愛らしくなるようにと。
じーんときた……。
またこの町に来る機会があれば、この人達にも会いたいな。
「おう、挨拶はすんだか? じゃ出発すんぞお嬢さん、坊主!」
「親父よ……だから坊主はやめろ!」
アロイスの背後から「がっはっは!」と声をかけ、あっさり空気をぶち壊したグレゴリー。
彼はそんな養父に苦情を言いながら睨み付けている。
――うーん、やはりこの親子の様子、小説とは違いますわね?
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