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『元』聖女、出発する
105. 異なる国の大神殿
しおりを挟むセレストの大神殿は大きさの割に神官の数が少なく、空室がたくさんあるので、大人数の宿泊がらくらく可能になっているようだ。
もちろん大神殿の食材を食い尽くすわけにはいかず、それはこちらから宿泊料代わりに多めに渡すらしい。
「ほかの神殿でも、近くに宿が建っていないような場所とかだと、旅人を泊めてあげられるようにいくらかは部屋を空けてくれているもんなんですよ」
部屋に荷物を置きながら、ジゼルが「ありがたいことです」と笑った。
確かにそれは長旅をする者にとって、きっとこれ以上なくありがたいことだ。
おかげで隊商の大人数と、ゴーティエ総督の騎士達の全員が、雨の中で野宿することなく屋根の下で過ごせる。
身分によって部屋のグレードを変えるということはなく、当たり前にみんな相部屋で、私も普通にジゼルと一緒の部屋が割り当てられていた。
ちなみにロラン王国の神殿はどこも、身分の高い人間でなければ泊めてあげないのが常識。
寄付という名の金銭を払えば、商人が泊まることもできたそうな。
ほんと生臭い人達だったわぁ……。
それにしてもちょっとの距離とはいえ、初の笠を体験できたし、自分が神殿の宿泊客になるのも初めて。そしてジゼルとお泊まりができる!
この一日だけで既に、私史上最高に楽しい経験が目白押しだ。
ジゼルと二人で、二台ある寝台のうちどっちを使う? あたしこっちー! じゃああたしこっちねー! みたいにきゃっきゃしていると、ドアが軽く慣らされた。
「すまん、ちょっといいか」
「アロイス様? どうなさいましたの?」
彼だけでなく、オルタンス神官長の気配もする。
ジゼルがささっとドアを開けてくれると、そこにはアロイスと、やはり神官長の姿もあった。
「お疲れでなければ、当神殿をご案内してさしあげたいと思うのですけれど、いかがでしょうか?」
先ほどよりも緊張のほぐれた様子で、オルタンス神官長はそう提案してくれた。
ジゼルにも微笑ましそうなまなざしを向けているところを見ると、先ほどのきゃっきゃが聞こえていたのかもしれない。
「セレ様は他国の神殿をよくご存じないと伺っております。お疲れでしたら、無理にとは申し上げませんけれど」
「ここに着いたらそうしてほしいと、俺がオルタンス様に頼んどいたんだ。世界中の神殿がここと同じってわけでもないが、参考にはなるだろう」
「まぁぁ……是非! こちらからお願いしたいぐらいでしてよ……!」
私の知らない『一般的な』神殿の姿には、めちゃくちゃ興味があった。
それにオルタンス神官長は疲れを気にしてくれたけれど、むしろ馬車での移動後は歩きたいのである。
グレゴリー提供の馬車は、いつもの荷馬車よりも立派なつくりをしてはいたものの、私が大事にされているアピールを優先しているため居心地があまり良いとは言えない。
まぁ我慢してくれや、とグレゴリーも苦笑い気味に詫びていたから、彼もそのあたりはよくわかっているのだ。
気楽に過ごしにくい乗り物の中は、それだけで身体が緊張を強いられる。
節々がカキコキ鳴りそうな状態なので、もしアロイス達が来なければ、ジゼルとお散歩しようと思っていたぐらいだ。
「とても嬉しゅうございますわ。ご迷惑でなければ、是非よろしくお願いいたします」
「ふふ。それでは、参りましょうか」
以前エディットのことを「この人こそ聖母では?」と思ったことがあるけれど、このオルタンス神官長も種類の異なる聖母に見えてきた。
どちらかといえば痩せ型の女性なのに、全身から滲み出るあたたかみと、どっしりとした包容力がすごい。
「ところで、オルタンス様。不躾な質問で恐縮ですけれど、大神官様はどちらにいらっしゃるのかしら?」
大神殿のトップは大神官。大神官より上の地位はない。
ただしロラン王国では、都にいる大神官が事実上の最高位だった。
食わず嫌いで避けるのも失礼だし、神官長や周りの神官がこの雰囲気なら、嫌な人ではないはず。
もし不在でなければ、挨拶をしておかなければいけない……と思ったのだが。
「あの方は現在、所用にてしばらく不在なのです」
「予定ではそろそろここに帰っている頃だろう? 随分と長引いているな」
「ええ……」
アロイスとオルタンス神官長の会話に、かすかな含みを感じた。
これ、私が深く尋ねてしまっていいのだろうか。
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