天の求婚

紅林

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本編

進む会談と黒い影

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 会議は意外にも上手く進んだ。
 チュロックの代表であるセポス・ダーラバは太平天帝国が希望したチュロック国内にあるいくつかの油田の買い取り、国営企業もしくは各財閥に管理させる旨の提案に同意すると頷いた。そしてセポス・ダーラバはその見返りの条件としてチュロックの独立後は帝国に対する片務的最恵国待遇の撤廃と今後十年の資金援助を取り付けた。そしてチュロックにとって記念すべき独立の日は半年後の五月中頃に決定した。

 (本音を言えば資金援助は断りたかったけど、ダーラバ卿は強気の姿勢だったからなぁ)

 休憩無しの五時間以上にわたる会議のおかぜで疲れきった大貴は会議室を出てすぐの廊下で背伸びをした

「閣下、本当によろしかったのですか?」
「何がですか?」

 背伸びをしながら歩く大貴のすぐ後ろに小走りで近づいてきた二階堂夫人がそう言った

「最恵国待遇の撤廃です。ンドバとラートコは来週から独立に関する会議が開かれますわ。あちらとも足並みを揃えなければならないのでは?」

 大貴は夫人に視線を移した。
 第一印象は気の強い人だったが会議で五時間だけだが仕事を共にして分かったことがある。彼女は非常に優秀な人材であり本来であれば大貴よりもこの使節団の団長として相応しい人物であるということだ。純血ゆえにプライドは高いようだが筆頭管理官という重要な役職を任せられているだけはあるようだ。

「夫人はそう思いますか?私は逆に今後十年の資金援助の方が失敗かと思いましたが……」
「資金などどうとでもなりますわ。植民地管理院は毎年予算が余っていたくらいですもの」
「しかし余計な支出と本国に言われないか不安です。財務省はいつも国庫の口を弛めませんから」
「……私にあれだけ真っ向から口を聞いてきた割には財務省に怒鳴り散らしに行く勇気はありませんの?」

 夫人は呆れ気味に大貴をみて、ため息をついて早歩きで離れて行った

 (いやそれは貴女だから出来ることです!)

 夫人の生家の鷹屋敷家は千年以上前から朝廷で『大蔵卿』の称号を世襲してきた一族だ。現在職位の世襲は禁じられているがそれでもなお財務省に太いパイプを持ち続けている。
 そんなことを考えながら休憩室の扉をあけてソファーに腰掛け休息をとっていると、ここの職員の男が入室してきてスマートフォンを大貴に差し出した

「本国よりボイスメッセージが新田卿あてに送られてきています。すぐにご確認を」

 わざわざ本国からの連絡ということは重要事項の可能性が高い。大貴は崩していた姿勢を元に戻した

「……流してくれ」
「……」

 職員の男がボイスメッセージの再生ボタンをタップすると少し生活音のような音が混じった音声が再生され始めた

『こんばんは子爵、いやここでは大貴と呼ぼうか』
「「!?」」

 なんとスマートフォンから流れて来た音声は大貴もよく知る人物、いや帝国で最も有名と言っても過言ではない人物の声だった。

「陛下!?」
『そっちは大変だろうがしっかり励んでくれ。森田総督も二階堂夫人も父上が信頼していた忠臣だ。二階堂夫人は多少性格に難アリ……おい睨むな男爵』
 (まさか隣に二階堂男爵もいらっしゃるのですか!?)

 一応大貴と蒼士の婚約は帝国上層部のごく一部の人間しか知らない事実だ。二階堂男爵に教えて良いのだろうかと疑問に思うのも無理は無い

『あ、公表されていないが二階堂男爵夫人は私が中学生の時に公用語の家庭教師をして貰っていたことがあってそれ以来交流が続いている。だから婚約のことも知っている。夫人を使節団の一員として大貴と一緒に行かせたのは事情を知っているという意味もあるんだ』
 (なるほど)

 大貴自身も少し不思議に思っていたのだ。二階堂男爵夫人は筆頭財政管理官という肩書きを持つ事務型の高官だ。植民地に直接出向くことはあまりないはずなのだ

『ということだからもし何かあったら夫人か総督を頼るんだ。体調には気をつけて励んでくれよ。ではおやすみ。良い夢を』
「……」

 録音された音声なので話が終わるとすぐに再生は終了した。スマートフォンを差し出していた職員の男は気まづそうにそれをジャケットの胸ポケットにしまった

「……君はここで何も見ていないし聞いていない。分かった?」

 大貴は無言で礼をして立ち去ろうとした男に向けてそう言った

「子爵閣下のご意志のままに」

 男は冷や汗が背中を伝うのをひしひしと感じながら恭しく礼をしたのだった


 ◆◇◆


 帝都・江流波直轄市某所

「我々は貴方様のお言葉さえあればいつでも動き出しますぞ!」
「今こそ大天族と純血どもに鉄槌を下すのです!」

 話の和の中心にいる人物は拳を握りしめた

「計画は必ず成功させなければならない」

 その一言に周りの面々は深く頷いた

狼蘭ろうらんの民よ、今こそ我らの魂を捧げる時だ。計画を実行にうつす。心してかかりなさい!」
「「「「「はっ!」」」」」

 何やら怪しい影が帝都でも動き出していた
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