聖女転生? だが断る

日村透

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未知の瘴気

128. 少人数で神殿探索

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「この者はトマス。水の浄化魔法を使える神官です。トマスよ、セレ様達にこの神殿を案内してさしあげなさい」

 紹介されたのは、二十代半ばぐらいの真面目そうな神官だった。

「はい、グスタフ様。――改めてご挨拶申し上げます。私はトマスと申します」

 聞けば、どうもこの人物が霧の中を途中で引き返した神官だったらしい。

「お疲れのところすまないな、トマス神官」
「いいえ。私は皆様がこちらに到着される前、交代で睡眠を取っておりましたのでお気遣いは無用にございます。さっそくご案内いたしましょうか? それともお食事を先に?」
「夕食は案内のあとでいいと思うが。――あんたは腹が減っているか?」

 アロイスは後半、私を見下ろしながら確認した。
 私はそれに首を横に振って答える。

「今はさほどすいておりませんの。アロイス様の仰るように、先にざっと案内していただきたいと存じますわ」
「――ということだ。頼めるか?」
「かしこまりました。では、さっそく参りましょう」

 トマス神官が先に立ち、次にアロイスと私が続いて神殿の中を回ることになった。
 ジゼルとリュカもついてこようとしたけれど、アロイスが片手を挙げて二人を止める。

「おまえらはエタンを手伝って、今夜泊まる部屋の用意をしておけ」
「えぇ~っ」
「了解っす。ほら行くぞジゼル。完全に日が暮れちまう前に、セレ様が寝る部屋を用意しとかなきゃだろ」
「うっ。わかったよ……」
「ごめんなさいね、ジゼル。リュカもありがとう」
「いいっすよ」

 ジゼルには申し訳ないけれど、うっかり重要なものを見つけた時に、知る人は少ないほうがいい……ということもないとは言えないのだ。
 心の中で「ごめんね」と手を合わせる。

「それでは、わしは一旦ここで休ませていただくといたします」

 グスタフ大神官はそう詫びつつ、残念そうなジゼルとそれをなだめるリュカを伴い、祈りの間の方向へ歩いて行った。
 大きな神殿はどこも基本は似たようなつくりで、玄関にあたる階段を上がって入り口から入ると、そこに参拝者の待機する広間ような場所がある。
 そこから大扉をくぐって中に入れば、またそこには広間があり、大きな女神像が見おろす祭壇があった。

 そこが一般の参拝客用の祈りの間だ。今私達がいるこの中庭は、その祈りの間のちょうど裏側にあり、歩いて三十秒もかからない。
 グスタフ大神官達をはじめ、避難してきた人々は皆、祈りの間で寝泊まりをしているらしい。
 埃を吸い込むのは身体によくないと彼らも気にしていて、軽く拭き掃除などもしてあるそうだ。

「それだけでなく、村人達が備蓄用の食糧をよく保管していたために、もとからそこまで汚れてはいなかったそうです。女神様が食べ物を守ってくださると、そういう考えだったようですね」
「気持ちはわかるが。女神も大変だな」

 アロイスの小声の皮肉に、トマス神官は苦笑したようだ。 
 私も、「食べ物の保管まで面倒見てあげなきゃいけないなんて女神様大変そう」と、これまで幾度となく変な祈りを捧げてきた自分を棚に上げ、ちょっぴり同情を覚えてしまった。

「食い物はともかく、ほかの部屋は使えなかったのか? 女性も全員、祈りの間にいたようだが」
「部屋はあるにはあるのですが、万一を考えると全員が一箇所にいたほうがいいと判断したのですよ。女性達だけが別室を使い、そこで何か事故でもあった時に、駆けつけるのが遅れてしまいますゆえ」
「……古い建物ですし、外には怪しげな獣もおりましたものね。この神殿内には入り込めないと思いますけれど」

 私達は見張りとしても護衛としてもプロな騎士達がいるし、隊商の仲間達もみんな腕に覚えがあるから、近隣の村の人々とは状況がだいぶ異なる。
 相槌を打ちながら口にすると、トマス神官は軽く振り返って眉をひそめた。

「やはり、外に何かいたのですか」
「ええ。アロイス様や騎士の方々が退けてくださったので、事なきを得ましたの」
「変異した獣が、定期的に一、二匹近付いて来たのさ。こちらの様子見をしていたから、背後に群れが控えていたのだろうと思う。寄ってくる奴をすべて葬ったらあきらめたのか、様子見にも来なくなったぞ」
「そのようなことがあったのですね……」

 トマス神官は服の上から腕をさすった。
 強引に突き進まず、戻る選択をしたおかげで命拾いしたのだと理解し、鳥肌が立ったみたいだ。

「セレ様、どちらへ?」

 私達が奥へ向かおうとした瞬間、祈りの間に続く出入口で待機していた騎士が声をかけてきた。

「これからこちらのトマス神官に、神殿内を案内していただきますの」
「さようですか。……わたくしも同行いたします」

 後半、騎士はアロイスの顔を見ながら言った。

「――彼も連れていく。構わんだろう?」

 この国での私の保護者はアロイスであり、騎士達は少なくとも『この国を出るまでは』私の身を守るようにと命じられている。
 それはゴーティエ総督の、ひいては皇帝陛下の意思だ。

「そうですわね。お一人でしたら。トマス様、よろしいですわよね?」
「もちろんでございます。あなた様の御心のままに」


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