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ついに皇国へ
95. ひとまずこれからの予定は
しおりを挟むお忍び中とはいえ、やっぱりマティス陛下は威厳がある。
隊商の人々の服装を見慣れていた分、かなり豪華な装いに見えるけれど、多分これでも皇宮にいる時と比べたら控え目にしてあるんだろう。
高位貴族が知人の館をふらりと訪ねて来た、そういう姿にしてあるのかもしれない。
陛下は私に対しておっとりと接してくれる一方で、怒らせたら怖い人そうだな……という気もしていた。
精神面に余裕があるからそう簡単に怒らないだけで、何を言われても腹が立たないわけじゃない。
そんな最高権力者を相手に、あんな無礼な口をきいてしまったんだなぁと思い返したら、今さらながらひやっとする。
アロイスは私と同様、この総督邸にいる間は、貴人としての装いをしなければいけないみたいだ。
気品があって様になっているし、いつもとは違う格好よさがある。
でも、そういう装いと皇族のマナーが板に付いているところが、アロイスじゃないみたいで正直、ちょっと苦手だった。
――慣れていないから、そう感じるだけだというのは承知しておりますけれど。
和気あいあいとした雰囲気ではないものの、食事会は昨日より和やかな雰囲気だった。
相変わらずゴーティエ総督だけが寡黙で、ほとんど会話に加わらない。
でも皇族数名と一緒に食事なんて経験、人生で何度もあるものではないだろうし、実は内心ではものすごく緊張しているのかもしれない。
その食事の席で、マティス陛下とグレゴリーは、私を皇都に案内できなくてすまないと謝ってくれた。
つまり、「足を運ばなくてもいい」と言ってくれたことになる。
リュカの予想していた通りだった。
「もしあんたを皇都に連れて行ったら、あの手この手で引き留めようとする奴が確実に出てくるだろう」
アロイスは私に「悪いな」という顔をしていたけれど、とんでもない。彼が謝ることなんて何もないのだ。
いくら皇帝陛下がやめろと言い聞かせてくれても、私をなんとか囲い込めと、余計な手を回す腹黒貴族がたくさん湧きそうなのは目に見えていた。
マティス陛下は賢君っぽい雰囲気があり、決してその人達を抑えられないわけじゃないと思う。
でも賢君だからこそ、命令を聞かぬ者は片っ端から投獄せよ! なんてことができないのだ。
「その代わりといってはなんだが、陛下ご自身があんたの立場をウェルディエ皇国に属する者として、俺達の保護の対象であることを宣言する。ロラン王国の王宮を出奔したくだりも公表することになるが、それについては異論はないんだよな?」
「もちろんでしてよ」
保護だけしてもらって、あなた方とは無関係です、なんて通りませんからね。
私がきっぱり頷くと、アロイスだけでなくマティス陛下も頷いた。
「このままアロイスの一行とともに、国境沿いの街道を通過し、他国に向かうとよい。ただすまぬのだが、その道の途中にある大神殿に寄ってもらえぬか」
「大神殿に……ですの?」
神殿なんて、最悪の思い出しかない。
私がつい眉を顰めそうになっていると、アロイスがすかさず補足した。
「誤解してくれるな。ロラン王国とは本当に違う。むしろあちらの神殿のことを嫌っているし、俺達もよく旅の前には世話になっているんだ」
「あ……そうでしたわね。失礼いたしましたわ」
同じ神を信仰していても、神殿は国ごとに組織が異なるから、性格も異なっている――何度かそういう話をしたのに、つい苦手意識が先に立ってしまった。
「お嬢さんの生い立ちを聞くと、疑いたくなるのも無理もないわな。だからこそ、この国の大神殿に一切顔を見せずに通り過ぎられるのは困る。あんたはロラン王国だけじゃなく、女神エステルをも否定するつもりなんだっつう話になっちまうからな」
飄々としたグレゴリーの言葉が、一番説得力があった。
「――仰せの通りですわね。わたくしはあの国が嫌でたまらなくて出てきたのであって、女神への信仰を捨てる気などこれっぽっちもございませんのよ。むしろ、信仰心は強いほうではないかとすら思うぐらいですわ」
なんたって転生しましたし。
召喚聖女が来ましたし(こっちはこっちでニセモノっぽいけど)。
でも私が女神様のことを今でもちゃんと信じているんだと、知らない人からすればわからない。
そこでもし私が、この国の神殿を全部避けて通ってしまうと、「彼女は信仰をも捨てたんだ」と勘違いされかねなかった。
――最悪の場合ですと、神殿それ自体が聖女に否定されたと、そういう話に発展しかねませんわね。
アロイス達と懇意にしている、ちゃんとした神殿の人々までが疑いの目で見られることになってしまう。
どころか、この皇国だけでなく、世界中の女神の神殿がそうなりかねなかった。
私、あの国でろくでもない目に遭わされたんで出てきました!
でも女神様には常日頃から感謝してますよ!
聖女引退するけど信仰は捨てませんから!
道中では神殿巡りをして、これをせっせとアピールすることにしよう。うん。
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