128 / 251
未知の瘴気
128. 少人数で神殿探索
しおりを挟む「この者はトマス。水の浄化魔法を使える神官です。トマスよ、セレ様達にこの神殿を案内してさしあげなさい」
紹介されたのは、二十代半ばぐらいの真面目そうな神官だった。
「はい、グスタフ様。――改めてご挨拶申し上げます。私はトマスと申します」
聞けば、どうもこの人物が霧の中を途中で引き返した神官だったらしい。
「お疲れのところすまないな、トマス神官」
「いいえ。私は皆様がこちらに到着される前、交代で睡眠を取っておりましたのでお気遣いは無用にございます。さっそくご案内いたしましょうか? それともお食事を先に?」
「夕食は案内のあとでいいと思うが。――あんたは腹が減っているか?」
アロイスは後半、私を見下ろしながら確認した。
私はそれに首を横に振って答える。
「今はさほどすいておりませんの。アロイス様の仰るように、先にざっと案内していただきたいと存じますわ」
「――ということだ。頼めるか?」
「かしこまりました。では、さっそく参りましょう」
トマス神官が先に立ち、次にアロイスと私が続いて神殿の中を回ることになった。
ジゼルとリュカもついてこようとしたけれど、アロイスが片手を挙げて二人を止める。
「おまえらはエタンを手伝って、今夜泊まる部屋の用意をしておけ」
「えぇ~っ」
「了解っす。ほら行くぞジゼル。完全に日が暮れちまう前に、セレ様が寝る部屋を用意しとかなきゃだろ」
「うっ。わかったよ……」
「ごめんなさいね、ジゼル。リュカもありがとう」
「いいっすよ」
ジゼルには申し訳ないけれど、うっかり重要なものを見つけた時に、知る人は少ないほうがいい……ということもないとは言えないのだ。
心の中で「ごめんね」と手を合わせる。
「それでは、わしは一旦ここで休ませていただくといたします」
グスタフ大神官はそう詫びつつ、残念そうなジゼルとそれをなだめるリュカを伴い、祈りの間の方向へ歩いて行った。
大きな神殿はどこも基本は似たようなつくりで、玄関にあたる階段を上がって入り口から入ると、そこに参拝者の待機する広間ような場所がある。
そこから大扉をくぐって中に入れば、またそこには広間があり、大きな女神像が見おろす祭壇があった。
そこが一般の参拝客用の祈りの間だ。今私達がいるこの中庭は、その祈りの間のちょうど裏側にあり、歩いて三十秒もかからない。
グスタフ大神官達をはじめ、避難してきた人々は皆、祈りの間で寝泊まりをしているらしい。
埃を吸い込むのは身体によくないと彼らも気にしていて、軽く拭き掃除などもしてあるそうだ。
「それだけでなく、村人達が備蓄用の食糧をよく保管していたために、もとからそこまで汚れてはいなかったそうです。女神様が食べ物を守ってくださると、そういう考えだったようですね」
「気持ちはわかるが。女神も大変だな」
アロイスの小声の皮肉に、トマス神官は苦笑したようだ。
私も、「食べ物の保管まで面倒見てあげなきゃいけないなんて女神様大変そう」と、これまで幾度となく変な祈りを捧げてきた自分を棚に上げ、ちょっぴり同情を覚えてしまった。
「食い物はともかく、ほかの部屋は使えなかったのか? 女性も全員、祈りの間にいたようだが」
「部屋はあるにはあるのですが、万一を考えると全員が一箇所にいたほうがいいと判断したのですよ。女性達だけが別室を使い、そこで何か事故でもあった時に、駆けつけるのが遅れてしまいますゆえ」
「……古い建物ですし、外には怪しげな獣もおりましたものね。この神殿内には入り込めないと思いますけれど」
私達は見張りとしても護衛としてもプロな騎士達がいるし、隊商の仲間達もみんな腕に覚えがあるから、近隣の村の人々とは状況がだいぶ異なる。
相槌を打ちながら口にすると、トマス神官は軽く振り返って眉を顰めた。
「やはり、外に何かいたのですか」
「ええ。アロイス様や騎士の方々が退けてくださったので、事なきを得ましたの」
「変異した獣が、定期的に一、二匹近付いて来たのさ。こちらの様子見をしていたから、背後に群れが控えていたのだろうと思う。寄ってくる奴をすべて葬ったらあきらめたのか、様子見にも来なくなったぞ」
「そのようなことがあったのですね……」
トマス神官は服の上から腕をさすった。
強引に突き進まず、戻る選択をしたおかげで命拾いしたのだと理解し、鳥肌が立ったみたいだ。
「セレ様、どちらへ?」
私達が奥へ向かおうとした瞬間、祈りの間に続く出入口で待機していた騎士が声をかけてきた。
「これからこちらのトマス神官に、神殿内を案内していただきますの」
「さようですか。……わたくしも同行いたします」
後半、騎士はアロイスの顔を見ながら言った。
「――彼も連れていく。構わんだろう?」
この国での私の保護者はアロイスであり、騎士達は少なくとも『この国を出るまでは』私の身を守るようにと命じられている。
それはゴーティエ総督の、ひいては皇帝陛下の意思だ。
「そうですわね。お一人でしたら。トマス様、よろしいですわよね?」
「もちろんでございます。あなた様の御心のままに」
1,690
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる